ピクニック?
特に予定もなく自宅をふらついていると、廊下で楽しそうな雰囲気のシスハとルーナに遭遇した。
シスハは手にカゴを持っていて2人とも出かけるような出で立ちをしている。
「おっ、どこか行くのか?」
「うふふ、そうなんですよ。これからピクニックに行くんです! ね、ルーナさん! 腕によりをかけてお弁当をお作りしたので楽しみにしてください!」
「うむ、楽しみにしている」
「へぇー、そりゃ良いことだ。楽しんでこいよ」
そう言って微笑ましくすれ違ったのだが、ふとおかしなことに気が付いた。
シスハ達は玄関とは真逆の方向の、ハウス・エクステンションで増築した施設エリアへ向かっている。
こいつらどこへ行く気だ?
「ちょ、待て待て。そっちは外じゃあないぞ」
「何を仰っているのですか? 訓練所に行くんですよ」
「く、訓練所? ピクニックに行くんだよな?」
「うむ、ピクニックだ」
ちょっと何言ってるのかわからない。
ピクニックするのに訓練場だと……はっ!? まさか!
「あー、つまり訓練所の地形を変える機能を使ってピクニックをする気なのか?」
「そうなりますね。室内で外にいるのと同じ雰囲気を味わえるので良いじゃありませんか。わざわざ移動せずに様々な景色も楽しめますので」
「日光も本物じゃないからいい。気楽だ」
「せっかくピクニックをするなら外に出た方がよくないか。そんなに日光が嫌か?」
「日光は雨に濡れた服と靴で出歩くぐらい不愉快だ。たまの外出なら魔法で何とかする」
「そ、そうか……」
そりゃ外出して服が濡れたままなんて不愉快極まりない。
だからって訓練場でピクニックはどうなのだろうか。
エステルの魔導具作成にも使われているし、訓練場とは一体何なのか状態だな。
まあ、有用に使えているなら特に言うこともないか。
勝手に納得した俺がその場を後にしようとしたが、その前にルーナが声をかけてきた。
「平八も一緒に行くか?」
「えっ、俺も?」
「忙しいなら無理にとは言わない」
「別に忙しくはないけどさぁ……」
ちらりとシスハの方を見ると、それはそれは嫌そうに顔をしかめているのが目に入った。
せっかくルーナと2人きりなのにそれを邪魔されたらそうなるわな。
「ちっ……ごほん、私も別に構いませんよ、おほほほ」
「お前舌打ちしただろ!」
「そんな訳ないじゃないですかー。ルーナさんがお誘いしたのですから、当然大歓迎ですよ」
さっきの嫌そうな顔が嘘のように眩しい笑顔になり、口に手を当てて笑っている。
本当にこいつは……今に始まった話じゃないか。
そんなこんなでルーナの誘いを承諾して、俺も一緒に訓練所へ向かった。
訓練所に入ってからパネルを操作して、地形を緑広がる平原に変更。
暖かな日差しが差し込み心地よい風が流れ、本当に外にいるんじゃないかと思えるぐらいのリアルさだ。
シートを敷いて寝転べば土と草の香りがして、何とも心地いい気分になってくる。
「うーん、訓練所でピクニックはどうかと思ったけど意外に悪くないな」
「だから言ったじゃありませんか。幻を投影させるような機能ですけど、日光や風や草木の匂いまで完璧に再現されていますからね。実質外出してると言っても過言じゃありません」
「うむ、寝るにもちょうどいい。睡眠は時に場所を変えるのも大事だ」
「いつでも膝枕いたしますから仰ってくださいね!」
俺が寝転んでいる隣で、正座をしているシスハの太ももを枕代わりにしてルーナが寝ている。
くっ、羨ましい……なんて思わないぞ!
室内訓練所で自然の空気を味わうという、何とも奇妙な体験をしつつもシスハが持ってきたカゴの中身を取り出した。
それは彼女の作った弁当でおにぎりやサンドイッチ、肉や魚など豪華な物だ。
どうやらルーナのために張り切って作ったみたいだな。
俺も一緒に食べさせてもらっているが、丹精込めたのが伝わってくる出来栄えだ。
ルーナもフォークを使って美味しそうに食べている。
「うむ、シスハの料理も美味い」
「うふふ、お口に合ってよかったです! どんどん食べちゃってくださいね!」
「料理までこんな美味く作れるとかお前本当に多才だよなぁ」
「当り前じゃないですか、私は神官ですからね。まあ、ノールさんには劣りますがそれなりの自負はありますよ。サバイバルをするのに料理の技術も必要ですからね」
「神官がサバイバルする時点で何かおかしいんだよなぁ」
こいつはサバイバルするのに料理の知識を学んでたのかよ。
GCのURユニットだからか基本スペックが高くて、当たり前のように出来ることが多いよなぁ。
今回のはルーナのために特別張り切ったっていうのはあるだろうけどさ。
弁当を食べながらシスハ達と雑談をし、風景を切り替えたりとそれなりに訓練所ピクニックを楽しんでいる。
「確かにこれならわざわざ外に行く必要もないか」
「実際に人のいる街に行くのとはまた気分が違いますけどね。でもピクニック気分なら十分味わえますね」
「今度はマルティナ達も呼んでやろう。あいつなら喜ぶはずだ」
「あー、そうですね。あの方ならこういうのも喜ぶでしょう」
ルーナの話を聞いたシスハは、目を逸らしつつ頬をかいて何とも気まずそうな顔をしている。
マルティナを呼ぶって部分に思うところがありそうだな。
全く、まだシスハはマルティナとの仲がギクシャクしたままなのか。
「そういやまだシスハはマルティナと仲直りしてないのか? 仲直りって言えるか微妙なところだけどさ」
「別にもう怒ってなんていませんよ。普通に接しているじゃあありませんか」
「その態度でよく言うな……。明らかにまだぎこちないじゃないか。URユニットバトルはこれからもあるだろうし、毎回誰かが倒されて揉める訳にもいかないだろ」
「うむ、もう許してやれ。私は気にしていない」
「うぐっ……そ、それはわかっているんですよ。ですが一度怒ってしまった手前ちょっと……最後にボコボコにしたのを覚えていらっしゃるのか、未だに私の顔を見るとあの方ビクつくんですよね」
「そりゃあんなことされたらトラウマにもなるわな」
たこ殴りにした末にエクスカリバールでぶん殴ってからの顔面爆破だからなぁ。
前も似たこと言っていたがトラウマを抱えるのも仕方がない。
しかしいつまでもこのままじゃいけないと思うんだ。
「ルーナとシスハの最初の頃と比べたらまだマシだろ。ルーナの拒絶っぷりからあの頃は仲良くするのは無理だと思ったぞ」
「止めろ。その話は私に効く。黒歴史だ」
「あの頃のルーナさんもとても可愛らしかったですねぇ。拒絶されると余計滾ってくるんですよ」
恥ずかしそうに顔を赤らめているルーナと、一方何かを思い出しているのか恍惚な表情をしているシスハ。
本当によくあそこから仲良くなれたもんだなぁ。
俺から見たらシスハが変態にしか見えなくなってきたぞ。
って、少し話が逸れたな。
「まあルーナも気にしてないしお前だって怒ってもないんだろ? もうマルティナと普通に接してやってもいいんじゃないか」
「だいぶ普通に接しているつもりなんですけどねぇ。笑顔で歩み寄ってもビクビクしていらっしゃるんですよ」
「あいつはシスハが来ると私に密着してくる。小動物みたいだ」
「悪いと思っているんですけど、あの反応を見るとついからかいたくなるんですよねぇ」
「絶対関係が改善しないのお前のせいだろ……」
軽くではあるけど何かある度にからかってやがるからなぁ。
そりゃいつまで経ってもシスハ相手にビクビクしても仕方がない。
でも確実に距離は縮まってきてるだろうから、ルーナ達と一緒に交流すれば改善されるだろう。
まずは今度マルティナも誘って訓練所ピクニックに誘うか。
……訓練所って何なんだろうな。




