騎士団からの報酬
ある日のこと、王都の拠点に手紙が届いた。
差出人は図書館の主、つまりレビィーリアさんだ。
手紙にはここを訪れる日時が書かれていた。
まだ通話魔導具渡してないからすぐに連絡が取れないけど、これなら会う日程を合わせられる。
そうして数日後、王都の拠点でエステルと2人で約束の時間に待っていると扉がコンコンと叩かれた。
エステルに魔法で確認してもらうとレビィーリアさんとアルブスのようだ。
扉を開いて迎え入れると2人はフードを被っていて上手く認識できなかったが、拠点内に入った途端にレビィーリアさんの顔を判別できた。
騎士団のローブには認識阻害の魔法がかかってるっぽいけど、エステルの魔法で打ち消されたのか?
「わざわざお越しいただきありがとうございます」
「どうもー、お邪魔するよ」
「へぇ、ここがあんた達の拠点なのね。案外普通――じゃない!?」
レビィーリアさんに続いてアルブスも家に入った途端に驚きの声を上げた。
キョロキョロと周囲を見渡して挙動不審だ。
「な、何よこの家……」
「そういえば魔法がかかってるんだっけ? アルブスがそこまで驚くとは珍しいですなぁ」
「このヤバさがわからないのレビィーリア!? ……こわっ」
「ふふ、いきなり人の家に来て怖いだなんて失礼しちゃうわ」
「これやったのあんたでしょ! わかってて言ってるでしょ!」
微笑むエステルをアルブスは青い顔で見ていた。
あー、この拠点はエステルとシスハがかなり手を加えていたからな。
魔法やら結界やらで防衛機能マシマシになっている。
さっきレビィーリアさん達のローブの認識阻害が消えたのもその1つだ。
俺も一体どれだけあるのかは把握していないけど、アルブスが震える程この拠点は恐ろしいらしい。
今もキョロキョロと周囲を見渡して落ち着かない様子だ。
「こんな魔法や結界が掛けられた家なんて初めてよ。何が怖いって中に入るまで全く気が付かなかった……。感覚がおかしくなってるのはわかるけど、それ以外の効果がわからない。これ城よりも厳重なんじゃない?」
「あら、腕によりをかけて作ったから褒められると照れちゃうわ。これがわかるなんて流石龍人ね」
「褒めてないんだけど……一体あんた達何と戦うつもりなのよ」
「前に1度私も来てたんだけど、ここそんな凄い場所だったんだね……」
レビィーリアさんもアルブスの反応を見て、改めてここがどんだけヤバいのか認識したようだ。
まさか騎士団の龍人までビビるほどの拠点に仕上がっていたとは。
サブ拠点でこれならブルンネの自宅はどうなって……怖いから考えるのは止めておこう。
話はさておき、今日彼女達が来た本題に移ることにした。
「とりあえずまだ全部決定した訳じゃないけど、経過報告も兼ねて報酬を渡しに来たわ。あんまり待たされたらあんた達も不安になるでしょ?」
「そうですね。気にならないと言えば嘘になります」
「それにしても随分早いと思うわ。お姉さん達が頑張ってくれたのかしら?」
「それはもう頑張らせていただいたよー。騎士団だけじゃなくて、国の上層部まで出てきてそれはもう……はぁ」
2人はうんざりしたようにため息を吐いている。
よっぽど城での報告作業が大変だったんだろうなぁ。
それなのに早めにと報酬を持ってきてくれたのはありがたい。
期待に胸を膨らませていると、アルブスがカバンからデカい袋を取り出し机の上にドンっと置く。
音からしてかなりずっしりと重そうだが……まさか、な。
俺がちらりとアルブスの顔を見ると、口元をニヤリとさせ得意げな表情をしていた。
「ふっふっふ、これが報酬の神魔硬貨120枚よ!」
「ひゃ、120枚!?」
「国からの報酬だから期待してはいたけど、その数は驚いたわね。よく許可が出たじゃない」
「骨董品としての価値しかないからね。それでも城の倉庫にあった品で量も多いから多少抗議されたけど、金貨を払うのとどっちがいいか迫ったら渋々って感じだったよ」
うおおおお!? 神魔硬貨120枚だと!
あれだけチビチビと集めていたのに一気にこの数って……ほ、本当に貰っていいのか?
現在の貨幣価値に換算したら大体12憶Gってことだぞ!
俺が内心狂喜乱舞する中、エステルが会話を続けていた。
「迷宮の50階層を攻略したのは信じてもらえたのね」
「ドラゴンのドロップアイテムがあったし、階層転送機にも50階層が追加されていたから簡単だったよ。ただその説明をするのに協力者の存在は話さないといけなかった。私達だけじゃ絶対に無理だからね。勿論詳細は伏せたから君達だとわからないし安心してほしい」
「上層部の奴らが教えろって凄くしつこくてさ。王が諭してくれなかったらぶん殴ってやるところだったわ」
「王様は話をわかってくれる人なのね」
「王のお言葉もあってそこは丸く収まったよ。出来るだけ君達のことは内密に済まし、王が直接詮索するなって宣言したから探す貴族とかもいないはずだ。破ったら厳罰にするともね」
「えっ、王様がそこまで言ってくれたんですか?」
「私とアルブスが頑張って嘆願したからね。これからも窓口として私達が関係を保てとも言われたよ。騎士団相手に尾行とかする勇気のある人もいないだろうしね。特にアルブスなんて貴族からも恐れられているからさ」
「頼むから変な真似はしないでよ。もう散々あれこれ言われたのをやっと抑え込めたんだから。正体も明かせない奴と手を組んでるのか! 秘密裏に取引をしていたのか! とか今でも嫌味言われてるし散々よ。何かあれば嬉々としてあいつらに責められるわ」
「き、気を付けますね」
アルブスは憎たらしそうに歯をギリギリとしている。
よっぽど周囲からあれこれ言われたんだろうな。
報酬を渡す手前全部の情報を秘匿するのは無理だろうし、ここまで譲歩を引き出せたのはかなり頑張ってくれたはずだ。
骨董品とはいえ12億G分の報酬を見知らぬ相手に渡すなんて、そりゃあれこれ言われても仕方ない。
何よりも王様とやらが俺達が有利になるような発言をしてくれたみたいだな。
一体どんな話し合いが行われたか詳細は聞かないけど、上手くやってくれたと思っておこう。
これで1番期待していた報酬は受け取れたから俺は満足だが、もう1つ気になることも残っていた。
エステルもそれを考えていたのかちょうど質問をしていた。
「それでオウの迷宮に関しては教えてもらえるのかしら?」
「すまないけどそっちは許可が下りなかったよ。君達が鍵を手に入れたこともまだ伏せてある。理由は……察してほしいな」
「ふぅん、教えられないほどの何かがある迷宮なのね。アルブスさん、どうなの?」
「……言えぬ」
「急に口調が変わって怪しいわね。色々配慮はしてくれたみたいだし追及はしないわ。いいわよねお兄さん?」
「ああ、変に関わって面倒ごとが起きても嫌だしな」
「助かるよ。良好な関係を保てれば上からの信任も得られるから、そうなったらまた色々と教えてあげられるはずさ。君達も知られたくないことがあるだろうし、程々にやっていこうよ」
うーん、まだオウの迷宮とやらの正体は教えてもらえないようだ。
アルブスは口を滑らさないようにか、ジト目で見つめるエステルから露骨に目線を逸らしている。
ただの迷宮ならそこまで隠す必要がないし、国として重要な何かがあるのだろうか。
そう考えたらあんまり関わりたくない気がしてきたけど……協力すればまた神魔硬貨が貰えるかもしれない。
レビィーリアさんの言う通り、程々の関係を維持していこう。
こうして取引は終わりレビィーリアさん達は帰ろうとしたが、その前にある物を渡すことにした。
休み中にエステルが開発した特別製の通話魔導具だ。
コスパ度外視で魔元石を材料に使ったから、王都からブルンネまで通話が届く品物に仕上がっている。
ぱっと見は普通の原石魔導具と大差ないから、特別製とは気づかないだろうな。
「これを受け取ってください。通話用の魔導具です」
「おー、今話題のやつだよね。よく手に入ったね」
「あのお店は冒険者に積極的に販売しているからね。ちょっと伝手で手に入ったのよ」
「あんた達でも例の店で魔導具店を買ってるのね。城でも話題はよく聞くけどそんなに凄いの?」
「えっと……他の店にない物が色々売ってますよ」
「へぇ、あんたがそう言うなら本当のようね。私も今度行ってみようかな」
どうやらアルブスまで魔導具店に興味を持ってくれたようだ。
あんたがそう言うならって、なんか随分と過大評価されてる気がするんですが……まあいいか。
とにかく大量の神魔硬貨が手に入ったことだし、皆で相談して使い道を考えるとしますかな!




