霧の都
カレジさんのパーティと共に戦っていたエルフの集団、そのリーダーらしき男性は先程攻撃されかけた女性が無事なのを尻目に確認しつつ、こちらに意識を向けた。
軽鎧と腰に佩いた剣が目立つが、威圧感は無い。身長も高いし、顔も冷たささえ覚えるのに。
「カレジ殿、そちらの方とはお知り合いなのか」
「スヴァルドさん、こちらの女性は我々と何度も肩を並べて戦ってきた私の知る限り最速の剣士であるラピスさんです。実力も人格も信頼できる方ですよ」
そう御大層な生き物じゃないのに、お世辞にしても凄い褒めてくれるじゃん。
ていうか、ロールプレイっていうのかな、住民の人達に合わせた喋り方がカレジさんは凄い堂々としている、というかなんていうか。
たしかな慣れを感じさせる。
ゲームのサービス開始から半年近く経っているし、別にWJO以外で習熟しない訳でもないしこんなものなのかな。
私別に上手いわけでは無いからなぁ。普通にメタ発言してばっかりだし。精々普通の範疇の敬語程度。
まぁ、取り敢えず自己紹介はしておこうか。
「ご紹介にあずかりましたラピスです。乱入してしまい申し訳ありません」
「いいや、助かった。大した功績も無しに騒ぐようなら兎も角、謝られることではない。それに、友を助けた者に文句など言えないだろう」
ふっと落とすように笑みを零す。
スヴァルドさんが多分最年長かな。顔立ちはそこまで違いを感じないけど、雰囲気と動作がなんというか年を重ねた人のそれっぽい。
こう人生経験に由来する感じね。
『スヴァルドってスウェーデンで剣だって』
『そのまんますぎん?』
『WJOって地名とか精霊とかはスウェーデン語だよね』
スウェーデン愛好家でも運営にいるのかな?
でも通貨のベルグは多分由来違うよね。
まぁ、まだ地名と精霊の名前だけだからなんか法則でもあるのかね。
取り敢えず、さっきの女性は大丈夫だろうか?
「……あぁ、先に助けていただいたトロルは現状は特に問題は無い。だが、…………いや大丈夫だ。あの場に貴方がいてくれてよかった」
「いえ…………」
女性――トロルさん――への視線がバレバレだったのはどうでもいいとして、何か不安要素が垣間見えて非常に気持ち悪い。スヴァルドさんは努めて冷静になろうとしているようにさえみえる。表情が堅すぎるのに、瞳には激情がこもって揺れている。
仮にも私が助けた命だ。
何かあるのなら教えて欲しいんだけどな。
「ラピスさん、少々お時間いただくことは可能ですか?」
「はい。こっちとしても気になりはするので。――ただ、その前にカレジさんのお仲間との自己紹介からでいいですか?」
「…………おや、そう言えば我々が一方的に知ってるだけでしたね」
顔は知ってるんだけどね…………。
正直顔と戦い方が分かれば困らなかったしね。
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彼らが背後を守るように行動していたのには当然だが理由があった。
空気の流れとかは私でも完璧には捉えられないとは言え違和感すら抱かせる事なく、そこには集落があった。
結界的なもので覆われているらしく、エルフにしか明確には認識できないようにされているんだとか。
魔法の種類追加されたし、こういう結界的なのとか教えてもられたりしないかな?
いや、まぁ私には碌に使えないだろうけど、ワクワクはするんだ。
そんなこんなで何も無いようにしか思えないところに進むと、一瞬視界が止まった。
ほんの一瞬のことながらどこからか視線を感じ、直後に動きだした。
濃霧が無い。
大木の隙間から入る木漏れ日で十分明るく、荘厳ささえ感じる。
木の枝々には全面木造の家屋がいくつも設けられており、子供の頃夢想した秘密基地のような様相にも思える。
そして、そこら中にいるエルフ達。
武器を手に訓練する者もいれば、駆け回る子供の姿もある。
なんともまぁ、童話の世界にでも紛れ込んだような気分だ。
普段が血生臭いせいか余計に自分自身に異物感を覚える。
ただ、それ以上に――
「温かい…………?」
標高はあまり低くはなく、熱を齎す日光も平地に比べて格段に少ない筈だ。
でも仄かに温かい。春先くらいかな?
空気の流れに干渉する結界があるし、別に不思議って程でもないのかな?
『エルフいっぱい』
『一人くらい持ち帰ってもバレないよね?』
『種族選択エルフにすりゃよかったかな』
みんなエルフ好きだねぇ。
いつもこんな美少女を観てるくせ…………いや、顔は良い方だろうけど普通に殺戮兵器みたいなのは嫌か。
「――各員、治療を終えたのちに武具や消耗品の確認を。怪我が酷い場合は療養以外認めん。また、書類を作成し終えた者から今日は解散しろ。確認は明日行うから気にせずに帰れ。……失礼、異邦の客人はこちらへ」
スヴァルドさんはエルフの街――厳密には国らしい――の防衛を担う隊のトップ4人の内の1人かつ部隊長らしいが、部下の人々に指示を出した後私達を引き連れて、進んでいく。
一応国ではあるものの、人口的には少数らしく防衛部隊も100人に満たないらしい。
だが、トップの隊長の直属の部下かつ20と少しの部下を持つ立場らしい。
2位タイが3人ってことっぽいね。
1分とかからず、外周の中でも一際立派な木、そこに設けられた螺旋階段を上る。
多分防衛用の隊の設備か、所属するエルフ用の家かな。
「エルスカ、今帰った。すまないが6人分の茶を頼む」
「ああ、お帰り。お客を呼ぶなら先に伝えて欲しいと言うのは妻の我が儘かねぇ?」
「いいや、気を付けよう。今は悪いが急ぎでな。……客人の前だ、以降は夜に聴こう」
うわ、身長たっか。
スヴァルドさんは180cm超えなのに、10cmの差も無さそう。
スヴァルドさんがエルスカと呼んだ女性は彼の伴侶らしいが、175cmはありそうだ。
スレンダーだし、手足が長いからこそ余計にスラッとしてるように見える。
言葉は男勝りだが、その表情は柔らかい。
身長だけなら174cmのお母さんで見慣れている筈なのになぁ。
…………あと、実直というか堅い印象を覚えるスヴァルドさんが押され気味なの面白いね。
「お客人の方々、先程はお見苦しいものをお見せしました。どうぞごゆるりとおくつろぎください」
全員分のお茶とお茶菓子まで出してくれたエルスカさんは、恭しく礼をしておくの部屋へ向かっていった。
なんか格好良さすら覚えるな。
ちょっと憧れさえする。
「…………さて、ラピス殿。これからお話しするのは、長い歴史の話となっている。退屈だろうが、お付き合いねがえるか」
「………………はい」
多分先程トロルさんの件で言い淀んだこともあるんだろう。
ならば、退屈なんて無いだろう。
それにカレジさんらの雰囲気が先程から暗い。
そこそこ以上に重い話になりそうだ。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
説明回は長くなりがち。
情報詰め込もうとしすぎなのかもしれない。
あと、原理とかしっかり設けたがりなのも。




