密約
王立図書館を後にした俺達は、レビィーリアさんを王都の拠点へ案内した。
その前に隠れながらスマホでノール達と連絡を取り、ノールとシスハだけ来てくれと伝えてある。
冒険者パーティーとして登録されているメンバー全員で迎えないと怪しまれるからな。
マルティナの存在がバレたのは少し痛いイレギュラーだったが……まあ、フリージアやルーナがバレるよりはマシかな。
そうして拠点前に到着すると、俺達の自宅を見てレビィーリアさんは感心の声を上げていた。
「おー、ここが君達の自宅か。王都の繁華街近くにこんな立派な家を買えるなんて、Bランクにしても随分稼いでるようだね」
「それなりですよ。色々と機会に恵まれましたので」
「お姉さんからしたら大したことでもないでしょ。王国騎士団の隊長さんなら凄く貰っていそうだもの」
「まあ、私もそれなりに貰ってる程度だよ。お金のために入団した訳でもないからさ。Aランク冒険者の方が稼ぎは上じゃないかな」
この家は1億5000万Gもしたからなぁ。
普通のBランクパーティーならポンと買えるような物じゃないはずだ。
王国騎士団の給料がどのぐらいか気になるところだが、Aランク冒険者は更に稼ぎが上なのかぁ。
そりゃ冒険者の頂点が稼げなかったら夢も希望もないわな。
自宅の扉を開き中へ入ると、すぐにノールとシスハが出迎えてくれた。
「お帰りなさいなのでありますよ!」
「お帰りなさ……あれ、そちらの方はどちら様でしょうか?」
シスハが首を傾けてキョトンとした表情でレビィーリアさんを見てそう聞いた。
こいつ、事前にスマホで連絡したから知っていたはずなのに、それを全く感じさせない自然な反応をしてやがる。
完全なる見た目詐欺モードのシスハを見て、レビィーリアさんはハッと息を呑んでいた。
本当に見た目だけは聖女と言っても過言じゃないからな……。
「初めまして、レビィーリアと申します。もう話は聞いてるかもしれませんが、王国騎士団所属の者です。今日はお話を聞こうかと訪問させてもらいました」
「あなたがレビィーリアさんでしたか。以前図書館でお会いしたと聞いていますよ。私はシスハ・アルヴィと申します。冒険者パーティーで神官を務めさせていただいております」
「同じくメンバーのノール・ファニャなのでありますよ! よろしくお願いするのであります!」
そう言ってノールとシスハと握手したレビィーリアさんは、何故か若干顔を引きつらせて冷や汗をかいていた。
ん? 特におかしなことはなかったけど、どうしてあんな表情をしてるんだ?
疑問を抱きつつ全員席に着くと、エステルが仕切るように話を始めた。
「さて、それじゃあさっそくお話といきましょうか。あっ、この家は色々魔法が施されているから、外に話は漏れないから安心してね」
「それはまた……つまりこの中で何が起きても外からわからないってことだよね? おー、私から提案したこととはいえ怖いなぁ」
「何もしないから安心して頂戴。それにこの2人を見て更にそんな気起きなくなったでしょ?」
「私達がどうかいたしましたか?」
「であります?」
「お嬢さんの言う通りだね。この国にこんなおっかない人達がいたなんて驚いちゃったよ。あっ、そこの君も含んでいるからね」
「えっ、僕もですか!? ……クックック、僕の力を見破るなんてやるじゃん!」
「あっ、すいません。こいつ調子に乗るとこうなるんで……」
「あははは、面白そうな子だね。こんな時でもなきゃじっくりお話させてもらいたいところだよ」
さっきの反応はノール達の実力を感じて驚いていたのか。
戦いもせずそれがわかるのは、この前の魔導具工房の工房長と同じなのかな。
王国騎士団ともなればそれぐらい出来ても不思議じゃない……というか、工房長がそれをできる方が異常に思える。
当たり障りのない会話が終わると、確認するようにシスハが質問を投げかけた。
「それでどのようなご用件でいらっしゃったんですか? 大倉さん達が図書館に行く予定でしたから、そこでお会いしてこうなったのはわかりますが……」
「ちょっとした誤解というか、色々と疑われちまってな。魔人について俺達と話したいそうだ」
「魔人についてでありますか? でも私達もそんな詳しくないでありますよ。それを調べるのに図書館に行ったのでありますよね?」
「そうね。そしたら私達が魔人の関係者じゃないのかと疑われちゃったみたい」
「えっ、僕達が魔人の関係者!? なんで図書館でそんな話になるのさ!」
うん、そりゃ図書館行っただけでそんな話になるなんて驚くわな。
驚いてるってことは、あの時マルティナは途中からレビィーリアさんの背後に来ていたのか。
なんの話をしてるんだろうって疑問に思ってただろうな。
それに関して改めるようにレビィーリアさんは説明を始めた。
「君達は疑わしい点が多いからさ。魔人関係の出来事の遭遇率、Bランク冒険者とは思えない強さ、普段の活動の不透明さ。更に専門家でも得るのが難しい秘匿された亜人の情報も知っている。これで異常と思わない方がおかしいよ。魔人と何か関わりがあると疑う方が自然じゃないかな」
「ほほう、それはまたなかなか飛躍した思考をしておりますね。もっとも、あなた方が把握している魔人の知識を知らないので何とも言えませんけどね。少なくとも私達としては魔人はぶちのめしたくなる敵なのですが」
「へぇー、それはまたどうしてなのかな?」
「異変の調査に行ったら魔人が関わってたことが多いでありますからね。あれを放置できないって考えは理解できるのでありますよ」
何体も魔人と遭遇したけど、報告したマリグナントだけに限ってもとんでもない奴だったからな。
強大な魔物と大量の魔物を発生させたり、眷属を使って結界を解除しようとしたり、終いには守護神の偽物を呼び出して町を破壊しようとしたりなど、どれ1つとっても放置できない。
マリグナント自体嫌な奴だったし、思い出しただけでもぶちのめしたくなる相手だった。
ミラジュや影の魔人のこともあり、敵という認識はレビィーリアさん達と変わらないはずだ。
「それで2人に会ってみた感想はどうかしら? あっ、マルティナも含めたら3人ね」
「うーん、とりあえず魔人から力を貰った線はなくなったかな。少なくともこんな凄い神官様の目を掻い潜って、君達に悪意ある魔法を施したりはできないね。というか、あなたは一体どこの神官様なのかな? 正直この国の聖女よりも……」
「うふふ、私の体を通して滲み出る神聖な力は隠しきれないようですね。無名の聖女とでもお呼びください」
レビィーリアさんの尊敬しているような眼差しを受けて、シスハはどや顔で胸を張っている。
おいおい、こいつ自分から無名の聖女とか名乗ってやがるぞ……。
それよりもこの国の聖女とか呟きが聞こえたけど、この国にもそういう存在っているんだな。
「それだけじゃなくて騎士の方も凄そうだし、そっちの……影の薄い子もなんか凄いよね。魔法使いのお嬢さんだけかと思ったけど、大倉君以外は皆凄腕だったんだね。最初は手合わせでも願おうかと思ってたけど、会った瞬間その気も失せちゃったよ」
「お、俺以外はですか……」
「か、影が薄い……うぅ、そりゃ気配を消してるけど影が薄いって……うぅ」
「むふふ、凄いと言われると照れるでありますな」
グッ、俺以外ってハッキリと言われたぞ!
そりゃノール達と比べたら天地の差があるけど、俺だってそれなりに成長したと思っている。
でも騎士団の人から見たらやっぱり俺もまだまだのようだ。
く、悔しい……けど、GCのURユニットは世界的に見ても特別な存在ばかりだし、そんな相手と競うこと自体間違いだな。でもこの反応は悔しいです!
俺がそんな風に思っていると、レビィーリアさんはこれが本命の話だと言わんばかりにある提案をしてきた。
「ここは1つ取引はどうかな? 君達への疑惑は一旦保留にしておくから、お互い魔人に関しての情報を定期的に交換しよう。勿論今回の話は私だけで留めておくから、国じゃなくて私個人との取り引きだと思ってほしい」
「王国騎士団の人なのにそんなことしていいの? それって下手をすれば背任行為よね」
「うーん、ギリギリのラインかな。もし私の読みが外れて君達が魔人と関わっていたら、私の首が飛んじゃうよ」
そう言いながらレビィーリアさんは首の前で片手を横にスーッと動かしている。
それはクビになるって意味なのか、物理的に首が飛ぶのか……どちらにせよ軽い処分じゃ済まなそうだ。
「それはまた穏やかな話じゃありませんね。そこまでして私達に肩入れする必要がありますか? てっきり怪しいから城に連行して取り調べでもされるかと思いましたよ。されたところで期待しているような結果にはなりませんけど」
「疑うようなことばかり言ってたけど、私としては君達は違うと思ってるんだよね。けど、国側の立場から君達を見たらさっきのような対応をされかねないのはわかってほしい。私はまだ穏健派だけど、騎士団の中には過激派もいるからね。今後は相手を見て話す内容にも注意した方がいいよ」
「確かに迂闊だったのは否めないわね。けれど、そんな嫌われ者を演じてまで私達の身を案じてくれるのはちょっと引っかかるわね」
素直に聞けば心配してくれる良い人な感じがするが、図書館でのあの雰囲気は本気としか思えなかったぞ。
でも俺達が注意不足だったというレビィーリアさんの言い分もわからなくはない。
何にせよ騎士団で処分を受ける危険を冒してまで俺達と関わろうとするのはなんか怪しい。
そのことについて遠回しにエステルが言うと、特に動じる様子もなくレビィーリアさんは返答をしてきた。
「君達の話を聞いていて危うさを感じたからね。それにもし王城に連行でもしようとしたら、逃げられて二度と出会えなくなる予感がしたんだよ。正直本気になっても君達を捕まえられる自信はないかな」
「クックック、逃亡なら僕の右に出る者はいないよ! 数多の修羅場を潜り抜けてきたからね!」
「ん? 君何か追われるようなことでもしたのかな?」
「あっ、いや、その……な、何でもありません!」
マルティナが青い顔をしながら慌てている。
こいつ逃亡って単語に反応しやがって……ある意味逃げることに慣れていそうだもんな。
実際そんな面倒なことになったら、この国から逃げ出すのも視野に入れていたかもしれない。
ビーコンさえあれば即座に遠くまで移動できるし、そこから魔導自動車をかっ飛ばせば追い付ける奴なんていないからな。
でも色々と失う物が多過ぎるから、できるだけその手は避けたいところ。
何となくだがレビィーリアさんもその点は察しているかのようだ。
「そんな訳だから、これからは協力関係を築いていこうって話かな。パーティーメンバーを見て実力もよくわかったからね。情報交換だけじゃなくて、国と何かあった時に騎士団として擁護もしてあげられるよ」
「それは魅力的だけれど、そこまでして私達と手を組みたがる理由があるのかしら?」
「私はこれでも一応騎士団の隊長だからね。そう簡単に動ける立場じゃないんだよ。下手に動くと貴族を刺激しちゃったり、団長から叱られちゃうんだ」
「騎士団として立場があると動きづらいでありますねぇ。その苦労よくわかるのでありますよ」
「協力とは言ってるけれど、それって監視の意味も含めてるわよね。ある程度私達の行動を把握しておきたいんじゃないの?」
「それも否定はできないかな。でもこうやって協力していけば信頼関係も築けるよね。君達が国と関わりたくないことはわかってるから、騎士団として正式な依頼とかはしないさ。魔人関連で何か調べて貰ったり、君達の知る情報を教えて貰う程度でいいんだ」
うーん、その程度の協力をする約束で信頼を得られるのなら俺達としては悪くないな。
国とあまり関わりたくないこともわかってくれてるみたいだから、あくまでレビィーリアさん個人との約束ってところか。
俺達が下手なことさえしなければ国へ報告はしないというところだろう。
どうしたものかとエステル達の様子も窺ってみると、シスハと目が合い頷いてこの話に肯定的なご様子だ。
「立場的にこの取引を拒否して不利になるのは私達ですから、引き受けてもよろしいんじゃないでしょうか。一切やましい部分はありませんが、どうせ国に呼ばれでもしたら色々面倒ですからね。裏切られて報告されても国に呼ばれるだけですから、この方と取引するだけで済む現状は十分譲歩されてますよ。いくら情報を知りたいとはいえ、騎士団の方が私達とこんな裏取引をするメリットがほぼありません」
「裏切るなんて人聞きが悪いなぁ。もし国へ報告したら正式に国から色々聞かれるだろうね。白だとしてもそこから君達に依頼がきたり、拒否しても貴族達から圧力がきたり……まあ、間違いなく面倒ごとになるのが目に見えるね」
シスハの言う様にレビィーリアさんと取引をして不利になることは何もないな。
もし取り調べを受けても罰せられるようなことはなさそうだが、そこから繋がりが出来て国からあれこれと依頼が来ても面倒なことこの上ない。
国どころか貴族から依頼を受けてくれとか言われたら最悪だ。
それならまだレビィーリアさんと取引をして信用を得た方が無難かな。
今後また疑いをかけられたりしたら、彼女から何か手助けをしてもらえる可能性もある。
それにこんなに事情を察してると念押ししてくれてるし、そこまで無茶なお願いもされないだろう。
「わかりました、その条件で取引をします。本当に魔人に関しての情報交換や調査に行くだけでいいんですよね?」
「おー、良い決断力だ! それだけと確約できるかわからないけど、君達に強制するようなことはしないよ。何か困った時に別のことをお願いするかもしれないからね。その時はちゃんと報酬も用意するから安心してほしい」
「絶対って言わない辺りまだ誠実なのかしら。でも私達の活動に影響が出る程の協力は難しいわよ?」
「そこは勿論君達の活動を優先してもらって構わないよ。あくまでこの取引の目的は信頼関係の構築さ。あ、君達の方から知りたいことがあれば聞いてもらっても構わないよ。私だって言えない機密事項はあるから、言える範囲でしか教えられないからね」
つまりお互いに出来る範囲で譲歩しつつ情報交換をしようってところか。
俺達も魔人の話で知りたいことがあるし、こうやって約束することで更に踏み込んだ話もできるはずだ。
そんなこんなで口約束ではあるものの、俺達とレビィーリアさんは秘密裏に繋がりを得たのだった。
最近魔導具工房とも似たようなことをしたし、だんだん政治的な世界に入り込んでいるような……。




