Function:Semiauto Fire Ⅲ
牙壊を放った反作用を利用して、私は大きくボスキノコから距離を取った。
敵のHPが50%を下回ったために、行動パターンの変化が見られるはず。
それが無くても、多分バフくらいは掛かるだろうからね。
一旦様子見をすべきだと思う。
ゲームなんだから、多少の危険にも玉砕覚悟で飛び込むべきなんだろうけどね、配信者としても。
…………でも、でも、あの虫虫パニックを通ることを考えると、死んだら、ある意味終わりだ。
もう二度と行きたくないし、見たくもない。
それはそれとして、ボスキノコは、みしみしと音を立てながら、その冒涜的な見た目の身体を変形させていく。
より、多く。
より、強く。
先程までよりも、触手を太く多くしたボスキノコの姿がそこにはあった。
「……なんで、更に気持ち悪くしたの…………?」
運営側の思考回路がまるで読み取れないよ。
全年齢向けのゲームで名状し難い感じの奴はだめでしょうに……。
『どんどんキモくなる』
『最早草』
『ラピスの目が濁っていってる気が……』
『どっちかと言うと、据わっていってる?』
あっはっは、VRで目が濁るように感情表現は出来ないよ?
そして、目が据わるなんて、そんなそんな…………、視界にもう入れたくないから、一秒でも早く消そう。
――歩法 迅雷
速攻で詰める。どれだけ強化された攻撃であろうと、当たらなければ良いんだから。そもそも攻撃させなければ良いんだよ。まあ、それ以前に攻撃が強化されたのかどうかは不明だけどね。
「――――」
押し寄せる触手。その数は以前よりも多く、そして速い。
斬り捨てて、強引に道を作った私の視界にあるのは、いくつもの魔法。
毒々しい水魔法(便宜上、毒魔法とでも呼ぶべきかな?)の数も先程よりも多い。
「――チィッ……!」
自身の身体を囮にした二段構えの攻撃。『対魔斬』で切り払い、身体を後ろに放り込んで、なんとか回避する。魔法が残留しなくて良かったと思う。地面に当たっても変化が見られず、草木には影響が出ている辺り、有機物限定でダメージが入ると見るべきかな。
これは簡単には詰められないかな……。魔法は兎も角、触手の方は軌道が直線だけじゃなくて、カーブなどの軌道変更も出来るみたいだし。
それに行動パターンの変化でより戦略的になったのなら、かなりの強敵になりそう。
再度放たれる魔法の数々。
その数は、10に昇る。それも順序、タイミングは不規則。
それに加えて、変幻自在の触手が魔法の隙きを埋めてくる。
魔法を局所的に、触手の出来る限りを、切り払いながら、一歩一歩距離を詰める。
触手も一応ボスキノコの一部だからなのか、切るとちょっとだけダメージが入るけど、本当に微々たる量でこれで倒し切るのは、多分数時間掛かる。
流石にそれは無理。その前に死ぬ。
魔法が用意されているのは分かっても、触手が邪魔して発生の順番が確認出来ない。発生順で魔法が放たれるのは、これまでの戦闘で分かっているのに、そもそもの発生が分からない為、どうしようも無い。
瞬間的にそれらを把握するには触手が邪魔で、触手に対処するには魔法のタイミングを掴まなければならない。最早詰んでいると言っても、過言ではない。
この最悪レベルの状況をどうにかすることが出来るか、否か。
それに対する私の答えは、少なくとも二年前は可能だった、だ。
現状それが出来るかは不明。
最期に同様の手を打ったのは、それこそ三年近く前で、当時と比較すると必要な能力は低下しているのだから。
いや、情報を限界まで削ぎ落とせば、なんとか………。
仕様が無い。
ここ数年最大の賭けになるね。
まあ、賭けに飛び込んでこそ、かな。
「――――」
触手を雑に斬り捨てて、バックジャンプ。
息を大きく吸い込んで、そのままゆっくりと吐き出す。
意識を切り替えろ。
私の目に映るべきは、数字だけで良い。
「『Function:Semiauto――」
見るのは、最小限で良い。
ただ世界を数式に叩き込め。
切り替わりつつある意識を、脳を、一気に吹かす。
「――Fire』」
世界が反転し、私の内を駆け巡った。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
瑠璃の素のスペックがどんどんバグっていきますね!
まあ、しょうがないですよね(開き直り)。




