長の襲来
突然襲来してきたガルレガと名乗るドワーフに、俺だけじゃなくエステル達も困ったように眉をひそめていた。
「おい、またなんか出てきたけどどうするよ?」
「あのドワーフさん達約束を反故にしたのかしら。しょうがないわね。また大人しくさせるしかなさそうよ」
「話し合いに応じそうな感じはしませんね。1人で立ち向かってくるとは相当な自信がおありのようですよ」
「それならまた私が相手するのであります! 無傷で制圧するのでありますよ!」
筋骨隆々でまさに戦士という見た目をしているドワーフだ。
口ぶりからして言葉で解決できる気がしないな……カルカ達のように実力行使で無力化するしかないか。
一応ステータスを確認しておこう。
――――――
●ガルレガ 種族:ドワーフ
レベル:78
HP:2500
MP:550
攻撃力:1070
防御力850
敏捷:50
魔法耐性:10
固有能力 土精霊の加護(小)、鍛冶の才(玄人)
スキル 精霊術(土)
――――――
おお、カルカよりも全体的にステータスが高いな。
ガーゴイルやらが徘徊している場所で活動していて、魔物との交戦頻度も多いからだろうか。
そういえばさっき遠征隊だとか言ってたし、ここに来ているのは武闘派ドワーフだったりして。
だが、このステータスなら俺でも十分相手はできそうだな。
ガルレガに対して前に出ようとしたノールを俺は制止した。
「待った、今回は俺が相手をするぞ。ステータスもそんな高くないしな」
「えっ、大倉殿で大丈夫なのでありますか!? 無傷で相手を制圧するのはむずかしいでありますよ?」
「任せておけって。それに一応代表としてドワーフに認識されちまったからな。俺が無力化しておけばカルカ達も納得するだろ」
「そうね。さっき疑わしい目でお兄さんを見ていたし、ここで実力を示しておくのも悪くないかもね」
「ほほぉ、大倉さんにしては積極的ですね。お手並み拝見といきましょうか」
「平八のやることだ。ロクな予感がしない」
「僕に任せてくれてもいいんだよ? そろそろ活躍したくて僕の右手が疼いて……クッ、治まれ!」
さっきカルカに俺が本当にリーダーなのかと疑われたからな。
ここで実力をある程度示しておけば交渉も多少はしやすくなるだろう。
右手を抑えて何やら言ってるマルティナをスルーして、俺は1人前に出てガルレガに声をかけた。
「私は大倉平八といいます。カルカさん達からお話は聞きませんでしたか?」
「ハッ、カルカを言い包めたのはお前か! どうせ魔法で幻でも見せたのだろう! あの壁をそう簡単に突破できるものか!」
「いや、魔法で幻なんて――」
「問答は無用だ! お前のような胡散臭い者と話す気はない! 怪我をする前に退くのが身のためだぞ!」
そう言ってガルレガは斧を持ち上げると、勢いよく柄で地面を突いて地響きを鳴らし土煙を上げて威嚇してきた。
はぁ、わかっていたけどやっぱり会話でどうにかするのは無理そうだな。
脅すような行為で威圧感もあったが、もうノール達で色々と慣れていたので俺は無言で笑顔を返してやった。
これで気弱な奴だと少しは見えなくなるだろう……実は若干怖くはあるけどさ。
俺の意図した通りに、威嚇に微動だにしないのを見てガルレガは感心しているご様子。
「ほう、退く気はないか。後ろの騎士ならいざ知れず、お前のような覇気のない者が俺と戦うというのか」
「この集団を率いてる者ですからね。あなたがドワーフの長と言うなら私が相手をするのが筋でしょう」
「威勢はいいが実力を伴っていないと無謀でしかないぞ! ならば望み通り叩き潰して――ぐぅ!?」
斧を構えようとしたガルレガに、背後から銀色の液体が降りかかって纏わり付くように全身に絡みつく。
液体は即座に硬化して彼を完全に拘束してしまった。
突然の出来事に何が起きたかわからずガルレガは叫んで暴れている。
「な、なんだこれは!? うおおおおぉぉぉぉ! はああああぁぁぁぁぁ! ――う、動かん!」
顔を赤くさせて抜け出そうとしているが、銀色の塊は全くビクともしていない。
……ふふっ、計画通り。そう、あの銀の物体は密かに射出しておいた俺のセンチターブラだ。
会話している間に背後に回り込ませて、タイミングを見計らって襲い掛からせた。
そして前にシスハとの模擬戦でやったように全身に絡ませての拘束。
あのシスハでさえ抜け出せなかったし、ガレルガも必死にもがいているが拘束が緩む様子は一切ない。
「私の勝ちですね。大人しくしてください」
「こ、この卑怯者! 不意打ちで拘束など戦士として誉れはないのか! 恥を知れ!」
「誉め言葉として受け取っておきますよ。危害を加えるつもりはないのでご安心を」
「何たる屈辱を……絶対にお前は許さんぞ!」
ガルレガはあまりの怒りに体を震わせていたけど、もがく間に持っていた斧も地面に落として完全に無力化できた。
俺は勝てばよかろうの精神だから、プライドやら恥やら何も持ち合わせていないぜ。
誉れはガチャで捨ててきたのだ。
そんな俺の行いにノールは呆れたように声をかけてきた。
「真面目に戦うかと思ったら、センチターブラで拘束したのでありますね……。だから自分から戦うなんて言い出したのでありますか。本当に大倉殿は卑怯な戦法が得意でありますなぁ」
「やはり平八は平八だった」
「勝負は会話の時から始まっていたからな。捕まる方が悪いんだよ。もう実力自体はエステル達が見せてるし、無駄に争うのも疲れるだろ」
「そうね。長があっさり拘束されたとなれば、完全に反抗する気力もなくなると思うわ。そもそもこっちは戦う気は一切ないのだけれど」
「どうやらドワーフは血の気が多そうですからね。喧嘩っ早い性格も困りものですよ」
「えっ、アルヴィさんがそれを言うのは……」
「何か?」
「いえ! なんでもございません!」
マルティナがシスハにニッコリと笑顔を向けられて震えている。
シスハが血の気が多いやら喧嘩っ早いとか言うのは俺もどうかと――やべぇ、こっち睨んできやがった!?
「ハァ……ハァ……や、やっと追い付いた!」
ドタドタと駆け寄ってくる音が聞こえたかと思えば、それはカルカとアガリアだった。
激しく息を切らした彼女は、拘束されたガルレガを見た途端に怒鳴り散らかし始める。
「何やってんだよ馬鹿親父!」
「おお! カルカか! 早くこの拘束を解くんだ! この卑怯者に騙し討ちをされた!」
「だから行くなって止めただろ! そいつらに勝てる訳ないって言ったじゃないか!」
「ええい! 黙れ! 俺は負けてない! まだ負けておらんぞ!」
「見苦しいぞ! いい加減負けを認めろよ!」
それから2人はワーワーと怒鳴り合いながら、アガリアがその様子を見て頭を抱えていた。
会話からしてガルレガとカルカは親子だったのか。
確かに並んで見るとどことなく似た雰囲気がするな……性格は完全に親子だって頷けるけど。
一通り怒鳴り合ってからカルカは落ち着いたのか、俺達の方に向き直って頭を下げてきた。
「親父が迷惑をかけてすまなかった……」
「いえ、特に何かあった訳じゃないので平気ですよ」
「どうしてあなたのお父さんがいきなり襲ってきたのかしら?」
「そ、それは……私が悪いんだ!」
謝りながらもカルカは何故こんなことが起きたのか説明を始めた。
俺達と別れた後すぐに集落に戻り、そこの長であるガルレガに報告をしたようだ。
焦っていたせいで詳しい話をする前に、人間に遭遇して地下都市に行けるかもしれないと伝えたところ、人間がついに地下に攻め込んで来たと騒ぎだしたとか。
そうじゃないとカルカ達は必死に説得をしたものの、話を全く聞かずにどんどんヒートアップしていき、最終的に集落を飛び出してしまった。
そして現状に至るそうだ。
よく俺達の場所がわかったなと思ったたが、どうやら土の精霊のおかげらしい。
さっくりとした一通りの説明を聞いて、エステルが頬に片手を添えて呆れ顔をしていた。
「ふーん、ある意味似た者同士というか、さすが親子ってところね」
「私は親父とは違うぞ! いきなり襲い掛かったりしない!」
「どの口が言う。貴様も襲ってきただろ」
「この神経の図太さは大倉さん並だね。僕も見習いたくなるよ」
失礼な、いくら俺でもカルカ程に神経が図太くないぞ。
カルカは親父さんと一緒にされたくはないようだが、傍から見たらどう見ても似た者親子って感じだ。
そんな事情の説明も終わり、カルカの説得を受けたガルレガは渋々ではあるが大人しくなったのでセンチターブラを解除した。
解放しても襲ってくる素振りもなく、俺達と戦っても勝ち目がないと察してくれたようだ。
だが、腕組みをして地面に胡坐で座り込み、ささやかな反抗的な意思表示をしている。
「ふん、カルカに免じて今回は負けは認めてやろう。それで、我らに一体何の用だ?」
「私達は鍛冶について聞きたいことがあって、昔ドワーフのいたという地下都市に来てみたんです」
「今更鍛冶について聞くためだけに来たというのが怪しいのだ。その程度ならイヴリス王国が連れ去った我らの同胞に聞けばいいだろう。」
「あー、なるほど。色々と事情をお伝えした方がよさそうですね」
確かにドワーフが地上にいるのなら、わざわざ地下になんて来てまで鍛冶について聞きに来ないよな。
ガルレガ達は地下にいたからか、イヴリス王国の現状は全く知らないようだ。
彼らからしたら拉致ったドワーフ達から話を聞けばいいだろうと思うのも当然か。
という訳で、今の王国ではドワーフの姿は見当たらず、地下都市の情報すら何もなくて、それどころかドワーフの存在自体が抹消されていると教えた。
それを聞いたガルレガ達は目を見開いて驚いている。
「なんだと……イヴリス王国にドワーフがいないというのか!? どういうことだ!」
「あくまで私達一般人の中での認識ですけどね。既に亜人と言う存在自体が認知されていません」
「亜人と言えばせいぜい魔人って扱いになっている程度かしら。鍛冶の得意な種族がいるなんて話は一切ないわ」
「一体どういうことだ……」
ガルレガ達が困惑するのも無理はないか。
結構な人数が連れ去られたようだけど、そのドワーフ達の存在が全くないんだからな。
それからお互いに詳しく話をしてみると、拉致されたのは200年前ではあるが、ドワーフはそれなりに長寿のようでまだ生き残りはいるはずだと彼らは言う。
知れば知るほど謎が深まっていくな……王国も随分とキナ臭い歴史がある気がしてきたぞ。




