必殺技開発
『せいやぁぁぁぁ!』
廊下を歩いていると訓練所から怒声とドスンと鈍い音が聞こえてきた。
何事かと慌てて向かうと、そこには拳を地面に突き立てるシスハの姿。
そんな彼女を見守るように、フリージア、ルーナ、マルティナの3人もいる。
「おい、何やってやがるんだ」
「あっ、平八も来たんだよ! 一緒にやる?」
「一緒にやるって……すげー音がしたけど何してたんだ」
「必殺技なんだよ!」
なるほどわからん。
突然のフリージアの発言に困惑していると、シスハも俺に気が付いたのか声をかけてきた。
「おや、大倉さんもいらしたんですね」
「そりゃとんでもない音がしたからな。で、必殺技ってなんだ?」
「そのままの意味ですよ。これからの戦いに備えて新たな必殺技を編み出していたんです」
「クックック、戦いにおいて必殺技は必須! カッコいい技をいかに繰り出せるかで勝敗が決まるのさ!」
「見学だ」
今でも十分強いのに、まだまだ強くなろうとしているのか。
そんでもって集まっているメンバーがこれって……嫌な予感しかしないんですが。
今もフリージアが片手を上に向け、もう片方を下に向けて構え何やら技を繰り出そうとしている。
ストップ役がいないから、放っておいたらヤバいことになりそうだぞ。
でも、必殺技開発は気になるな。
「言われてみると必殺技感あるのって、エステルの魔法とルーナとフリージアのスキルぐらいだよな。ノールのスキルも強化はされるけど、必殺技と言われるとなんか違う感じもする。けど、今更新しい必殺技なんて必要か?」
「まあそれは建前として、漫画の技を再現してみましょうっていうのが発端なんですけどね」
「漫画の技の再現だと?」
「そうなんだよ! 図書館で読んだ漫画の技を、シスハちゃんにやってみてってお願いしたんだよ!」
「へぇ、それで再現できたのか?」
「それがなかなか難しいんですよ。漫画で敵を素手で細切れにしていたのですが、流石にあれは人間技じゃありませんね。指で突いて岩に穴を開けることぐらいしかできませんでした」
そう言って訓練場の機能で出した岩を、シスハが指で勢いよく突くとズボッと入り、引き抜くと綺麗な穴が空いていた。
うん、十分お前も人間辞めてるじゃねーか。
こいつらは超人だし、漫画とかの空想の技も再現できそうで恐ろしい。
「お前は神官なんだから、必殺技もそれっぽいのにしたらどうなんだ?」
「そう言われましても……神官としての力では物理的破壊力がないんですよねぇ。例えば……てりゃあああああ!」
「ぎゃあああああ!?」
シスハが両手を縦に合わせて手のひらを向け突き出すと眩い光線が放たれた。
そして岩に直撃すると一層強く輝いて光が炸裂したが、当たった岩は何事もなかったかのように無傷。
代わりにマルティナが悲鳴を上げてうずくまっていた。
遠くから見ていたから影響ないはずなんだけど、完全に怯えているな。
「ほら、こんなド派手でも何の被害もありませんよ。精々アンデッドが蒸発する程度ですよ」
「いや、1名悲鳴を上げて震えているんだが……」
「マルティナちゃんどうしたの! しっかりするんだよ!」
「あばばばば……光が、光が迫って……」
「トラウマのようだ」
丸くなって縮こまっているマルティナをルーナがツンツンと指で突っついている。
まだURユニットバトルの時のトラウマが残っているのか。
だが、あれだけ派手なのに物理的な効果は微塵もないのは、前にも見たけど改めてよくわかったな。
「とりあえず神官である私じゃ、攻撃系の必殺技に限界があるのは確かです。ルーナさんなら素手で岩ぐらい切れますよね?」
「造作もない」
シスハに言われてルーナが岩の近くに行き片手を素早く振る。
すると人程のサイズのある岩がピシッと音を立て、線が入ったかと思えば1つ1つがまるでサイコロステーキのように崩れていく。
「すっご!? バラバラだぞ!」
「ルーナちゃん凄いんだよ! 岩が綺麗に切れてる!」
「流石ルーナさんですね! 私にはできないことを平然とやってのけます!」
「か、カッコいい……吸血鬼って憧れちゃうな……。僕のこと眷属にしてみない?」
「断る。眷属は作らない主義だ。……む、爪が汚れてしまった」
ルーナが眉をしかめてハンカチを取り出し、片手の爪を拭いている。
その手をよく見てみると普段と違って爪が鋭く尖っていた。
……魔眼も持ってるとか言ってたし、俺の知らない吸血鬼としての力が他にもありそうだな。
そんなルーナに驚いていると、今度はマルティナが名乗りを上げた。
「僕も必殺技を考えたんだけど見てもらっていいかな?」
「おっ、いいぞ。大体どんなもんか予想できるけどさ」
「マルティナちゃんならきっとカッコいい必殺技だよね!」
「ほほう、見せてもらいましょうか。あなたの実力とやらを」
「楽しみだ」
どうせこいつのことだ、無駄に派手な何かをやるだけだろう。
マルティナが俺達の前に躍り出たので、俺もフリージア達と一緒に見守ることにした。
……は!? 俺もいつの間にか必殺技見学を楽しんでしまってるぞ!
案の定マルティナはビシッとポーズを決め、何やら口上を叫び出した。
「混沌より出でし我が友よ! この身に宿りて漆黒の闇を顕現せん! 魂魄一体、メメントモリ・レクィエム!」
やだ、恥ずかしい……。
思わず顔を背けたくなったが、マルティナが片腕を掲げてパチンと指を鳴らした途端流れが変わった。
彼女の周囲に黒い稲光が走り、体が宙に浮かんでいく。
そして姿が見えなくなるほどの濃い紫色のオーラに包まれたが、だんだんと晴れていき巨大な1体のメメントモリが姿を現した。
普通のメメントモリよりも倍以上の大きさで、マルティナの鎌も片手と一体化している。
完全に変身を終えると、中からくぐもった声が聞こえてきた。
『クックック、これが真の必殺技! 僕自身がメメントモリになることだ!』
「いやいやいや! どうなってるんだよそれ! ガチの必殺技じゃねーか!」
「す、凄いんだよ……。マルティナちゃんが中に入っちゃった!」
「……強そうだ」
「み、見た目は強そうですが問題は実際に戦えるかですよ! ほら、大倉さん戦ってみてください!」
「なんで俺なんだよ! お前が戦え!」
こんな奴と戦って勝てる訳ないだろ! 見た目からしてやべーよ!
ただデカいだけじゃなくて、メメントモリから発される負のオーラも普段より段違いに濃い。
あれに触れたらデバフを食らうだろうし、とてもじゃないが戦いたくないぞ。
俺とシスハで醜く言い合っていると、マルティナがある提案をしてきた。
『アルヴィさん、この状態で僕に聖なる力を付与してください!』
「え、そんなことしたらメメントモリが浄化されますよ?」
『負の力を凝縮した今の僕なら耐えられるかもしれません! これであの迷宮にいたスケルトンパラディンを再現するんです!』
「ほぉ、なるほど……それなら確かにできなくもなさそうですね。なら弱めに付与してみましょうか」
『お願いします!』
マルティナの入ったメメントモリはぴょんぴょんと跳ねて嬉しそうだ。
このいかつい見た目で動きが女の子っぽいの止めてくれませんかねぇ……。
シスハがメメントモリに触れながら力を込めていくと、紫色のオーラの中に白く輝くオーラが入っていく。
最初は完全に分かれて水と油のようだったが、徐々にだが混じり始めている。
『……馴染む! 実によく馴染むよ! 聖なる力と負の力が合わさって今の僕は最強だ! もう誰も止めることは――あばらっ!?』
突然メメントモリが紫色の煙を大量に噴き出し、マルティナの悲鳴と共に体が弾け飛んだ。
中にいた彼女も放り出されて地面を転がり、メメントモリの体も霧散して入っていた霊体もマルティナの方へ戻っていく。
「だ、大丈夫か?」
「うぅ……わ、我が究極の深淵なる力が……」
「あらら、制御をし切れず力が暴走したようですね。私の力は弱めにしておいたので消滅したようですが、コントロールを失った負の力が破裂した感じでしょうか」
よくわからないがバランスを取ろうと負の力を強めた結果、聖なる力が消滅して暴発したってところか?
見るからに2つの力は相反する感じだったし、コントロールするのも難しいんだろうな。
けど最初は上手くいきそうに見えたから、練習すればその内扱えるようになりそうだ。
……と、色々あってスルーしそうになったが、この必殺技について一応聞いておくか。
「それで、なんでメメントモリの中に入ろうとしたんだ?」
「メメントモリは僕に近ければ近い程負の力が増すからね。なら、僕が中に入れば最強だって思ったのさ。いつもはメメントモリが防御役で僕が攻撃役だったけど、こうすれば攻防一体じゃないか」
「おお! 最強なんだよ!」
「ふむ、戦ったら手強そうだ」
「単純過ぎませんかねぇ。まあ強力なデバフをばら撒いていましたし、並の相手ならあれで詰みですか。必殺技認定はしてあげましょう。暇があればまたパラディン計画にも協力してあげますよ」
「や、やった! ありがとうございます!」
確かに盾役であるメメントモリを鎧として纏えば、ある意味攻防一体になるのか。
マルティナ本体との距離でメメントモリの力の強さも変わるし、奥の手としては有効そうだ。
シスハもそれに可能性を感じているのか、意外と乗り気に見えるぞ。
本人はパラディン化するために考えたのもありそうだが、この必殺技考察も実りがあったと言えるだろう。
その後も必殺技開発と称して、漫画の技をあれこれ再現して騒ぐのだった。




