宮殿探索
魔物はびこる庭を魔導自動車で突き進み、俺達は戦闘することなく宮殿に到着した。
正面の入り口に停車させて魔物が周囲にいないのを確認してから降りて、魔導自動車をスマホに収納する。
「よし、無事に宮殿に辿り着けたな」
「迷宮内で車に乗るとは思わなかったでありますよ」
「そうね。魔物に気づかれずにあの速さで動けるなんて、やっぱり凄く便利な魔導具だわ」
「うむ、交換して正解だ。もっと強化して快適にするべきだ」
ルーナは魔導自動車が恋しいのか残念そうな顔をしている。
まさかこんなところで活躍してくれるとは思ってもみなかったな。
魔法のカーペットだと移動は速くても魔物に見つかって襲撃されてただろうし、透明で走れるだけでも魔導自動車はチート級のアイテムだぞ。
ガチャを少し我慢してでも魔石を使って、フルカスタムしてもよさそう……いや、ガチャを我慢するのはきついな。
それはいいとして、ようやく目的地である宮殿だ。
全体が緑色に染まってここも迷宮に侵食を受けている。
入り口部分だけ突起のように飛び出していて、地下都市の壁面内部に続く形で掘られた広大な空間が存在していた。
壁一面に窓や装飾などが施されており、建物と言うよりは彫刻のようだ。
迷宮化の影響で当然窓も透明な緑になっていて、コンコンと叩くと鉄のように硬い感触が返ってくる。
そんな宮殿を見たマルティナは目をキラキラと輝かせて興奮していた。
「ここがドワーフの宮殿か! ドワーフのこういう建築物を見るの初めてだ! 探索し甲斐がありそうだ!」
「探索楽しそうなんだよ! 何があるんだろうね!」
「2人してはしゃいで勝手に動き回らないでくださいよ。どんな罠があるかわかったものじゃありませんからね。絶対に先走って宝探しなどしてはいけませんよ、絶対に」
1番先走って宝探し始めそうな奴が何か言ってるんだか……おっと、睨んできやがったぜ。
誤魔化すようにシスハから視線を逸らすと、ガルレガも宮殿を見て感慨深げにしている。
「ここがステブラの象徴である宮殿か……。まさか生きてる内に到達できるとはな」
「ガルレガさん、この宮殿に目的の何かが存在するんですよね?」
「ああ、ここは地下3階の広大な空間が設けられていて、その最深部にそれは存在するようだ」
「大きな1階建ての建物に見えたけれど、地下にも色々と作られているのね」
「地上部分には会議室などの用途の部屋が多いようだが、地下は保管庫になっていて様々な物を蓄えていたようだ。200年前の襲撃の際は殆ど持ち出せずに残してきたと聞いている」
「ほほぉ、それはお宝の匂いがプンプンといたしますね。どんな物があるか楽しみですよ」
「……3割でいいか?」
「うふふ、あなたも話がわかってきたじゃないですか。ですが今回は3割よりも優先的に物を選ばせてほしいですね」
「くっ、いいだろう。だが我らに重要な物は勘弁してくれ」
「それぐらいは譲歩いたしましょう」
またこいつは……ガルレガもすっかり反論するのは諦めたのか、受け入れつつも交渉する方向に考えを変えたようだな。
地図アプリを見ても宮殿の地下に空間があるのも見て取れる。
ドワーフの地下にある保管庫か……どんな物があるのか期待しちまうぞ。
ミスリルと違ってどんな物があるのかわからないし、貰う量よりも物を選んで質を優先するのはさすがシスハだ。
なんか妙にこういう交渉に手馴れている気がするけど、まさか普段から同じようなことしてるんじゃ……。
そんな疑問も浮かびつつも宮殿を探索しようと思ったのだが、今度は真面目な疑問が頭を過った。
「それにしてもこの迷宮の最深部はどこなんだろうな」
「うーん、単純に考えたらこの宮殿の最深部が迷宮としての最深部なんじゃない?」
「その線が濃厚ですがちょっと予想がしにくいですよねぇ。もしそうならボス的存在もいそうですが、そうなるとボスも小さめになりそうです」
「活性化してない迷宮ならそこまで強い相手も出てこなそうでありますよ」
町中を探索しても迷宮の最深部になりそうな場所もなかったし、スマホを設置できる端末がありそうなのはこの宮殿だよなぁ。
ガルレガの目的の物も探さないといけないのに、迷宮の最深部としてボスまでいたら厄介なことになりそうだぞ。
カルカ達にも宮殿を軽く見せると大喜びしていたが、危険なので再びディメンションルームに待機してもらい、俺達は宮殿内部に足を踏み入れた。
宮殿なだけあって中は装飾品など豪華に見える造りになっていて広々としている。
今までの迷宮に比べると元々住居だったこともあり、緑色になっていること以外は物騒な雰囲気を感じない。
だが庭みたく警備するように武装したメタルコロッサスが複数いて、侵入者を探すようにうろちょろしている。
「ここもメタルコロッサスが徘徊しているから、見つからないように動かないと駄目そうだな」
「また隠れん坊なんだよー」
「クック、室内の隠密行動なら任せてほしい! 闇の住民としての本領をお見せするよ!」
「ふむ、面倒だ。平八、床をぶち抜いてさっさと地下へ行こう」
「そんな!? 僕の見せ場が……」
マルティナの奴四つん這いになって落ち込んでやがる……そこまで活躍したかったのか。
完全に俺がルーナの提案に乗ると思っているみたいだな。
「いや、できるだけ正規の入り口を探して進んで行こう」
「お兄さんがそんなこと言うなんて珍しいわね。いつもなら仕掛けなんて無視して突き進むのに」
「まさかそれ以上に何か良からぬことを考えているのでありますか!?」
「大倉さんならあり得ますね。一体何を企んでいるんですか?」
どうして俺が普通に行こうと言っただけで、更にあくどいこと考えてるって発想になるんだよ!
本当ならルーナの提案には賛成したいところなのだが、ちょっとした懸念点がある。
「どうせ保管庫やらを探索するんだし、中途半端な場所に降りても後々めんどくさいからな。ちゃんと順番に沿って探索するのも時には大事だ。それに安全を確認できるとはいえ、直下掘りは危険だってよく言われている。横の移動に比べたら、下に降りた途端何かあったらまた上に登るのも大変だろ? ……お宝を取り逃したくないしな」
「未知の場所では慎重に動くべきだと思うよ。……せっかくのドワーフの宮殿は隅々まで調べたいじゃないか」
「2人共欲望が駄々洩れているでありますなぁ」
「まあ裏があるにせよ考え自体は一理ありますか。ガルレガさんもこの宮殿に関しての知識は少ないんですよね?」
「地図は持っているが詳しい情報はほぼないな。保管庫に罠の類はないと聞いているが、正確な話はよくわからない。なんせ宮殿の探索はまだまだ遠い話だと考えていたからな。当時の宮殿内を知る者も殆ど残っていないのもある」
「アガリアさんは知らないんですか? 襲撃が起きる前からステブラに住んでいたんですよね?」
「アガリアは宮殿に入れるほどの立場じゃなかったからな。俺の親父が一応入れはしたが、自由に宮殿内を歩き回れるほどではなかったようだ。地下は特に厳重に秘匿されていて、入れないどころか一部の者以外存在すら知らなかったらしい」
宮殿だけあって入るのに色々と制限があったのか。
しかも保管庫のある地下はあることすら隠されていたとは……よっぽど大事な物があるのかね。
とりあえず危険な罠とかはなさそうなのは安心できたが念のため警戒しておこう。
そんな訳で地図アプリなどでメタルコロッサスを避けつつ、またディメンションホールで壁を通り抜けて地上部分を探索していく。
だが、特に何か発見することもなく次から次へ部屋を移動するだけになっていた。
「うーん、ここは特に目ぼしい物はなさそうだな」
「広い部屋に大きな丸いテーブルがあったぐらいなんだよー。つまんない!」
「会議室や応接室、台座のある展示室とか一般的な用途の部屋ばかりだったね。展示室に物がなかったのは、逃げる際に持ち出したのかな?」
「ここならすぐさま持ち出せますからね。元々何も展示してなかった可能性もありますが」
展示室まであるとはさすが宮殿ってところだな。
何かお宝が展示されてないか探したけど特になかったのが残念だ。
ガルレガの話では当時はここでよくドワーフの名匠達が作った物品が飾られていたとか。
ミスリルの剣や鎧やら国宝級の物ばかりあったと父親から話を聞いたらしい。
魔物の襲撃のどさくさでどうなったかわからないそうだけど、探せばどこかに落ちてたりしないかな。
その後も特に問題もなくこの階の探索を終え、地下へ続く大きな扉に到着した。
「よし、ここが地下に行く扉だな」
「あら……お兄さん、ここにパズルと鍵穴があるわよ」
「パズルを解いて鍵を差し込まないと進めなさそうでありますね」
「クックッ! 謎を解いて進むとは心が躍るじゃないか! 僕に任せてくれ!」
「鍵があるなど聞いていないぞ……。宮殿内を探せばどこかにあるのだろうか」
「わー! 鍵探しだ! 楽しそうなんだよ!」
ガルレガは本当に知らなかったのか、扉の存在に困惑しているようだ。
扉には鍵穴が付いていて、その横には物をはめ込むパネルもありはめ込む複数の欠片が置かれている。
パズルを解いた上で鍵までないと入れないとか厳重に施錠されているな。
マルティナはパズルの存在に喜び、フリージアも更なる探索に心を躍らせている。
だが、この平八がそのようなことをすると思っているのか?
「いや、めんどくさいからディメンションホールで強行突破するぞ」
「えっ、なんでさ!? 慎重に行くんだろ!」
「慎重に進むが正々堂々ギミック解除をするなんて言ってないぞ。鍵を無理矢理破るに限る」
「そ、そんな……僕の出番が……」
「ぶー! 鍵探ししないのつまんないんだよ!」
「これでこそ大倉さんですね」
「うむ、さすが平八だ」
「ふふ、こういうところもお兄さんのいいところよねぇ」
「相変わらずエステルは大倉殿に対して全肯定でありますね……」
「あら、そうでもないと思うわよ」
エステルがニコニコと俺の方を見てきて、思わずビクッと体を震わせてしまった。
エステルさんは基本優しいけど時には厳しいからな……調子に乗らないように気を付けなければ。
不満を垂れるマルティナとフリージアを無視して、扉にディメンションホールを突き刺して穴を開き、俺達は地下へと進むのだった。




