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魔石トラップを目指して

 未だに神殿の参拝許可も下りず、町の復興も進んできた頃。

 領主からの支援のおかげなのか国から軍が派遣され、セヴァリアの見回りは完全にそちらに引き継がれて、冒険者である俺達の仕事もだいぶ落ち着いてきた。

 なのでちょくちょくと魔石狩りを再開し始めてはいるのだが……。


「はぁ、全自動で魔石手に入らないかなぁー」


「急に何を言い出しているのでありますか……」


 自宅の居間で愚痴をこぼすと、モフットを膝に乗せて撫でていたノールが呆れた声で反応した。

 白い毛玉は横向けで腹を見せながら倒れてプープーと鳴いて気持ち良さそうにしている。

 最近は落ち着いてきたおかげでノールもモフットと過ごす時間が増え嬉しそうだ。

 そんな光景を眺めながらも、同じく居間にいたエステルが会話に加わってきた。


「もうディウス達やおじさん達に魔石狩りを手伝ってもらっているじゃない」


「そうなんだけどさ。それ以外にも魔石を増やす方法がないかちょっと考えてな」


「相変わらずそういうことには頭を回そうとするんでありますね……」


「ははは、ガチャには常に高い向上心を持たないといけないからな!」


 今でもある程度安定供給されている魔石だが、これで満足してはいけない。

 常に余裕を持ってガチャる為にも、1つでも多く魔石を稼げるようにしないといけないのだ!


「それで、わざわざ言い出したってことは何か考えがあるのよね?」


「ああ、少し試したいことを思いついたんだ。それにはエステルの協力が必要なんだけど……」


「あら、私の協力が必要だなんて。お兄さんの頼みだったら何だってしてあげちゃうんだから」


「あっ、はい。ありがとうございます」


 ウィンクしながら嬉しいことを言ってくれてはいるが、色々な意味が含まれていそうでちょっと怖い。


「エステルに手伝ってもらって、一体何をするつもりなのでありますか?」


「魔物を自動で狩る仕組みを魔法で作れないかと思ってな」


 俺の言葉を聞いてノールとエステルは首を傾げている。

 ふむ、詳しく言わないとピンとこないみたいだな。


「ほら、例えば深い落とし穴を作って落下させたりさ」


「落下させて倒すつもりでありますか。でも、それだと私達が倒したことにならないんじゃ?」


「そのままだったらな。だからどうにかそれを俺達が倒したことにできないかなって。穴の底に槍や剣設置しておいたり、エステルの魔法で処理したりさ」


「またロクでもないことを思いついたでありますね……」


 勝手に魔物を倒してくれるトラップを仕掛けて、それで魔石が手に入るなら俺達が狩りをせずとも魔石が増えていく。

 もし成功すれば各地に大量生産して、寝ている時でも安定した魔石供給が実現できる。

 そんな野望を胸に抱いていたが、エステルが眉をひそめて質問してきた。


「うーん、自動ってことは私達がいない間に作動して魔物を倒せるようにしたいのよね?」


「そうだけど……難しいか?」


「ちょっとね。できなくはないのだけれど、お兄さんが期待するほどの効率は出せないと思うわ」


 できなくはない、か。ふーむ。


「だけど1つでも多く手に入るのなら試す価値はある。グリモワールの性能テストも兼ねて手伝ってもらってもいいか?」


「ふふ、何だってしてあげるって言ったじゃない。それに私も新しいグリモワールを本格的に使ってみたかったからちょうどいいわ」


 グリモワール『セプテム・ペッカータ』を出してからまだ本格的な戦闘をしていないから、その性能を試すのにもいい機会だ。

 単発3倍強化なんて普段は絶対に使わないレベルだからな。


「またとんでもないことをやりそうなのでありますよ……」


「今回は軽く実験程度だから、俺とエステルと……あいつも連れて行くか」


 パチンっと指を鳴らすと、自宅の奥からドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。

 そしてバンッと扉が開くとフリージアが出てくる。


「呼んだ!」


「指を鳴らしただけで来るようになったのね……」


「最近俺の部屋に居座ってるから、遊びで指鳴らして呼んでたら来るようになったんだ」


「フリージアに何を教え込んでるのでありますか……」


 こいつはすっかり偵察カメラにはまっているのか、俺の部屋にずっと居座ってあっちこっちに飛ばして遊んでいる。

 おかげで飛ばしている間は大人しくしているから最近我が家は平和です。

 シスハとルーナぶち切れ事件の影響で覗きや悪戯は一切しないから、町の様子などを見る程度で悪用はしていない。

 

 とりあえずフリージアも来たので、今からやろうとしていることをエステルも含めて説明した。

 今回の実験場所はリザードマンのいるレムリ山。

 そこでトラップに使えそうな魔法を見るのとグリモワールの性能テスト。

 その為にもリザードマンの湧き場所から少し離れて、何体かリザードマンを釣りつつ試していきたい。


「という訳でフリージアには遠距離から攻撃して魔物を釣ってほしいんだ」


「任せて! エステルちゃんの魔法を見るの楽しみなんだよ!」


「ふふ、それじゃあ派手なのを少し試してみようかしら」


「狩場を破壊しないように気をつけるのでありますよ……」


 それは俺も心配なんだけど……まあ何とかなるだろう。

 その為に町から遠くて人がいないであろうレムリ山を選んでいる。

 地図アプリで周囲に人がいるかわかりはするけど、罠を試している時にもし人が来たら大変だからな。


 ノールとモフットに見送られながら、俺とエステルとフリージアはさっそくビーコンでレムリ山へやってきた。

 そしてある程度レムリ山から離れて、罠の設置場所へ移動する。


「さてと、まずは罠作りを考えようと思うんだが、エステルがさっき難しいって言ってた原因は何なんだ?」


「いくつか問題があるのだけれど、まずは魔物の誘導ね。罠のある位置に上手く魔物が通るようにしないといけないじゃない。1回きりなら方法はありそうだけど、連続してとなると少し難しいわ」


 なるほど、罠に掛けるだけなら方法はあるけど、それを安定して行うとなると難しいな。

 魔石狩りとなるとメインの標的は希少種だ。

 そうなると希少種を湧かせられるぐらい継続的に、魔物を倒し続けられる仕掛けじゃないといけない。

 常に湧き場所から上手く魔物を罠のある場所までおびき寄せて、罠にはめるのは確かに大変だ。


「それと魔物を倒す方法も難しいわ。槍や剣を落とし穴に設置して倒すのが大丈夫ならいいけれど、魔法で処理するとなると色々と問題が出てくるもの。例えば罠に使う魔力はどうするとか」


「あー、そこはエステルさんパワーでどうにかならないか?」


「私だって何でもは出来ないわよ。周囲から魔素を吸収して自動で爆破し続ける魔法はあるけど、それも魔力を補給するのに結構かかるのよね。守護神様の祠に仕掛けたのもそのタイプだけれど、1回発動した後魔力を補給するのはそんなに早くないの。その代わりシスハと協力して結界に閉じ込めて爆発するようにしたから、侵入者がいたら確実に仕留められるわ」


 おう、そんなに恐ろしい魔法を祠に付加してたのかよ。

 逃げ場がない状態で爆破されるとか絶対に進入したくないぞ。

 ……とりあえず今の説明を聞く限り、だ。


「つまり継続的に魔物を処理するのには向いていないのか」


「そうね。威力を絞れば少しは早くなるけれど、それでもそう連続して使えないと思うの。1日に4回ぐらい機能すればいい方ね」


「ぐぬぬ、そう美味い話はないってことか。わかったかフリージア?」


「ふぇ? えっと、難しいんだね!」


 エステルの説明を聞いてボケーっと上の空状態だったフリージアに話を振ると、慌てて親指を立てわかった感を出している。

 こいつ途中から理解できずに話が右から左に突き抜けてやがったな。


「それでも罠系の魔法で魔石が手に入るのなら色々と考えられるから、とりあえず試してみましょうか。ふふ、このグリモワールだったら結構凄い魔法が使えると思うの」


 そう言うとエステルは鞄から黒い本、グリモワール『セプテム・ペッカータ』を取り出してペラペラと本を開いた。

 すると本から黒いオーラのような物が出てきて、持っているエステルの手にも絡み付いている。

 明らかにヤバイ匂いがプンプンするんですが。禁書とかそういう類だろこれ。


「おぉー、その本から凄い感じがする!」


「俺でもわかるぐらいに何か出ているぞ。大丈夫か?」


「ええ、家で何度か試していたもの。でも、やっぱり凄い速さでこの本に魔力が吸われてる。回復速度も上がってるとはいえ、吸われる魔力の方が上回っているわね。普通の魔導師だったら気絶しちゃうかも」


 そう言いながらもエステルは平然とした様子だ。

 俺が使ったら一瞬で白目剥いてぶっ倒れそうだな……流石はエステルさんだ。

 グリモワールを開いたエステルが掛け声と共に杖を振った。


「えいっ!」


 一瞬エステルに絡み付いている黒いオーラが大きく膨れ上がり、グリモワールが黒く輝きを発した。

 すると彼女が指定した位置に大き目の黒い魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣の設置が終わりエステルの指示に従い、さらにレムリ山から距離を取った。

 

「こんなに離れないとやばそうなのか?」


「リザードマンが相手だから結構強力なのにしておいたもの。それに3倍強化も使ってみたから。あれは1度使ったらなくなるタイプね。単純に上を通ったら爆発するようにしておいたわ」


 大体魔法陣からリザードマンの位置まで500メートル、今俺達のいる位置が1キロ程度だ。

 さらにエステルが土魔法で壁も作って爆風に備えている。

 そこまでするほどヤバイ爆発の罠なのかよ。

 発動するのを見るのがちょっと怖くなってきたぞ。


「フリージアも3倍支援魔法をかけるわね。試しに狙撃でリザードマンを1体ぐらい倒してもいいかもしれないわ」


「わーい! エステルちゃんの支援魔法凄いから凄そう!」


 エステルが杖を振ると、またグリモワールが輝き出してフリージアの体を黒いオーラが覆った。

 ただの支援魔法でさえかなり強化されるのに、3倍になった支援魔法となると一体どれだけ強化されるのだろうか。

 エステルに言われた通りフリージアは嬉々として弓を構えると、豆粒程にしか見えないリザードマンに向かって弓を放った。

 望遠鏡で見ていると当たった瞬間上半身が弾け飛びリザードマンは即死。

 矢はそのまま近くにあった岩を粉砕して地面にクレーターまで出来ている。

 その衝撃で周囲のリザードマンが何事かとキョロキョロと周囲を見て混乱しているご様子。


「あったりー」


「おー、ビューティフォー。この距離でも問題なく当てるんだな。てか1発でリザードマンが消し飛んだぞ……」


「やっぱりフリージアの狙撃の腕前は凄いわね」


「えへへー、それほどでもあるんだよー」


 支援魔法の実験も終わり、今度はリザードマンを釣り罠にはめる。

 このままだとフリージアの矢の威力が高過ぎるので、グリモワールに触ってもらいエステルの支援魔法を本に吸収させて解除した。

 説明に魔法を吸い取れるって書いてあったけど、こういう使い方もできるんだな。

 

 そんなこんなでフリージアにまた矢でリザードマンを射ってもらう。

 倒さないようにか肩に命中し、さっきの騒ぎで警戒していたリザードマン達が矢の飛んできた方向に一斉に駆け出してくる。

 しかも運よく希少種であるケプールまで交ざっていた。


「あれ、1体しか撃ってないのに沢山こっち来てるよ」


「あいつらは仲間がやられると周りの奴を呼んで襲って来るんだ。だから罠を試すのに丁度いいかと思ってここにしたんだ」


「1体引き寄せれば他のリザードマンも一緒に来るものね。確かに罠を設置する利用できそうだけれど、1体1体が強いのが問題よね」


 こいつらの習性を利用すれば1度に大量の数を罠にはめやすそうだけど、エステルの言うようにリザードマンは結構強い。

 深い穴に落としても死ななそうだし、剣や槍を刺したって倒れるまでにかなりかかる。

 希少種であるケプールの強さなんてさらに上だ。

 そうなると頼みになるのはエステルさんの魔法になるのだが……とりあえず罠で倒して魔石が得られるのかだな。


 こっちに向かって走ってきているリザードマン達が、ようやく罠である魔法陣が仕掛けてあるところに差し掛かった。

 バラバラに走っているから魔法陣がある場所を通らずに次々とリザードマン達は抜けていくが、その内の1体であるケプールが魔法陣の上を通る。

 その瞬間カッと目の前で強い光が走り、ドンッと爆発音と共に衝撃波が伝わってきた。

 慌ててエステルの作った壁の陰に隠れると、壁越しにモワモワと巨大な黒い煙が空に昇っているのが見える。


「凄い大爆発したよ!」


「もう罠とかいう次元じゃないな……。実験場所にレムリ山選んでおいて正解だった」


「ふふふ、なかなかの威力ね。もしかしたらスキル使ってる時より凄いかも。新しいグリモワールとても便利ね」


 エステルはうっとりした様子でグリモワールを撫でている。

 ……これ、かなり恐ろしい物がエステルさんの手に渡ってしまったんじゃないだろうか。

 爆発も収まり罠の仕掛けてあった位置を見ると、巨大なクレーターが出来上がってリザードマン達の姿はない。

 どうやら魔法陣の範囲外にいたリザードマンもまとめて消し飛んだようだ。

 そして魔石がどうなったかスマホを確認してみると……やったぜ、増えてる!

 つまりエステルさん産魔法陣による罠なら、自動で魔物を倒して魔石が手に入るようだ!

 問題はこれをどう上手く使うかだけど……この威力を見ると気軽に仕掛けるもんじゃないよな。


 嬉しく思いつつもどうしようかと頭を悩ませていると、フリージアが大声を上げた。


「あっ! リザードマン達が一斉にこっち来るよ!」


「ちょ、この数は流石にやばいって! 40体ぐらいこっち来てるぞ!」


「あら、ちょっと爆発が大き過ぎたかしら」


「暢気に言ってる場合じゃないぞ! フリージア、数を減らすんだ!」


「了解!」


 やべぇ! 今の爆発でレムリ山にいるリザードマンが大量に出てきやがった!

 しかも爆発してすぐ動いたのか結構近くまできてやがるぞ!

 今なら逃げることはできるけど、こんな数のリザードマンがうろちょろして徘徊したら、もし近くに人がいたら迷惑がかかる。

 とにかく可能な限りフリージアに数を減らしてもらって、女神の聖域を使いながら殲滅戦を――。


「えいっ!」


 慌てる俺達の横を、極太の水の柱が通り過ぎていく。

 水の柱がリザードマンの集団に直撃すると、エステルは杖を一気に横に振った。

 すると水の柱が横に薙ぎ払われて、地面を抉り飛ばしながらリザードマン達を巻き込んでいく。

 水の柱を撃ち終えるとリザードマン達の姿は見当たらず、あっちこっちに千切れた手足や尻尾や武器が転がっているのだけ確認できた。


「ふぅ、やっぱり平野だとこれが使いやすいわね」


「い、一瞬でリザードマン達が……」


「あわわわわ……え、エステルちゃんの魔法凄過ぎるんだよ……」


 エステルの魔法を見てフリージアが震えている。

 う、うーん、罠なんて小細工しなくても、今のエステルだったらとんでもない魔石効率叩き出せるんじゃないだろうか……。

いつもお読みくださりありがとうございます。

小説をお読みにくださった皆様、今年も誠にありがとうございました。

どうぞよいお年をお迎えください。


それと続けての宣伝となりますが、12月26日にコミック版3巻が発売となりました。

ご購入された方は是非カバーを外してご確認いただけると……エステルさんの別衣装や変態スライムが見れます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 守護神様の祠に仕掛けた罠、改めて考えると恐ろしいなぁ。。。無慈悲。 近付いたのが悪意を持った魔人や魔物だったら問題ないけど、 近付いたのが悪意を持った人間だったら。。。 まぁ、魔物が普通に…
[一言] エステルのえいっ!!相手は死ぬ
[良い点] 罠の威力……(^^; 間違えて仲間がかかったら、 ドリフの爆発コントにならんやろな? (ーー;)
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