大好きだからこそ
陽多side
俺は辰也の言葉を聞き、言葉を失った。
殺傷事件の犯人は加那。信じられなかった、いや、信じたくなかった。
……だが
「……辰也、香奈が危ない」
『何?』
俺は必死に頭を落ち着かせながら辰也に説明した。
香奈が加那と二人で逃げてしまったことを
『マジかよ……!』
「ああマジだ。捜すのを手伝ってくれないか?
『当たり前だ!』
即答か……ったく、相変わらず人が良いぜ。元不良とは思えないな
「じゃあ頼んだぜ」
そう言って、俺は電話を切った
「……すみませんでした。貴方を犯人だと思い込んでました」
まずはこの男の人に頭を下げないとな。誤解していたとはいえ、失礼な態度を取ってしまった
「いや、急にあの娘を捕まえようとした僕にも責任がある。謝らなくて良いよ。それより、誤解は解けたのかな?」
「全部聞きました。加那が犯人だったんですね」
「……ああ」
それにしても、この人は何者なんだ?加那の事を色々と知っているようだし……。
だが、今は時間が無いな
「すみません、まだ話したいことはあるのですが、今は時間が……」
「そうだね。二人を捜さないと」
「じゃあ俺は行きますね」
「待って。僕も捜すから連絡先を教えてくれ」
というわけで、携帯の番号を急いで交換した。
冷静を装ってはいるが、内心では凄く慌てている。早くしないと香奈が危険かもしれない
「よし、くれぐれも無茶はしないでくれよ」
「……約束は出来ませんが、努力します」
そして、俺は二人を捜しに走り出した……
香奈side
どうしてこうなったんだろう?
さっきまで仲良く話していたのに。
あんなにも可愛らしいと思っていた笑顔だったのに。
それ……なのに……
「ふふふっ、香奈さん見て見て!こんなに綺麗な赤色だよ~」
「う……ううう……」
彼女は私の膝から出てる血を見て嬉しそうにしている。
未だに激痛が走っている。でも、それよりも。
私は……加那ちゃんの変貌が信じられなかった
「うぐ……加那、ちゃん」
「ん?どうしたの香奈さん?」
「記憶……戻ったんだよね……?」
「うん!香奈さんのお陰だよ、ありがとう!」
少し前の私だったら一緒に笑って喜んでいたと思う。加那ちゃんの事を何も知らなかったあの時の私なら
「ねぇ……好きな物って、まさか……」
「うん、血!見てるだけで幸せだよ~」
「まさか、飲んだりとかしてるの?」
「飲まないよ~、ワタシ吸血鬼じゃないもん。ワタシはね、血を見るのが好きなの!」
「見る?」
私は加那ちゃんの言ってることがよく分からなかった
「ワタシね、血を見ると色んな事が分かるんだ。今も香奈さんの血を見るだけで色々と分かるよ」
「何が……分かるの……?」
「う~んそうだね……今、香奈さんが凄く驚いてる事が分かるよ」
「そんなの、表情を見れば分かるじゃない……」
「あはは、そうだね。ねぇ、それよりもさ」
加那ちゃんはそのまま手に持っていたコンパスを……
「っ!!」
「ああー、避けちゃ駄目だよ。もっと香奈さんの血を見たいんだよ」
「もう十分血は出てるでしょ?」
「やだやだ!もっと見たいよ~!」
加那ちゃんは駄々をこねながらコンパスを振り回す
「きゃっ!やめてよ加那ちゃん!」
「だったら早く血を見せて!」
人のいない公園に逃げ込んだのが間違いだった。
これじゃあ助けも呼べないよ……!
「香奈さんは違うよね?警察とは違うよね?ワタシに血を見せてくれるよね?」
「えっ?警察?」
「ワタシ、警察って嫌い。自分達はたくさん血を見てるのにワタシが見ようとすると追い出そうとするんだよ?酷いよね~」
おそらく、加那ちゃんは事件現場とかに勝手に入り込んで血を見ようとしたんだろう。追い出されるのは当たり前だ
「おまけにワタシが血を見ようと思って動物にコンパスを刺しただけで怒るんだよ。本当にムカつくよ~」
それこそ当たり前。加那ちゃんは自分がおかしいって事に気づいてないんだ。
そして……そんな加那ちゃんなら……
「……ねぇ、隣町の事件って……犯人は貴女なの?加那ちゃん」
違っててほしい。私の考えが間違っててほしい……
「事件?大袈裟だよ。ワタシは仲良しの友達に流れている素敵な血を見ようとしただけだよ?」
「じゃあやっぱり……」
犯人は……加那ちゃん!
「そんなことよりっ!血を見せてよ~!」
「きゃあ!」
再び加那ちゃんがコンパスを私に刺そうとする。膝が痛くて、私は上手く逃げられない
「あぐっ!!」
「つーかまーえたっ!」
ついに、私は転んでしまった。そんな私を見て加那ちゃんは喜ぶ
「大丈夫大丈夫。ちょっと血を見るだけだからさ」
「いや……やめて加那ちゃん……」
「やだ!香奈さんの血、綺麗なんだもん!もっと見たいよ!」
「お願い……だからさ……」
視界が歪んできた。膝が痛いからか、加那ちゃんに裏切られたのがショックだったのか分からないけど、私は大量の涙を流していた
「かな……ちゃんっ……!本当に……それが本性なの!?」
「そうだよ?これが本当のワタシだよ」
「だったら……昨日から私達と過ごした時間は何だったのっ!?」
私は抱いている気持ち全てをぶつけるつもりで叫んだ
「……何なんだろうね?」
「え……?」
「ワタシね、今まで血にしか興味が無かったんだ。それ以外の事は退屈としか思えなかったんだよ」
何故そうなってしまったのか気になったけど、私は何も言わないことにした
「でもね、記憶を失っている間、香奈さん達と一緒に過ごした時は本当に楽しかったんだ。記憶を失ってたせいだとしてもさ」
「加那ちゃん……」
「でもねっ!だからこそ、ワタシは大好きな香奈さんの血を見たいんだよ!もちろん、後で陽多さんにも見せてもらう予定だけど」
「分かってるの!?そんな事をしたら私も陽多君も……凄く傷つくんだよ!?」
もしかして、加那ちゃんは人の痛みというものが分からないのかな……
「そんなの……分かってるよ。自分でも頭では分かってるんだよ。こんなもの刺したら、相手が酷い目にあうことくらいさ」
「だったら!」
「でも駄目なんだよ。好きな人であればあるほど、その人の血を見たくなっちゃうの。ワタシ、そういう人間なんだよ」
どうして……彼女はこんなにも……
「だから、ね?香奈さん、血を見せてよ」
「加那……ちゃん……」
逃げられない、逃げたくても足が動かない。完全に手詰まりだ
「見せてくれるんだね?ありがとう!じゃあ香奈さん」
「うぐ……」
「………ごめんね」
「えっ?」
何を思って彼女はその言葉を口にしたのか分からない。
だけど、その時見た加那ちゃんの瞳からは、確かに涙が流れていた。
何で泣いているの?どうして……?
そんな事を考えていたら私に向かってコンパスが降り下ろされた
「……あれ?」
加那ちゃんが呆けた声を出す。理由は簡単。私に刺さるはずだったコンパスが受け止められたから。
「あ……ああ……」
そして、それを受け止めたのは……
「やっと見つけたと思ったら……何やってんだお前は?」
見慣れた幼馴染みの背中。それを見て、私はまた目が潤んでしまった
「陽多君……!」
彼の背中はいつにも増して頼もしかった




