魔法を超えろ
「――どう? 似合ってる?」
くるりと、羽織を広げて回ってみる。袴も遠心力でついでに広がって、水浅葱と深縹とが円を描く。
全体の重量自体は少し重いけど、見た目や性能は大満足。後は、蒼狗装束・碧兎で何処まで戦えるか、だね。
『似合ってる似合ってる』
『全身真っ青』
『統一感あって好き』
『籠手のゴリゴリに殴りに行く感じ良い』
『……ゴリラ(ボソッ』
『ゴリラは頭良いんだぞ!』
「誰が、脳筋だ。誰が!」
全くもって、失礼な視聴者達だよ。
普段から割と頭使って生きてるのにさ。
とりあえず、歩みを進める。第二の街の北側に。
そう、あの虫虫パニックの北側に。
『そっち虫エリアじゃね?』
『自ら苦手な所に突っ込んでいくスタイル』
「いや、私も好き好んで行くわけじゃなくてさ、虫がいっぱいいる所抜けるとね、魔法を使うモンスターが出てくるようになるみたいで、そこに第三の街に行く為に倒さなくちゃいけないボスがいるらしいんだよね」
まあ、そのエリアで対魔法戦闘を行なおうという事。
サニーに頼んでも良いのかも知れないけど、対単体じゃ意味が無いでしょ。属性も火と風だけだし。
「私は、自分で言うのも何だけど、近距離戦の防御とかは出来る方だけど、魔法への対応能力は無いからね。ちょっと、試しに戦ってみようかな、って」
『これ初日で装備だめになるのでは……』
『そこのエリア火魔法使うやついますね』
『布系装備の弱点:火』
『PVPであんな避けてた癖に』
『あれで対応能力無い』
『こっちの立場がねえよ』
……あれ? 何か非難されてない?
「私が言ったのは、私にとっての話だよ。私が対応する場合、魔法の方が手段が無いから、それを見つけたいなってことだよ」
これ言うべきじゃないけど、視聴者さんの能力的なのは割とどうでもいいんだよ。そもそもビルド(キャラクターのステや武器種)によるところが多いからね。
盾を持てる武器なら防御すれば良いけど、それ以外だと防げないからね。強いて言うなら大剣とかだと防御性能があるとか、ないとか。
まあ、良いや。今から対応は確認しにいくんだから。
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「――ぎゃああああーーーー!!」
我ながら全く可愛げを感じさせない悲鳴を上げながら、森を駆け抜ける。
AGIが100を越えた状態での全力ダッシュはちょっと想像の数倍は速い。と言うか全盛期にほど近い。要はめっちゃ速い。自転車並みの速度は簡単に出る。
その脚力を活かして、逃げている。
大量の虫から。
ちらりと少し後ろを振り返って、追ってきている数を確認。……したは良いんだけど、
「ちょっと本気で気持ち悪いっ。なんで10体以上が同時に襲ってくるの?! 私見ただけで頭可笑しくなりそうなんだけど!!」
クモとハチの混合パーティーで襲ってきてやがる。しかも振り切りたいのに、森の複雑な地形のせいでいまいち速度が出しづらいし! というか虫たちもAGI高いなあ!!
正気度を保つために、コメ欄を一瞥する。虫よりもよっぽど精神に良い。
『虫に好かれる女』
『インセクト・クイーン』
『生を統べる者 (インセクト・クイーン)』
『何か仰々しい名前で草』
『上空は?』
『多すぎて笑えてくるなww』
遊ぶなぁっ!! それにしても、上空、か……。
やるか。
――歩法 碧空
一度木に登ったらこっちのもの。だと良いなぁ。
木から木へと飛び移って逃走を続行。
けれど、現実(VRゲームだけど)はそう甘くなかった。
「――――!!」
あっはっはっは、ハチが突っ込んできたぁ。
「――落ちろや、ゴラァ!!」
――撃法 廻踵
遠心力で地面に叩きつける。
追ってくる数はハチだけでも後5ですか。そぉうですかぁ……。
もう嫌だ。
――歩法・撃法混合 風蝕
木を何本か刳りながら逃げた。
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「――ひっぐ、もう虫やあぁ……」
追い掛けっこは10分位続いた。もう一生分の虫見た。もう見たくない。
…………もう、あの森焼く……? 焼こう、跡形もなく。
『幼児退行してんのウケるwww』
『 撮 れ 高 』
『主目的の前に波乱が多い』
『運が良いのか、悪いのか』
『魔法系のモンスターにも虫系の見た目いるけど、耐えられるのか? これ』
『今度虫狩り耐久配信して欲しい』
『さっきのヤクザは何処へ……』
どうしよう、
「部屋から出られない……」
特に夜はどこから虫が出てくるか分からないから、本当に自室から一歩も出たくない。
自室からは出ないのか? 対策ガッチガチにしてるに決まっているんだよ。
……ん? あれ、これ帰りもあそこ通らなきゃ?
「死ぬか、第三の街に行くか、か……」
『急にどうした』
『変な二択で迷っておる』
私がボソッと呟いたことにも反応がしっかり返ってくるんだから、視聴者さんたちも良く聞いてるなと思う。私だったら聞き流してるだろうし。
「いや、トヴェッグに帰るとしたら虫のところ通らなきゃじゃん? それは嫌だなぁって。……で、まあ、ゲーム終わる時に死ぬか、それともボスを倒して第三の街行ってしまうか、どっちが良いかなって」
これ行けるところまで突っ走った方がお得か。
玉砕覚悟なら、結果的にどちらかは達成できるはずだし。
「第三の街に行くことにしました。行けるかはまだ分からないけど」
そう言って歩き始めて、すぐに前方に敵影を発見する。出来すぎじゃないかい? まあ、こっちにしてみれば都合が良いから良いんだけどさ……。
それは良いのさ、それは。でもなんで――
「また虫なのぉ?!」
『草』
『草』
『これは酷い』
『蝶々でも嫌なのね』
『もと芋虫』
『蛾』
『虫は虫なのよ』
私の悲痛な叫びにコメ欄が沸き立つ。
蝶でも嫌なのかとか、愚問でしょうに!
「蝶も蛾も生物学上は同じだったりするんだよ! それと気持ち悪いから虫全部嫌いなの!!」
あいつら見た目からして差がないじゃん。
益虫もいるだろって? そんなものは知らん。
ヤバい、冷静じゃ無くて自問自答みたいなことしてる……。
取り敢えず嫌々ながら、直視したくないけど、仕方なく、渋々『識別』する。
『マジックバタフライ Lv.20
属性:魔法・水 』
「何かレベル高いのムカつく!」
なんで見た目的に嫌なのに、戦闘力が高いのさ。
『スーパー理不尽』
分かってるよ!!(キレ気味)
「――!」
蝶が水魔法の初期技『ウォーターボール』(攻撃系の魔法スキルの初期魔法は『○○ボール』だけど)が思いの外ゆっくりと飛んでくる。
まあ、水魔法は速度は遅い方だからかな。
避けたくなるけど、対応法を探さなきゃ。
「『サンダーアロー』」
まずは魔法での迎撃。
球と矢はぶつかり合うと、軽く弾けて両者消滅。
魔法は魔法での迎撃が可能と分かったのは収穫だね。
水魔法自体の威力が低いし、水魔法に対して雷魔法は相性が良いから、それで相殺になっただけで魔法属性の相性的には防げないかも知れないけどね。私のINTはボーナス振り分けてないし。
次は、別の属性の奴だと分かりやすいね。
そんな事を考えていたからなのか、このエリアのモンスターの使う魔法の種類が豊富なのかは知らないけど、今度の敵は、土属性みたい。
『マッシュ・マジシャン Lv.21
属性:魔法・土 』
短い手足の生えたキノコ。顔が何となく気持ち悪い。なんていうか、醜い。
それらをバタバタと動かしながら、『ストーンボール』を放ってくる。これ完全に投石だよね。土魔法なのに。
「『サンダーアロー』」
もう一度迎撃しようと同じ魔法を放つ。対照実験にするには他の条件を揃えないとね。本当に対照実験とするなら、Lv.20で土魔法を使うマジックバタフライで試さなきゃだけどね。
放たれた石塊と雷矢は衝突して、一方的に雷だけが散る。
「――チッ」
舌打ち一発。向かってくる石塊を睨みつける。どうやら魔法の相殺は絶対に出来るわけじゃないみたい。
なら、次の実験。
「瞬雷!」
――斬法 瞬雷
抜かずにいた紺碧正近を抜刀して、そのまま一閃する。
ガキリ、と音を響かせて、『ストーンボール』は刀に逸らされる形で、私から離れた地面に衝突する。
どうやら物理攻撃での迎撃も可能らしい。
これは他の属性、特に火とか風とかの一見斬れなそうなものも迎撃できるのかは試してみないと。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
今回のわちゃわちゃ感、個人的に気に入っていたり……。




