洞窟の謎
洞窟内を探索し複数の湧き場所を発見した後、俺達はディメンションルームにて休憩をしていた。
見つけた湧き場所には当然1つ目と同じように魔石自動狩りトラップを仕掛け、機能しているか見極める為に時間を置いている。
ノール達はディメンションルーム内に用意されていた椅子に座ったりしてくつろいでた。
「むふー、洞窟内でこんな快適に休憩できるのは助かるでありますねぇ」
「ディメンションルームのおかげね。ここでしばらく生活したっていいぐらい充実しているもの」
「ルーナちゃん寝ちゃってるんだよー」
「穏やかな寝顔をしていらっしゃいます。本当に可愛らしいですよ!」
ベッドも用意してありルーナはその上で寝息を立てている。
こういう洞窟内などで探索する時に休憩できる場所として、ディメンションルーム内を改善しておいたのだ。
もし今後迷宮や数日かけての洞窟探索があったとしても、前とは比較にならないほど快適に攻略ができるだろう。
のんびりしているノール達を他所に、俺は地図アプリを見ながら洞窟内のことを振り返っていた。
「湧き場所は3つだけか。ここから魔物が外に出て徘徊しているんだな」
「1つは通り道の途中にある部屋でしたね。どれも比較的広い場所でしたけど、何か法則でもあるのでしょうか」
「狭かったらすぐ埋まっちゃうから、湧く場所にも条件があるんでしょうね。条件さえわかれば意図的に湧き場所を作って、魔物を湧かすこともできるかもしれないわ」
湧き場所は全て入り口などを塞いで密室にして、中にいる魔物を雷魔法で全滅させる仕組みにしてある。
少し様子を見た感じだと普通に魔物が湧いていたから、入り口を塞いでも影響はなさそうだが、それも長期間見てみないと何とも言えない。
エステルの言うように魔物が湧く条件さえわかれば、俺達の思うがままに狩場を作れる可能性だってあるのだ。そう考えると夢が広がるぜ!
それは今後に期待するとして、一旦魔石自動狩りの話は置くとしよう。
「そうなるとこの洞窟でやることは、残すところは奥まで続くこの1本道だけか。どうする、最下層まで行ってみるか? 俺としてはこのまま湧き場所を徹底的に調べ尽くしたいんだが」
「完全に頭が魔石のことでいっぱいでありますね……。それはじっくりとやるとして、今は奥まで行くのでありますよ!」
「そうだよ! きっとすっごいお宝が眠っているに違いないよ!」
魔石自動狩りも重要だが、元々この洞窟に来たのは探索が目的だ。
ノールとフリージアはやる気満々みたいだし、シスハ達もこの洞窟の最深部に何があるか気になっているご様子。
俺としても実はかなり気になっているから、ここは大人しく最深部を目指すとしよう。
それからしばらく休憩した後、ディメンションルームから出て探索を再開した。
さっそく魔石の数を確認すると、休憩し始めた時と比べて微量だが増えている。
「おー、魔石が少し増えているな。自動化は成功じゃないか!」
「まだ半日程度しか様子を見てないからわからないけどね。効率の方はどう?」
「5個も入手できているぞ。2時間に1回発動するとして、3ヶ所で18回発動したってところだな」
「あんまり効率的とは言えない数ですね。ですが成功はしたんですから希望は見えてきましたか」
「ああ! まあ、今回は様子見だから後で元に戻すつもりだけどな。この洞窟じゃ誰か迷い込む可能性もあるし、どんな影響が出るかもわからない」
この洞窟から出る際は湧き場所は元に戻すつもりでいる。
他の冒険者がやってきた時に俺達のせいで異変が起きていたら申し訳ないからな。
入り口は塞いでいるけど、エステルさんの魔法トラップもそのままにしておいたら危険だし。
改めて魔石トラップの稼働を確認し、俺達は最深部へ向けて地下へと続く一本道へ足を踏み入れた。
すると、何となくだが洞窟内の空気が変わったのを感じる。
「上の方とちょっと雰囲気が違くないか?」
「あら、お兄さんもそういう変化がわかるようになってきたのね。だんだんと魔素が濃くなっているみたい。最深部は魔物の湧き場所かもね」
「それにこの1本道から洞窟の作りも変わっていますね。物も散乱していませんし、誰かが使っていた名残も感じられません。元々使われない場所だったのか、それとも他に理由があるのか……んん、興味をそそられますねぇ」
「ふむ、厄介ごとの臭いがする」
「何があるか楽しみだねぇ」
「冒険に危険はつきものでありますからね。皆注意するのでありますよ」
確かに言われてみると、1本道に入ってから妙に洞窟内が綺麗になったように思える。
さっきまでは壁や地面がデコボコしてまさに洞窟って感じだったが、ここは真っ平らだ。
物も落ちておらず使われた形跡がまるで感じられない。
魔物もこの付近にはいなくて途中あった小部屋を覗いても罠などは一切なく、淡々と地下へと進んで行く。
ここまで何もないと逆に不気味に感じてくるが、地図アプリを確認しているとついに洞窟の終わりが表示された。
最深部は行き止まりのようだがかなり広い空間で、魔物を表す赤い点は表示されておらず、特に物がある様子もない。
「おっ、最深部が見えてきたぞ。行き止まりか、魔物はいないぞ」
「湧き場所じゃないのでありますか。何だか意外でありますね」
「ほほぉ、そうなるとただの宝物庫とかの可能性もあるってことですか。何か表示されていないんですか?」
「えっと……あっ、部屋の中央に黒い点があるな」
地図アプリで大部屋をズームすると、中央の地面に黒い点が表示されていた。
何なのかまではわからないけど、この部屋に何かがあるのは間違いない。
それを聞いたフリージアは大喜びでぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「やっぱりお宝はあったんだ! 最後はババンと何か起きてほしいよね! スリルが足りない!」
「そんなもの求めるな。面倒はない方がいい。お宝貰ってとんずらだ」
「そう都合よくいくかしら。魔素が凄く濃いから何か起きるかもしれないわ。魔物がいないからって油断はしないようにね」
魔物がいないからってこのままお宝を回収して終わるとは思えない。
大体こういう時って何かしら起きるもんだが……とりあえず最深部を実際に見てみるしかないか。
その後も道中何も起きず、あっさりと最深部へと到達した。
中には入らず外から観察してみたが、大部屋内は何もなくただ異様に広い空間だ。
「いかにもって場所だな。特に何も見当たらないが……」
「宝物庫って感じじゃありませんね。はあ、金銀財宝は期待できませんね」
「絶対に何かあるんだよ! 探そう!」
「あっ、待つのでありますよ!」
あのポンコツエルフ! 勝手に飛び出して行きやがったぞ!
慌ててフリージアの後を追うと、入り口から少し進んだところで地面に巨大な黒い魔法陣が浮かび上がり部屋の中に光の粒子が充満していく。
「罠かよ!」
「魔素が集中しているわ! 何か来るわよ!」
「これだからポンコツは困る」
「困ったエルフさんですねぇ」
「あわわわわ……ごめんなさいなんだよ」
「起きちゃったことは仕方ないのでありますよ。それより警戒するのであります」
集まった粒子が部屋の中央へ徐々に集まっていき、巨大な塊へと膨れ上がっていく。
そして光が弾けると、巨大な黒いヒトデが姿を現した。
おいおい、何てデカさのヒトデだよ! しかも表面に触手が生えてやがる……気味が悪いな。
とりあえずステータスの確認だ。
――――――
●マキシマムステラ 種族:アステロピスキス
レベル:70
HP:6万6000
MP:6400
攻撃力:4800
防御力:3000
敏捷:50
魔法耐性:30
固有能力 接合体
スキル 自己増幅 自己再生 損傷分散 死の星
――――――
「これまた大きいでありますね。強いでありますか?」
「ああ、けど俺達なら苦戦する強さでもないな。魔法抵抗も高くない」
「それなら私が魔法で倒しちゃうわね。えいっ!」
称号のおかげかマキシマムステラは、俺達を攻撃しようとせずに空中で静止している。
だが、こんな奴を放置することはできないから倒さなければ。
ぐへへ、確実にこっちから先制攻撃できるとは、これも守護神様のおかげだな!
エステルがグリモワールを開きながら杖を振る。
すると空中にいくつもの魔法陣が浮き上がり、同時に雷が放たれた。
雷はマキシマムステラに直撃し、全身を痙攣させて煙が上がっていく。
すぐに耐え切れなくなったのか、バンっと体が弾け飛んだ。
もうお終いか……登場が派手だったのに呆気なさ過ぎる。
「さすがエステル――えっ」
弾け飛んだはずの肉片が空中で静止し、小さな星の形になっているのに気が付いた。
次の瞬間、無数に浮かぶ星が俺達目がけて飛んでくる。
慌てて女神の聖域を発動させようとしたが、その前に黒い何かが横切り向かってきた星を全て叩き落とした。
気が付けばルーナが1人俺達の前に一歩出ていて、端が鋭くなったマントがうねうねと動いている。
マントを操ってルーナが迎撃してくれたのか。
「あっ、あっぶねぇ……助かったぞルーナ」
「マントの馴らしにはちょうどいい」
「攻撃を受けるとバラバラになるタイプでしたか。しかも再生しているようですよ」
「厄介な魔物ね。途中でバラけたからダメージも中途半端だったみたい。なら、バラけないように凍らせてあげる」
マキシマムステラは既に弾け飛ぶ前の大きさに戻っていて、他にも飛び散った肉片が通常のアステロピスキスの大きさになり独自に動いている。
スキルに損傷分散ってあるから、エステルの攻撃で弾けたんじゃなくて、自分から体を分裂させたのか?
しかも再生する上に飛び散った肉片も再生して動き出すとか……こいつ厄介過ぎるだろ。
それを踏まえた上で、エステルは氷魔法を放ちマキシマムステラを凍らせるつもりのようだ。
えいっと杖を振って魔法陣が展開されると、白い光が放たれてマキシマムステラに直撃。
当たった部分からみるみると凍っていきすぐに全身が真っ白になる。
が、すぐに凍った体にヒビが入りマキシマムステラは元通りに動き出す。
「むぅー、凍らせてもすぐに氷を破っちゃうわね。あれもスキルかしら?」
「自己増幅ってスキルがあるからそれで体を膨れさせてるのかもな。芯まで凍らせないと無理そうだ」
「なら、分裂もできないように消滅させるしかないわね」
凍らせても増殖と再生が止まらないとは……しかも攻撃すればするほどバラバラになって増えていく。
とうとうエステルはグリモワールを持ち出して、黒い靄を腕に絡ませた。
えいっと杖を振り向けると先端から眩い光線が放たれて、それに触れたマキシマムステラの体が蒸発する。
その攻撃に脅威を感じたのか、マキシマムステラは自ら弾けて肉片となり、すぐに再生し無数のアステロピスキスになった。
エステルはお構いなしに杖を振り回し、持続する光線で一気に薙ぎ払う。
その攻撃で半数以上倒せたが、まだまだアステロピスキスは残っており総出で撃破していく。
マキシマムステラから派生したアステロピスキスは触手を持っていて、武器で攻撃しようとすると体に絡みついてきて気味が悪い。
この大きさになるとこれ以上分裂しないようで、倒すとそのまま光の粒子になって消滅する。
その間にも一部のアステロピスキスが合体して元の姿に戻ろうとしていたが、それをエステルが見逃すはずがなくまた光線を放つ。
それを繰り返して増殖や再生をしても倒し続け、最後のアステロピスキスを片付けてようやく戦闘が終わった。
「ふぅ、何とか倒せましたが面倒な魔物でしたね。まさか触手まで出して絡みついてくるとは……ぞわぞわしましたよ」
「倒しても倒しても再生して増えていくのは脅威でありましたね。こんな魔物が湧いてくるとは思わなかったのでありますよ」
「無駄に数だけ多くて疲れた。もう帰ろう」
「うふふ、それじゃあ帰りは私がおんぶしてあげましょう! ささ、どうぞどうぞ!」
「うむ、ありがとう」
ルーナは今にも死にそうな顔で槍を杖代わりにしている。
槍やマントを使ってかなりの数をルーナだけで倒していたからな。
シスハが意気揚々とルーナを背に乗せて満足そうにしている。
そんなやり取りをしていると、フリージアが嬉しそうな声で駆け寄ってきた。
「ねえねえ! 何か地面にはまりこんでたんだよ!」
「お前なぁ、また勝手に動いてるんじゃあない。全く……ん? 何だそれ」
フリージアの手には黒い宝石のようなものが握られていた。
エステルが受け取ってじっくりと確認している。
「これって魔光石じゃない。どこにあったの?」
「あそこにはまってたんだよー。ほら、穴も空いてる。お宝かな?」
「お宝ではない」
「そんなー、残念なんだよ……」
フリージアが指差した先を見ると、確かに部屋の中心に小さな穴が空いていた。
あー、地図アプリに映っていた黒い点ってこれだったのか?
それにしても部屋の中心に置いてあったってことは……。
「あの魔物が出てくる時に魔法陣が出てたよな? それでこれは中心に置かれていた、と」
「誰かが意図的に設置したと思ってよさそうですね。魔物を湧かす魔光石となると……」
「魔人、でありますかね? そうなるとこの洞窟って魔人が関わっていたのでありますか?」
「その結論は早いと思うけど、同じようなことができる存在がここにいたってことね」
まさかこの洞窟の中でこんなものを見つけるとは……一体何のためにこんな場所にこれがあったのだろうか。
お目当てのお宝は見つからなかったけど、ある意味これは大発見かもしれない。




