商人組合
商品開発をしてから数日後、俺とシスハは王都へとやって来ていた。
「うーん、商人達と話をするなんて緊張してくるぞ……」
「そうビクビクしてないでビシッとしてくださいよ。そんなんじゃ足元見られてしまいますからね」
シスハは襟を正しながら呆れ混じりのため息を吐いてそう言ってきた。
俺もシスハもいつもの私服姿じゃなくて、ビジネススーツのようなキリっとした黒い服を着ている。
今日は商人組合に相談しに行くつもりだから、ちゃんとした服で行こうと用意した物だ。
この世界に来てからこういう服を着るのは初めてだし、着慣れなくて変な感じがするぞ。
シスハも着慣れないからか頻りに首元とかを気にしている様子だが、妙に服が合っていて新鮮に思えた。
OLというかやり手の秘書のように見えてきやがる。
こっちの服の方が神官服よりまともに見えるんだが。
「お前がそういう服着てると印象違ってくるな。なんかいつもより真面目そうに見えるぞ」
「うふふ、普段は私が真面目そうに見えないと仰るつもりですか? その言葉そっくりそのままお返し……いえ、大倉さんの場合は逆に怪しく見えますね。人を陥れそうな見た目をしていますよ」
「ふざけんじゃねぇ! 人を陥れる見た目ってなんだよ!」
真面目に見えるならまだしも、逆に怪しい見た目に見えるってどういうことだ!
スーツだけじゃなくて髪も七三分けにして眼鏡もかけて、まるで誠実さが形となったような姿をしているというのに……。
こんな俺とシスハだけで商人組合なんて行って本当に大丈夫なのだろうか。
「はぁ、本当はエステルにも来てもらいたかったんだけどなぁ」
「まだ商談を受けてくれる相手がいるかもわかりませんからね。幼く見えるエステルさんがいるだけで侮ってくる相手もいそうですから仕方がありませんよ」
「やり手の商人だったらエステルの実力とかちゃんと見抜いて交渉してくれないのか?」
「それとこれとは話が違いますよ。やり手と言っても体面は重要ですから、ある程度交渉を進めて裏でエステルさん含めて話し合う分には問題ないんじゃないですかねぇ。最初から交渉相手としてエステルさんを連れ出すのは悪手かと」
「やっぱりそうかぁ。本人にもそれを言われたから俺とお前で来てるんだけどさぁ」
「そう不安そうにしないでくださいよ。エステルさんにも任されましたしご安心ください。そもそも今日は商人と直接会うこともなさそうですけどね」
今回は商人組合で条件に合いそうな商人がいるか聞くのと、窓口として紹介してもらえないか打診をするつもりでいる。
なので今日は商人本人と本格的な交渉はないと踏んでいた。
それでも商人やその関係者達が出入りする場所だから、妙な噂話などが流れないように正装に着替えてエステルも連れてきていない。
こういう時はいつもエステルに同行してもらっていたから不安にもなるが、俺よりも頭が回りそうで度胸もあるシスハが代わりにいるからまだマシか。
自分でもちょっと情けなくなってくるから、シスハに言われたようにビシッと胸を張るとしよう。
そんなやり取りをしながらも商人組合の建物に到着して中へ入り、まっすぐ受付に向かい声をかけると別室に案内された。
既に事前に予約をしてあったから、俺達が冒険者で商人を紹介してもらいたいとある程度内容は伝えてある。
席に座ると組合の男性職員がやってきて対応をしてくれた。
「大倉様、本日はご相談くださり誠にありがとうございます。商人へご相談があるとのことでしたがどういったものでしょうか?」
「王都に店を持つ方に商品の委託販売をお願いしたいんです」
「店舗持ちの方に委託販売ですか……該当する方はおりますが詳細などは決めていらっしゃいますか?」
「それでしたらこちらにまとめてあります」
そう言ってシスハが委託するための条件や販売物に関してまとめた書類を手渡した。
書かれている条件はまず冒険者向けの商品を取り扱っている店。
会員制のメンバーズカード的な物を作り、限定の品物の販売や割引などを行う。
委託品は魔導具が中心で、場合によっては俺達が魔物の素材を一部店に卸す。
魔導具の詳細は交渉時に明かすけど、基本的に冒険者向けの物だけ。
委託料は販売額の5割、交渉有り。
と大体こんな感じだ。もうちょっと詳しい部分はエステルとシスハがまとめてくれてた。
男性職員はまじまじと書類の内容を確認した後、俺に質問を投げかけてきた。
「大倉様は今までに商談などの実績はありますか?」
「いえ、冒険者としての活動以外は何もありませんね」
「そうですか。ちなみに魔導具を作成したのはどのような魔導師の方ですか? リスタリア学院の卒業生などの経歴があればいいのですが……」
「えっと、そういう経歴はありませんね。強いて言うならBランクの冒険者ってことです」
「それですとこちらの条件で今すぐ商談を取り付けるのは大変厳しいかと存じます」
な、なんだって!? 委託料5割だけでも結構いけると思ったんだが難しいのかよ!
それに魔導具を作った人の経歴まで聞いてくるのか。
エステルは凄い実力があるけど、この世界じゃ肩書きが一切ない無名の魔導師だ。
俺が驚愕している中シスハは冷静に質問を投げ返していた。
「それは信用などが足りていないということでしょうか?」
「身元の方はBランクの冒険者なので十分信用があり、委託料も魅力的な条件だと思います。ですが受け入れてくれる商人を見つけるのは難しいですね。ただでさえ魔導具を販売している店舗の大半は、既に大手の取引先と契約済みなんですよ」
「つまり無名の個人が作った魔導具など相手にされない、そう言う訳ですか」
「ハッキリと言うならそうなりますね。魔導具工房はその辺りの関係が複雑ですので、たとえ性能の良い魔導具を卸せたとしても関係を悪化させてまで取引する商人は限られます。リスタリア学院の卒業生などでしたら、根回しすれば可能性はありますが……。特に冒険者向けとなりますと、厳しい以外は言いようがありませんね」
おう、ここでも利権関係が出てくるのか……。
確かに冒険者になる魔導師は少なくて、殆どは学院とか卒業しても軍に入ったりそのまま研究に没頭するとか言われてたっけ。
それ以外にも魔導具工房とやらに入って品物を作る組織までいるってことか。
俺がこの前買ってきた見本の魔導具もそこで作られているんだろうな。
話を聞いている感じ魔導師同士の横の繋がりも強そうだから、学院の関係者とかじゃないと商売するにも面倒ってところかね。
その工房とやらがどれだけ影響力があるかわからないが、少なくとも俺達のような無名の存在と取引してリスクを背負いたくないんだな。
それから色々と話を聞いてみたものの、結局のところ現状委託販売は厳しいとのことだ。
せめて俺達がAランク冒険者ならまた話は違ったかもしれないらしいが……そのために昇格するのもなぁ。
商人は紹介できないと断られて、俺達は肩を落として別室を後にした。
「はあ……張り切って来たはいいものの門前払いされちまったな」
「交渉も何もありませんでしたねぇ。まあ、個人が魔導具作ったから委託させてくれ、なんて言って相手にしてくれる人はそういませんか。もうこうなったら直接店舗に乗り込んで突撃営業しかけますか? 私カチコミは得意ですよ」
「お前それ絶対営業じゃねーだろ……」
拳をバキバキと鳴らしながらシスハはいい笑顔をしている。
一体どこへ何のために突撃営業するつもりなんですかねぇ……血祭りが起きそうだぞ。
こりゃどうにもならんと諦めの心境で商人組合の建物を出ようとしたのだが、不意に声をかけられた。
「おや、大倉君に……神官の方でしたかな? このような場所でお会いするなんて奇遇ですね」
「えっ……ア、アーデルベルさんですか!?」
声をかけてきた人物、それは以前護衛依頼をしたアーデルベルさんだった。
依頼以降も娘のアンネリーちゃんとエステルは会っていたけど、最近は忙しくてそれもご無沙汰だったからなぁ。
「お久しぶりです。アーデルベルさんはどうしてこちらに?」
「今商談を終えたところなんですよ。最近は忙しくてアンネリーの相手もしてやれなくて困りものですよ。それにしてもお2人はそのような格好ですが……同じように商談に来ていたのですか?」
商談……そういえばこの人めっちゃ金持ちの人だったな。
どういった仕事をしている人か聞いてなかったけど、商人組合と関わりのある人なのか?
エステルからアーデルベルさんの話は聞いてないから、アンネリーちゃんとそういう話はしてなさそうだ。
もし商人をしているなら……と考えが浮かんだが、俺が言い出す前にシスハがそれを聞いていた。
「失礼ですがアーデルベルさんは、もしかして商人などしていらっしゃいますか?」
「ええ、自慢できるほどではありませんが、王都で流通業を主にやらせていただいておりますよ」
「そうでしたか……もし王都に販売業をする店舗などお持ちでしたらお願いがあったのですが……」
流通業をやってる人だったのかぁ。それじゃあ王都で物を売るような店舗は持ってなさそうだよなぁ。
期待も外れてまた肩を落としてかけていたが、アーデルベルさんは続けて気になることを言い出した。
「販売業の店舗ですか……実は今日ここにその話をしに来ていたんです。近々販売業の方にも手を出そうかと考えておりまして、色々なところに働きかけているところでした。大倉さん達の話に沿うかわかりませんが、お話だけでも聞かせてもらえますか?」
「ほ、本当ですか!?」
「はい、大倉さん達にはお世話になりましたからね。可能な範囲でご協力いたしますよ」
おいおい、まさか知り合いで販売業をやろうとしている人にこのタイミングで遭遇するなんて……これはもしかするとワンチャンあるのでは?




