槍は便利で厄介で Ⅱ
互いの得物が衝突する。
「――ぐっ」
思わず声が漏れ出た。
重い。WJOで経験したなかでは最も。
これは真っ向からは受けていられない。
――斬法 流水
ギリギリ身体一つ分だけ隙間をつくって槍の一撃をやり過ごす。未だ正体不明の違和感は在るが、今はそれを気にしている余裕はない。
身体を捻って、一閃。
けれども、そこにカルネイジはもういない。
「流石に鬼族は速いね」
「お前にだけは言われたくねえな。まあ、腐っても鬼なんでな」
鬼族のステータスはかなり歪だ。
まずSTR、VIT、AGI、DEXに1.5倍のボーナスが入る。
反面INT、MNDは4レベルに1しか上昇せずに、ステータスポイントを振ることが出来ないというかなりのデメリットがある。
熊の獣人のハイリスク・ハイリターン版とでも言うべきかな。
個人的には魔法とかを使う気がないのなら、強力だと思う。
魔法に一回でも当たったらヤバいけどね。
目の前のカルネイジのレベルを30と仮定すると、ポイントを除いても、
STR、VIT、AGI、DEXは45。もう強い。
スキルとかポイントとかを合わせて考えると、4つの物理ステータスは1.5(レベル+ポイント+スキル)は確定する。そこにジョブや装備とかも追加されると、最早手に負えない。
魔法を撃てばいいと思うだろう。
確かに鬼族の魔法耐性は紙だ。でも、当たらなければどうという事はない。
総括すると、純情たる物理の塊。それが鬼族だ。
その攻略法は、単純だ。
より強力な物理で叩き潰すこと。
――で、それが私に出来るかと言うと、
「ハッハァーー! 鈍いんだよォッ!」
全く出来ていない。言い訳にしかならないが、先のボス戦での疲労(精神的な)がまだ残っていて、フルスペックを発揮できていないとは言え、ここまでいいようにされるのは久々だ。
私は、防ぐのに手一杯。ステータスの暴力とでも言うべきな攻撃の連鎖。それを辛くも防いではいるが、攻勢に出られない。
無理やり突撃したところで、カルネイジの私と同等レベルのAGIですぐに退かれたら、それまで。
一瞬の隙きに最大火力をねじ込みたいけど、そもそも隙きがあったとしてもステータスで強引にそれを埋め立てている。加えて、VITが高く私ではろくにダメージを与えられない。
毎回深刻な火力不足だな、私。
突く。流す。払う。避けて衝く。躱して再度突く。
幾度となく攻防を繰り返す。千日手のような戦闘。
それは即ち私のジリ貧を意味する。掠る一撃一撃での消耗は断然私のほうが多い。
だから、それを強引にでも断ち切る必要がある。
「――ハアァァッ!」
――斬法 地嵐
一瞬すらない程の僅かな隙き、基本的に防御を優先していたが、ここぞとばかりに懐に飛び込む。槍を力尽くで打ち払う。それにより、カルネイジの左手は離れた。
後退しながら、体勢を整え、槍を構え直そうとする。
でも、槍に意識を取られ過ぎだよ。
構えは再度上段、狙うは、咄嗟に片手で槍を持ち上げる右手首の籠手。
「ゼエァァアアッ!!」
――斬法 地嵐・相生
初撃の地嵐を防がれた場合に、即時刃を上に跳ね上げて、もう一度地嵐を振り下ろす。
この一撃を以て、カルネイジの槍をふっ飛ばした。
これで漸く最初のクリーンヒットが入る。
――歩法 嚆矢
一瞬の内にトップスピードに持っていく。
最短距離を駆ける私の刃を前にカルネイジは片手をあらぬ方向へと向けた。
それで何が出来るわけもない。
私は、刀を振り切る。
「――甘ぇよ」
だが、そんな私を嘲笑うように、カルネイジは獰猛な笑みを深める。
ガキンッ!!
それは本来ありえない音。
それは互いの得物の音。
何故か、ふっ飛ばしたはずの槍はカルネイジの手に収まっており、私の正近を受け止めていた。
「チイィッ!」
「お返しだ、よっと!」
瞬間、悍ましいまでの衝撃が身を襲った。
咄嗟に身を引こうとした私の腹部に、当初のお返しとして、蹴りが叩き込まれる。
「――ぐうぅっ…………!」
ただの蹴りの一撃で、私のHPの実に4割を抉り取る。
先程飛ばした槍以上にふっ飛ばされて、ギリギリで受け身を取って、身体を跳ね上げる。
そこに迫るは、己を突き殺す凶刃。
なんとか弱点部位だけは回避しようと、流水を放とうとした私の頭を一矢の激痛が駆け抜けた。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
とうとうですねぇ。




