消えぬモノ
私が悠真から何を貰ったか。
良く考えたことは無かった。
ミイラの包帯の端を雑に掴んで、無造作に振るった刀で首を掻っ切る。
ポリゴンの発散を尻目に、思考は過去へ。
打ち合いの最中の獰猛ながら静かな笑み。
私達の技の調節とかを見て、アドバイスしている時の穏やかながら鋭利な視線。
……………………いや、違うか。
こういう部分的なことじゃないな。
多分、その人の過ごして貰った何か――漠然としたモノ――を考えるべきなんだと思う。
「――ふふっ、悩んでいますね?」
「まぁ…………、ぱっとは思いつかないですね。何も貰っていないなんてことは無いですけど、いざ言葉にしようとすると………………」
人を好きになる経験?
それは事実だけど、なんか違う気がする。
お婆さんのおっしゃったこととは些かズレているように思う。
人とのぶつかり方?
これはあんまり変わっていないと思う。
今も昔も私は正面突破ばっかりだ。
そういうのではない。
もっと広い、何か。
「あまり悩みすぎないようになさった方が良いと思いますよ。私の言った事は、酷く曖昧でそれこそ長い時間をかけて考えるものですから。正解も無い、模範も無い、言ってしまえば残された者の自己満足ですよ」
「お婆さんは、何を貰ったのですか?」
「ざっくりと、『人の温かさ』でしょうか。……ね? 深く考えたりもいらないのですよ? どこまで行っても、婆の妄言ですから」
お婆さんは妄言なんて言うけれど、それを口にした時の彼女の顔にはなんとも言えない様々な思いが入り混じっているようで、なんというか私には理解の及ばない感覚だ。
『妄言て』
『ちょっと考えてみたくなった』
『よう分からん』
『分からなくていいだろ。この人の言う通り、自己満足でしかないんだから』
分からなくて良いのかもしれない。
でも、今は無理でもいつかは…………
「さて、ラピスさん。一つ、忠告を。悩ませてしまった私が言うのもどうかとは思いますが、この辺りはモンスターも強いので、考えるのは後にしましょう? 例え熟練の戦士であろうと、死ぬ時は一瞬です」
「すみません。――行きましょう」
墓地はそう遠くない。
十分に留意して、お婆さんを送り届ける。
元々、ゲーム的に何かイベント無いかなってノリで選んだのに、こんなことになるとは…………。
事実は小説より奇なり。…………ん? ここゲームだけど、この場合小説とゲームどっちの方が複雑で波乱なんだろうか?
私の場合は確実に後者だな。我ながら変な事に巻き込まれすぎだと思うの。
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暫くして、地下へと続く大分風化してきている石造りの建造物が見えてきた。
風化は激しいけど、石に何かが彫られているのは遠くからでも分かるから、相応に歴史のある重要なものだと分かる。
あれがカタコンベ。
私が勝手にイベントを求めていた、人々の眠る地だ。
お婆さんの話を聞いて、こうして実際に墓地を目にすると自分の罰当たりな所業が悔やまれる。
目的地には着いた。
だけど、すぐに中に入るってことも出来ない。
「下がっていてください」
「……ぇえ、お願いします。――ご武運を」
「隙を見て、墓地の中に入ってください。倒せそうなら殺しますが」
モンスターは、一体。
ミイラ、リビングマミーでは無い。
それより、二回りほど大きい身体。
錆び付いた装飾品を、腕や額に着けている。
あれの話は、冒険者ギルドでちょろっと聞いていた。
でも、危険だから基本的に見たら逃げろって話だった。
一か所に留まる訳では無いから、遭遇したらすぐに逃走する事が推奨されている。
一度も討伐されることなく、もうかれこれ20人は犠牲になっているそうな。
でも、聞いた話によると、墓地の中にも時折モンスターが出現するらしいので、目の前のこいつを屠ってお婆さんと一緒に墓地に入る事が望ましい。
さあ、歯を食いしばれ、太刀上 瑠璃。
お前が挑むのは、何人たりとも勝てなかった血濡れの化け物だ。
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