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深夜のやりとり


「今日……、ここで寝ていい?」


 突然言われた天音の言葉に、俺は息をすることを忘れてしまった。


「そ、それって……」

「あっ! 変な意味じゃないよ! こんな状況だし、なにが起きるかわからないじゃない? だから夜は一緒に居た方がいいかなって思っただけだから!」


 慌てて俺の期待を否定しようとする天音だが、どう考えても二人で一緒に寝るってことはそういうことだろう。


 以前も似たような状況はあったけど、その時はそこまで心の準備はできていなかった。

 だけど今は違う。もう少し前に進みたいと俺も天音も考えている時期だ。


 ……でも、ここは余裕を見せておこう。


「そうだよな。うん、もちろんわかってるって」


 よし、完璧!

 これで余裕のある彼氏を演出できたはずだ。


 だが天音の反応は予想とは真逆だった。


「え……。普通、恋人ならもっと別のことを考えない?」


 呆れたような、がっかりしたのような表情で訊ね返してくる天音。

 慌てたり、恥ずかしがったりという初々しい態度を期待していたようだ。


 というより、こういう場合は余裕のある態度で返すとテンションを下げてしまうのか?

 むぅ……。カレカノの駆け引きって難しい。


「えーっと、……別のことは……その……、考えたけど、それを口に出したら変な空気になるかなと思って……」

「やっぱり考えてたの? ふーん……。へぇ~……」

「そこを深掘りするの、やめてくれない!?」


 ちっくしょう!! ハメやがったな!!

 せっかく余裕のある彼氏を演じたのに、これじゃあまるでピエロだよ!


 その時、再び雷が落ちた。

 今度は近くに落ちたみたいで、轟音と共に振動が伝わってくる。


「きゃあ!」


 さすがの天音もこれには素で驚いたようで、俺に抱きついてギュッと力を入れた。


 少し意地っ張りなところはあるけれど、雷が怖いから一緒にいたいといのは本当のようだ。

 だったら彼女を安心させてあげるために、一緒に寝るのはおかしなことではないだろう。


 そりゃあ、ちょっとは期待してるけど、自分の事より 天音の不安を取り除いてあげる方が大切だ。


「じゃあ、一緒に寝ようか」

「う……、うん」


 優しく声を掛けると、天音は甘えたように頷いた。

 そのままベッドで横になり、同じ布団を被る。


 この体勢でゲームをすることはできなくはないけど、今は二人っきりの時間に浸りたい気分だ。


 パソコンの電源を落として照明を消し、部屋は真っ暗になる。

 すぐ側にいる天音の存在が一層強くなった。


 台風という状況すら、彼女と一緒にいるというリアリティが塗りつぶしてしまう。

 幸せだという実感が静かに沸き起こってきて心地よかった。


「そうだ、天音。前からずっと聞きたかったんだけど、なにかして欲しいこととかないのか?」

「してほしいこと?」

「うん。天音ってあんまりおねだりとかしないだろ? それなのに俺のためにいろいろと考えてくれてるし、なにかお礼がしたくて」


 些細なお願いはあったけど、恋人ってもっとおねだりしてくれるというイメージがあった。

 そんな思い込みのせいか、いつも自然体でいる天音の振舞いは『ちゃんと彼氏として認められていないのでは』という不安につながっていた。


 きっとおねだりばかりされて困っている人もいるのだろうけど、彼氏としては求められて欲しいという欲求もある。


 でも天音は逆に困った表情をした。


「私、いいたいことは言ってるつもりだけど」

「でもお願いってあんまりないだろ?」

「そうかな?」


 遠慮とかではなく本当に戸惑っているみたいだ。

 こういうのって、やっぱり男女の価値観の違いからくるものなのかもしれない。


 プレゼントはあげればあげるだけ喜んでくれる。むしろねだられるのが普通だと思っていた。

 けど彼女にとってはすでに何気ないやり取りの中で、欲しいものを手に入れていたようだ。


 天音が何を得て満足していたのか、俺にはわからない。だけど、すでに何かしらの充実感を得ているのは間違いないようだ。


 こういうのって、彼氏としてはちょっと悔しいかな……。


 すると天音は何かを思いついた様子で、俺の耳に唇を近づけた。


「じゃあ、もう一度、ちゃんとした形で告白して欲しいな」

「え?」


 囁き声で耳の奥をくすぐるように喋る天音に、俺はいろんな意味でドキッとさせられた。


「以前告白してくれたときは、お互いに勢い任せだったでしょ? それに引っ越しで別れること前提の告白だったじゃん」

「そういえばそうだった」

「そのあと、自然な流れでカレカノになったけど、やっぱりちゃんと告白されたいなって思うかな」


 天音は静かにそう言った。

 寂しそうに……。まるでなにかの不安を必死にこらえているように見える。


 もう一度告白……か。


 振り返ってみると、なんだか成り行きで付き合っているようなところもあるような気は確かにある。

 それはそれでいいと思うのだけど、しっかりと俺の気持ちを伝えることが出来たら、今一つ先に進めなかった俺達の関係が変化するかもしれない。


 じっくり考え込む俺に気づいた天音は場を誤魔化すように笑った。


「あははっ! ごめん、ごめん。変なこと言っちゃったよね。気にしなくていいからね」


 気にするなって言われても、こんなの気にしてしまうだろ。


 それに俺自身も、もう一度ちゃんと気持ちを天音に伝えたい。

 

 そういえば、もうすぐ夏祭りがあるんだよな。

境内から花火も見えるし、告白をするにはうってつけの場所だろう。


 よし!


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