『ヤァー!』
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明日の7月28日に漫画版9巻が発売いたします。
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サレナが帰還した後、俺達は魔導自動車に乗って地下都市を走行していた。
俺が運転をしつつ助手席のエステルに地図アプリを確認してもらい、ゆっくりした速度で安全運転を心がけている。
「いやぁ、無事に地下都市を攻略できてよかったな」
「これも機械神様のおかげね」
『ヤァ! ヤァ!』
「うふふ、ごめんなさい。あなたにも感謝しているわよ。一緒に装置の解析をしてくれたものね」
車内でふわりと浮かぶミニサレナが両手を広げてアピールするのを見て、エステルが笑いながらお礼を言っている。
うーむ、本体のサレナに比べるとミニサレナはお茶目と言うか愛嬌があるな。
モフットとはまた違った感じで愛らしさを覚えるぞ。
その一方、後部座席では初めて魔導自動車に乗ったカルカが大声を上げてはしゃいでいた。
「なんだよこの動く箱! こんな面白い物乗ってたのかよ!」
「カルカちゃん楽しそうなんだよー」
「当り前だろ! ずっとあの部屋に閉じ込められてて暇だったんだぞ!」
「わかる! 私もよくあそこに閉じ込められるもん! 平八鬼畜なんだよ!」
「人を鬼畜なんて言うんじゃあない! あそこは安全なんだからいいだろ!」
まるで俺が無理矢理監禁しているような言い掛かりは止めてもらいたい。
ディメンションルームは安全地帯だし、中で待機させておけば援軍としてすぐに呼べるから仕方がない。
できるだけ内部は快適な空間にしてあるけど、フリージアと同じくカルカも室内で待機するのは退屈だったようだ。
帰りは安全なんだからいいだろ! って押し切られたので、代わりにガルレガとアガリアがディメンションルーム内で待機してカルカは外に出て同行することになった。
ガルレガ達は装置を停止させるのに疲れ切ってたから丁度いいって喜んでたけどな。
疲れていたカルカもすっかり元気になっており、フリージアと一緒にはしゃいでいるのが現状だ。
そんな彼女達に仕方がないなと思っていたが、シスハ達もまた違った形で話が盛り上がっている。
「こうやって町中を走っていると観光気分になりますね。迷宮化していたせいか町の状態も当時から変わってないようですよ。戻るつもりはないとガルレガさんが仰っていましたけど、十分生活可能なぐらいですよね」
「これは重要な文化的遺産になるよ! こんな保存状態のいい遺跡なんて滅多にお目にかかれないからね! ここに住み着いて隅から隅まで調べ尽くして……ぐふ、ぐふふふふ」
「マルティナは歴史的な物が好きなのでありますねぇ。ワクワクする気持ちは私もわかるのでありますよ」
目をキラキラと輝かせて窓の外を眺めるマルティナに苦笑しつつも、ノールやシスハも興味津々といった様子で街並みを見ていた。
迷宮化の解除された地下都市は緑色ではなく、様々な色の建物が並んでいて今でも人が住んでいるかのようだ。
その代わりに全体を照らしていた緑の光もなくなっていて暗いから、魔導自動車のライトと追加機能の照明球を使っている。
照明球は複数の光る球体を車の周囲に展開して、外と思えるぐらい明るくしてくれる機能だ。
暗視モニターやサーモグラフィー機能もあるけど、今は街並みを見たいと要望されたのでこっちを使っている。
観光気分でゆったりと町中を走行しつつ、カルカ達と一緒に地下都市に入った門へ到着。
「カルカさん、開けられそうですか?」
「ああ、これならいけそうだ。今の地下都市で使ってる門と殆ど同じだぞ。開けるからちょっと離れてろよ」
宮殿を出発する前に、アガリア達と話し合ってカルカに門を開けてもらう手筈になっている。
地下都市の門は土の精霊術によって開閉されていて、見上げる程巨大な門も1人で開けられるらしい。
門も迷宮化のせいで精霊術で干渉できなかったけど、それが解除された今この門も開けられるはずだ。
俺達が少し離れた場所で見守っていると、カルカが門に触れて何やら呟いている。
すると門がゴゴゴと鈍い音を立てながらあっさりと開いてしまった。
「おー、あんなデカい門が動くのか。精霊術って凄いんだな」
「エルフの場合は森の精気で、ドワーフの場合は地脈の力を使っているようね。場所次第じゃ魔法よりも遥かに力の効率がいいみたい。ドワーフの精霊術は地下に潜れば潜るほど力が増すようね」
「魔人がドワーフに目を付けたのもそれが理由の1つかもしれませんね。エルフの森を狙っていたのも、精霊術が関係している可能性もありますよ」
なるほど、場所によって発揮できる力が変わる精霊術は、使い方次第で魔法を凌駕する効果を発揮できるのか。
地下都市にあった鉱物を生成する装置もドワーフの精霊術ありきの物だろうしな。
エルフの里がマリグナントに狙われていたのは、エルフ達の精霊術を何かに利用しようとしていた可能性もある。
後でガルレガ達にドワーフやエルフ以外にも、精霊術を使える存在がいるのか詳しく聞いてみよう。
そう考えていると、助手席にあるモニターで地図アプリを見ていたエステルが声をかけてきた。
「あら、地図に赤い表示が出てきたわ。地下都市の外に出たらまだ魔物がいるようね。お兄さんどうする?」
「うーん、ステルス迷彩を使ってスルーしてもいいけど、狩れるなら狩っておくか。倒しておけばまた湧くかどうかもわかるしな」
「それなら任せて! 車の武器で倒して――」
『ヤァー! ヤァヤァ!』
フリージアの言葉を遮ってミニサレナが突然声を上げた。
何事かと一旦車両を停止させて後ろを見れば、宙に浮いたミニサレナが両手に腰を添えて胸を張っている。
何かを主張しているように見えたが意味がわからずにいると、フリージアが驚いた顔で返事をし始めた。
「えっ? 任せてほしいの?」
『ヤァ!』
「ミニサレナがなんて言ってるのかわかるのか……」
「うん! なんとなくわかるよ! 魔物を倒すの任せてほしいって言ってるんだよー」
『ヤァヤァ』
フリージアの言葉に同意するようにミニサレナは頷いている。
えー、任せてほしいと言われてもなぁ……。
サレナにミニサレナは戦闘向きじゃないって言われたし、一体どうやって魔物を倒すつもりなんだ?
聞く間もなくミニサレナの体から複数の光の線が出てきて、魔導自動車の後部座席にある複数のモニターと繋がった。
「な、なんだ!? 車と接続し始めたぞ!」
「あっ、マジックタレットが動いてるのでありますよ!」
「なるほど……この車は魔導具的な物だから、ミニサレナさんなら操るのはお手の物なんだね。くぅー、合体してるようでカッコいい!」
透き通った車体の上部を見ると、ウィンウィンと音を立てて複数のマジックタレットが動いている。
念のために魔導自動車のマジックタレットを4門に増やしておいたのだが、ミニサレナは単独で全てを制御しているようだ。
つまりこれは火器管制ユニット的な存在になっているのか?
どうだと言わんばかりのどや顔をしているミニサレナに不安を覚えたが、その実力を確かめるために車を発進させた。
地図アプリに表示されていたのは複数のガーゴイルで、射線が通った瞬間にマジックタレットが火を噴いて次々と当てていく。
地面にいるのは勿論、宙を飛んでいる奴にも初弾からぶち当てて、ガーゴイルのHPが完全に尽きると同時に射撃を止めて無駄弾が一切ない。
しかも4門同時に動いてそれぞれ別の標的を狙っており、 しばらく走り続けて何度か魔物と遭遇したけど敵を目視したかと思えば一瞬で倒してしまっている。
完全に機械的な動作をした外さないエイムだぞ……。
マジックタレットでこれってことは、他の車載装備も全部扱えそうだ。
ミニサレナの実力を見たフリージアはパチパチと音を立てて拍手している。
「おー、ガーゴイルを全部倒しちゃったんだよ! ミニサレナちゃん凄い!」
『ヤァー!』
「車以外にも他の魔導具を渡せば適切に扱えそうね。色々と頼りになりそうだわ」
「もう何でもありだと思っていたが、この小さな奴までとんでもないんだな。あんたらに戦いを挑んだのが恐ろしくなってくるぞ……」
ガーゴイルが殲滅されていく様を見て、カルカは青ざめて顔を引きつらせている。
ここまで俺達がやってきたことを思えば、こんな奴らと戦うなんてどうかしてたと思っても仕方がないよな。
俺だってカルカの立場だったら、無事に済まされてよかったと安堵してるぞ。
まあ、俺の場合は基本的にむやみやたらと戦おうなんて思わないけどさ。
そんな一幕もあったけど帰りは何事もなく順調に魔導自動車で進んでいき、行きと比べ物にならない早さで不壊の壁に到着した。
「行きはあんな時間をかけて移動したのに、これだとあっという間じゃんか。普通に歩くのが馬鹿らしくなってくるぞ。人間ってこの乗り物がそこら辺を走ってるのか?」
「ガルレガさんも聞いてきましたけど、これを持ってるのは私達ぐらいですよ。一般的な早い移動手段は馬とかの動物に乗ることですね」
「へぇー、人間もあたい達と大して変わらないんだな。町はどんな感じなんだ?」
それから意外にもカルカは王国について色々と質問をしてきた。
どんな町があるのやら、どんな風に暮らしているんだとか専門的じゃないごく普通の事だけだ。
あれだけ人間のことを嫌っていたのに、随分と積極的な質問が多いなと俺が思っていると、シスハも同じように感じたのか微笑みながら指摘しだした。
「最初は人間を敵視していましたけど、カルカさんは人間の町がどんなところか興味がおありなんですね」
「うっ……し、仕方ないだろ! 親父やじいちゃん達に散々人間は信用するな! って教えられたんだしさ。会ったのはあんたらが初めてだったんだ」
「そう教え込まれたら信じちゃうのも無理はないわね。でも、中には本当に教えられた通りの人もいると思うから、信じすぎるのもよくないわよ。私達の知ってる現状を考えると、人間に会うなって教え自体は正しいと思うわ。だからって、いきなり襲い掛かったら本当に敵になっちゃうけどね」
「も、もうやらないから許してくれよ! これからはちゃんと話を聞くからさ!」
からかう様に笑うエステルにカルカは涙目で謝っている。
確かに人間と交流したことがなくて、ずっと敵だと教えられたら敵視するのも無理はない。
その誤解が解けたのはいいけど、ドワーフ達が伝えてきた話も完全に間違いって訳じゃないからなぁ。
実際に王国じゃ亜人の存在は抹消されてるから、ドワーフが迂闊に王国に行けばどうかるかわかったもんじゃない。
未だに王国とドワーフの間で何があったのかわからず仕舞いではあるが……今後何かわかるのだろうか。
とりあえず和やかな雰囲気のまま、カルカの案内で遠征隊の拠点へと向かうのだった。
前書きにも書きましたが明日の7月28日に漫画版9巻が発売いたします。
ノールがメインの話が多い巻となっておりますので、お読みいただけると嬉しいです!
ノールが珍しくヒロインをしております!




