揺るる
――寒い。
最初に認識したのは、それと揺する掌の温さ。馴染み深くて酷く心地よい。
そこまで分かると、何かしらの音が意識に入り込んでくる。
「――え、お姉。ご飯だって」
「……………………ぅ、ん?」
ごはん……?
今何時だろ?
7時、2――
「うわ、ごめんっ。準備しなきゃ!」
時計は7時20分を超えていて、普段なら既に朝ご飯を食べ始めている時間だ。
そして、今日は私が朝ご飯準備する日。
慌てて布団を押しのけて、筋力だけで起き上がる。
そのまま車椅子に――
「……あ、れ………………」
「お姉!!」
視界が揺れ、力が抜ける。
落ちた身体は琥珀の腕の中へ。
痛い位に力が入っているのに、凄く落ち着く。
こんな時なのに、いや、こんな時だからこそか。
ゆっくりとベッドへ戻されて、毛布も掛けてもらう。
動かずに待てとだけ残して、琥珀は走って部屋から飛び出していった。
「多分、熱あるんだろうなぁ………………」
基本無駄に健康だから、確実とは言えないけど。
でも、少なくとも体調不良ではある。
インフルエンザじゃないと良いんだけど………………。
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気が付いたら、眠っていたらしい。
いや、状況的には気絶?
兎も角、さっきまで7時だったのに、もう11時過ぎ。
ベッド横の小さな棚の上に体温計とスポーツドリンクが置かれていた。
腕を伸ばして、体温計を手に取る。
一度取り落としかけたけど、なんとかもってきて脇に挟む。
朝起きた時は強く意識していなかったが、全身に纏わりつく気怠さと、暑く寒い嫌な感覚。
今までろくに感じたことのないこれらが結構辛い。
「8.4……ね」
正直どれくらいなのか分からない。
これも経験が薄い弊害、でもないか。
取り敢えず、ベッドの中で大人しくしてよう。
――コン、コン
弱く戸を叩く音。今家にいるのはお母さんか。
「おきてるよ…………」
そこまで大きな声を出す元気はない。
一応、お母さんになら聞こえる程度の声は出してるし、伝わるはず。
「起きてたの。体調は?」
「怠いし寒い。……あと、はい」
電源を消してなかった体温計を渡して、毛布を引っ張る。
「お昼過ぎたら病院行きましょうね。食欲は?」
「……わかんない」
食欲あるかないかとかぜんぜん分からない。
取り敢えず、寝たい。
「分からないのなら、放り込めるでしょ。ゼリー持ってくるから出来るだけ食べなさい。――――保険証どこやったかな」
「え、ちょっと?!」
それは怠いとか言ってられない。
どういうことなんだ?
「冗談よ。全員分まとめて保管してるから、無くさないわよ。個別に管理してたら瑠璃のだけ出番無さ過ぎて忘れそうだけど」
「洒落にならない………………」
普段割と健康なのは決して悪いわけじゃない筈なのに、今この瞬間はそれが原因で心臓に悪い。
将来気を付けないと………………。
私の頭をゆるく押してからお母さんは部屋を後にする。
頭のところいる?
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午後になってから行った病院での検査の結果、幸いインフルエンザでは無かった。
解熱沈痛剤を処方され、帰宅。
部屋に戻って、もうひと眠り――と行きたかったんだけど、
「ねむれん」
眠れないし、やることも無い。
本当に無い。
どうしよ………………?
携帯でなんか見ようかな?
別に見たいもの無いな。それに今何見ても集中でき無さそう。
それともWJOやる…………?
いや、流石に駄目だよ。
でもイベントポイント足りてないし、エルフのクエスト用にポーションとか揃えておきたいし、ボムピルの素材持ったままだから煙幕に加工してもらうように依頼出さないとだし………………。
「ちょっとだけ……」
私の肉体なら少しくらいやっても悪化しないでしょう。
多分。
きっと。
そう信じてる。
ちょっとだけやろう。
ばれないように。
物音さえ立てないように、まずはヘッドセットを――
「寝ろ」
ちらりと扉の方へ視線を向ける。
お母さんの作り物の笑みが見える。
寝ます。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
中毒具合が悪化の一途をたどっている。




