黒衣の真価
レムリ山で魔石狩り自動化を目論み、エステル達と狩りに行った日以降も何度か足を運んでいたのだが……結局今回は諦めることとなった。
あれから魔物を深い穴に落としたり、剣や槍などを設置して倒したりなど、色々な方法を使って倒してみたけど、それだと魔石は入手できず。
やはり倒すのはある程度自分達の手が加わっていないとダメみたいだ。ケチめ!
そんな訳でエステルさんの魔法トラップで倒すことにしたのだが、彼女の懸念通りやはり作業は難航。
まず魔物の誘導が凄く大変でなかなか罠にハマってくれない。穴に落とすにしてもあいつらちゃんと避けやがる。
動きも法則などなくバラバラで、ぬいぐるみを置いてもなかなか罠の場所まで来てくれない。
湧き場所自体を罠の設置場所にしてやろうかとも思ったが、結構範囲が広いし作業中に魔物が湧いてきそうで危ないから今回は見送った。
下手な場所に罠を作って他の冒険者が引っかかったら危ないから、改めて場所は吟味しようと思う。
いつかガチャのアイテムなどを駆使して、大々的に整地しながら作りたいものだ。
そんなこんなで、その後は普通に魔石狩りをしている。
今日はなんと意外にもルーナが一緒に来てくれて、俺とシスハも合わせた3人でゴブリンの森で狩りをしている最中だ。
「あーあ、上手くいかないもんだな」
「結局魔石トラップは断念して、こうして狩りに来てますもんねー」
「完全に諦めた訳じゃないけどな」
「ふむ、そのトラップとやらができれば楽になる。成功してほしい」
自動で魔物を倒せるようになれば本当に楽になるけど、それまでの道は険しそうだ。
色々な狩場を回って、人が来なくて魔物を罠にはめやすそうな場所を探さないとな。
それまでは地道に狩りをしていくとして、本格的に考えるのはセヴァリアの件が完全に終わってからにしよう。
「にしても、よくルーナまで狩りに出てくる気になったな」
「気まぐれだ。それに強化されたマントを試したい」
「ルーナさんのマントがどうなったのか見るのが楽しみですよ!」
ここのところずっとルーナは部屋で寝っぱなしだったからな。
まさか今日の狩りに同行するなんて言い出すとは思わなかった。
マントを試したいって理由なら納得だな。
「これが終わればまた冬眠する」
「冬眠って……そんなにあのベッドはいいのか」
「うむ、あれは良きベッドだ」
「いやぁ、ルーナさんと一緒に寝かせてもらっていますけど、あのベッドは凄いですよ。神官をダメにするベッドってやつですね」
「吸血鬼をダメにするベッドでもある」
ルーナは元々ダメになってる吸血鬼な気が……ひぇ、睨まれた!? 妙に勘が鋭いの止めて!
しかしあのシスハすら骨抜きとはさすがSSRのベッドだ。
フリージアもあれで寝ると大人しいもんな。
そんなやりとりをしつつブラックオーク狩りを再開したのだが、そろそろあれを試したいと思う。
バッグから黒い角、サイコホーンを取り出す。
「さて、狩りのついでにこれも慣らしておくか」
「サイコホーンをお使いになるのですか? また倒れますよ」
「センチターブラを同時に5個使わなきゃへーきへーき。思考を読む能力も極力控えれば長持ちするだろ」
「慣れるのは大事だ。でも無理はするな」
「まあ負荷があるのが事前にわかっていますから、倒れる前から回復魔法をかけておきますか。気分が悪くなってきたら本格的に治すので言ってくださいね」
「ああ、ありがとう」
体調が悪くなるからって全く使わない訳にもいかないからな。
負荷があるとはいえ普段から使えば多少は慣れるだろう。
ルーナも言ってるぐらいだから間違いない。
あんまり使い過ぎると頭がヤバくなりそうなのは怖いけどさ。
センチターブラは1個にして精度を上げるのに集中すれば負担も減るはずだ。
シスハも回復してくれるみたいだし助かる。
さっそく狩りを始めようとしたが、その前にシスハがポンと手を叩いてお願いをしてきた。
「そうそう、ついでと言ってはなんですが、ディメンションブレスレットを貸してもらってもいいですか?」
「いいぞ」
「ありがとうございますぅ!」
今からセンチターブラをメインで使って狩りをするつもりだから、ディメンションブレスレットは必要ない。
シスハはこの後も殴ったりマジックブレードで斬ったりして暴れるつもりだろうし、使ってもらった方が効率もよさそうだ。
ディメンションブレスレットは俺専用って訳でもないから、パーティー内でこうして装備を使い回しておくのもいいかもな。
シスハにブレスレットを渡して、俺はヘルムにサイコホーンを張り付けた。
おぉ、見える、見えるぞ! この冴え渡る感覚に全能感! 今の俺ならなんだってできるぞ!
……って調子に乗るとまた倒れるか。とりあえずセンチターブラを1個出してっと。
「いけ!」
センチターブラを丸型の薄い板状にして、地図アプリに赤い反応がある方へ飛ばす。
さらに集中すると具体的に魔物がいる位置が把握できて、そこに向かってセンチターブラを飛ばすとオークの断末魔の叫びが聞こえた。
よし、目視しなくても位置は把握できるな。これもサイコホーンの力か。
「おー、やりますねぇ。以前よりも精度がかなり上がっていますよ」
「うむ、なかなか筋がいい」
「サイコホーンを使ってるからな。地図アプリ抜きでも魔物がどこにいるかわかるぞ」
「ようやく大倉さんも気配を察知できるようになりましたか。もっと感覚を磨いて、それなしでもできるようにしましょうね」
「お、おう。自信はないけど努力はしてみるぞ」
ノールやシスハ達は魔物の気配を察知して動いたりするし、サイコホーンである程度感覚を掴めば、装着しなくても普段から似たようなことができるのだろうか。
シスハの笑みを浮かべた声援を受けちょっと照れ臭くなっていると、彼女も触発されたのか狩りを始めた。
ディメンションブレスレットを着けたシスハは、一体どんな戦い方をするのかと見ていたのだが……。
「せいっ!」
シスハは木を蹴って宙高く飛び上がると、持っていたマジックブレードを投げた。
光の刃が出たままクルクルと横回転で飛ぶマジックブレードは、木や草を切断しながら複数のゴブリンとオークをまとめて切り裂いていく。
そして光の刃が白い棒の柄から消えたタイミングで、シスハはディメンションブレスレットで手を飛ばして柄をキャッチして手元に戻した。
「あぶねっ!? 何投げてやがるんだ!」
「うふふ、必殺技ですよ。なかなかコントロールが難しいですが、一気に魔物を倒せますね」
「ふむ、あれを1回で決めるとはさすがシスハだ」
「魔物どころか周囲の木とかも斬ってるけどな……。俺達が近くにいる時はやらないでくれよ」
「ご安心ください、もし何かあっても治しますから!」
「おい!」
「冗談ですよ。そこはちゃんと弁えていますから」
治してもらえるとしても嫌だわ!
魔法抵抗が高いから大丈夫だろうけど、あんなの飛んできたらタダじゃ済みそうになくて怖いぞ。
まさか遠距離攻撃の手段としてマジックブレードぶん投げるとは……この為にディメンションブレスレット貸してくれとか言い出したのか。
自動回収が付いてたら絶対普段からこの使い方しそうだな。
シスハの恐ろしい戦い方の後、バサリとマントを翻してルーナが前に出た。
「私も軽くマントを慣らしておこう」
「本当にそのマントで魔物を倒せるのか?」
「うむ、見せてやろう」
そう言って飛び上がると、マントの裾が伸びていき木の幹に突き刺さった。
次に反対側の裾も伸びて別の木に突き刺さると、またマントの違う部分が伸びて地面などを突き刺し進んでいく。
その速さは尋常じゃなく、木を猿のように移動するフリージアよりも速い。
その間ルーナは全く手足を使っておらず、マントだけで移動している状態だ。
「な、なんだよあの動き!?」
「マントが手足のように動いてますね。移動にまで応用できるんですか」
俺達の驚くのも束の間で、ちょっと離れた場所にいたゴブリンとオークにルーナは迫っていく。
弾丸のような速さで肉薄すると、移動に使っていたマントの裾の先が尖って、一瞬でゴブリンとオークを貫いた。
そのままさらにマントの端がゴブリン達を切り刻んで、あっという間に光の粒子になって消えていく。
……こ、こわっ!? あのマントヤバ過ぎだろ! 倒すまでの間全くルーナ自身は動いてなかったぞ!
行きと同じようにマントで移動しながらルーナが戻ってくると、不満そうに頬を膨らませていた。
「むぅ、やはり鈍っている」
「あれで鈍ってるのかよ……。そのマント、槍よりヤバくないか?」
「ゴブリンとオークがまとめて串刺しの上にバラバラですよ。どうなっているんですかそのマント?」
「私の血を染み込ませてあると言っただろ。マント自体も特別製だ。力を込めれば鉄さえ貫く」
えぇ……正直物を取ったり相手を拘束するだけで、そこまで攻撃力はないと思ってたぞ。
自由に動かせてオークどころか鉄まで貫くマントとか反則だろ! 俺もセンチターブラあるけどさ!
移動にまで使えるし手足も自由になっているから、槍と合わせたらとんでもない動きしてきそうだな。
槍を防いだと思ったらマントで串刺しにされる光景が目に浮かぶぞ。
一通り狩りも終えて一旦休憩しようと森を抜けたが、その間ルーナは普通に歩いていた。
あれ、めんどくさがり屋のルーナなら移動も全部マントでしそうなのにやらないんだな。
そういえば来る時もマントを使ってなかったし、そこまでめんどくさがらないってことか?
「さすがに歩くのまでマント任せにはしないんだな」
「元々はそうしていた。が、今はまだ厳しい。マントを動かす方が疲れる。私は楽な方を選ぶ主義だ」
「ならば私が足となりましょう! ささ、どうぞどうぞ」
「ありがとう。やはりシスハは頼りになる」
かもんかもんとシスハがしゃがむと、嬉しそうに笑ってその背中にルーナは乗っている。
……うん、歩くことに関してはマント任せにしない方が2人共幸せだと思う。




