テストゥードvsカロン
黒いオーラを身に纏ったカロンは、エステル達の支援魔法を受けて女神の聖域から出ていく。
そして目前にいる巨大な亀、ファルスス・テストゥードに向かう……ことなく、その場で両手を組み仁王立ちをしていた。
カロンが女神の聖域から出るとテストゥードはビクンと反応して、即座にこっちを狙って口を開く。
「お、おい! どうして立ち止まってるんだ! 攻撃してくるぞ!」
「そう騒ぐでない。奴の攻撃を待ってやってるのだ。いきなりこちらから仕掛けるのは無粋だろう」
「油断し過ぎなのであります! テストゥード様の攻撃は危険でありますよ!」
「まあ黙って見ておれ。このカロンちゃんに全て任せておけい」
いくらカロンでも慢心し過ぎだ!
せっかく敏捷も高くて装備に攻撃回避【大】もあるのに、真正面から攻撃を受ける必要ないだろ!
俺だったら相手が気が付いてない内に先制攻撃するっていうのに!
そんな俺の考えとは裏腹に、カロンは堂々とテストゥードが攻撃するのを見ている。
ついにテストゥードの口からマリグナントを消し去った攻撃が放たれた。
稲妻を周囲に撒き散らしながら迫る黒い閃光。
それを見てもカロンは全く焦る素振りすらなく、ゆったりとした動作で真っ黒な大剣を振り上げた。
そうして目前に迫った自分よりも遥かに大きな閃光に対して、カロンは大剣を振り下ろした。
「――ふんっ!」
大振りで放たれた一撃はテストゥードの攻撃をかき消し、その余波で地面に大きな裂け目ができた。
マジか!? あれを正々堂々真正面から打ち消しやがったぞ!
心配していたノールもそれを見て口を開けて絶句しているぐらいだ。
驚いている俺達を他所に、カロンは嬉しそうな声で高らかと笑っていた。
「はっはっは! なかなかやるではないかぁ! 幕開けの一撃としては上出来だ! 今度は私の番だぞ!」
カロンの姿が俺達の前から消える。
さっきまでカロンが立っていた場所の地面が深々と陥没し一直線に抉れた。
そして間髪いれずにズドンと鈍い音が辺りに響き、巨大な影が俺達を覆う。
何事かと前を見ると、ファルスス・テストゥードの巨体が嘘みたいに空中でクルクルと回転していた。
その下には片腕を振り上げた体勢のカロンがいて、その手は黒いオーラに覆われ巨大なドラゴンの手のようだ。
クルクルと回転していたテストゥードはそのまま地面に落下すると、甲羅が下になった状態でひっくり返っている。
「な、何が起こっているんだ……いきなりテストゥード様が回転してひっくり返ったぞ」
「あ、あれがカロンの実力なのでありますか……」
「油断じゃなくて本当に強いから自信たっぷりだったみたいね。あっさり勝負がついちゃうかもしれないわ」
「それはどうでしょうか。あの守護神様もかなりお強いですからね。このまま終わったりは……」
シスハがそう口にした途端、ひっくり返っていたテストゥードは手足と頭と尻尾を甲羅に引っ込めた。
そして引っ込めた手足から黒い炎のようなものが噴出し、その場で回転し始める。
その回転力は凄まじく、周囲の木や岩は空中に舞い上がってまるで嵐の中にいるようだ。
女神の聖域に竜巻に巻き込まれたものがガンガン飛んできて怖いぞ。
イリーナさんはあまりの恐怖に小さなテストゥード様をギュッと抱き締めて縮こまっている。
それだけで終わるはずもなく、回転した状態でテストゥードは動き出した。
進路にあるものは全て粉砕されていき、神殿も既にバラバラになって消し飛んでいる。
「辺り一面更地になっちゃうのでありますよ……」
「女神の聖域がなかったら私達も巻き込まれてひとたまりもなかったわね」
「カロンさんの力を実感して本気になったみたいですね。勝負はまだまだこれからですよ」
これからが本当の戦いか……既にどちらもとんでもない力を見せているけど、これで本気でぶつかり合ったらどうなっちゃうんだよ。
援護するとか言ってたけど俺達が入る余地がなさそうだ。
何とも歯痒い思いをしながらも、女神の聖域の外で行われている戦闘を見守っている。
回転し始めたテストゥードは、なんとその勢いで空を飛び始めた。
まるで小さな島が飛んでいるような光景だ。
亀とは思えない速さで回転しながら飛ぶテストゥードは、勢いをつけて島の表面を抉るように突撃してはまた空を飛ぶ。
カロンを狙うように旋回してはまた突撃するのを繰り返し、その度に地面が抉られていき島の面影が消えていく。
おかげで凄く見晴らしがよくなっちゃったぞ……島にいた眷属達は大丈夫なのか?
激しい攻撃をカロンは宙に飛ばされた地面を足場にしてヒョイヒョイと避け、すれ違いざまにテストゥードの甲羅に大剣で攻撃を加えていた。
玉突きのようにテストゥードは弾き飛ばされるが、その後またカロン目掛けて飛んでいくことの繰り返しだ。
途中で頭だけ出して回転しながら光線を吐き出して辺り一面消し飛ばしているが、それもカロンの尻尾による一振りによって瞬く間にかき消される。
カロンも空高く飛び上がり、お返しにとティーアマトを長細い鞭のように伸ばして振り回していく。
空を飛ぶテストゥードに当たると大きく弾き飛ばせるが、それでもダメージは大したことないようだ。
1回振る度に余波なのか島の森が線状に消し飛び、海まで割れているのだが……この戦いが終わるまで島が持つか心配になってきたぞ。
俺やノールのバフまで加わっているから、カロンの攻撃力もとんでもないことになってるぞ。
しばらくお互いに空中で交戦していたが、突然白い霧に空が包まれて姿が見えなくなった。
あれはまさか固有能力にあった幻惑の霧か!
だけど一体何の為に……と疑問に思った直後、霧の中からテストゥードが姿を現した。
回転するのを止め後ろ足の部分から炎を吹き出し真っ直ぐ飛び、先端には攻撃を受け止めるカロンの姿。
空中で踏ん張りがきかないのかされるがままに押されていて、そのまま島に突っ込んでしまう。
轟音と激しい揺れを伴ってテストゥードは俺達の目の前を横切っていき、島が割れるんじゃないかと思うほどの深い溝が出来上がっている。
おいおい、あんなの食らって大丈夫なのか……。
そう思う俺の横でフリージアが懸命に声援を送っていた。
「カロンちゃん頑張れ! 負けるなぁ! ルーナちゃんも応援してあげようよ!」
「ふん、偉そうなのは気に入らないが力は認める。せいぜい頑張れ龍神」
ルーナの奴、もっと素直に応援してやればいいものを……さっきからずっと体をソワソワさせて心配そうにしているぞ。
彼女達が声援を送ってすぐに、遥か遠くまで移動していたテストゥードが鈍い音と共に縦方向に回りながら宙を飛ぶ。
そしてドンっと音がすると、自分で作った深い溝をなぞる様に島を何度かバウンドして転がり、神殿のあった場所にひっくり返った状態で止まる。
追うようにカロンも一瞬で戻ってきて甲羅の腹の部分に乗っかると、ドラゴンの手になっている拳を振り下ろす。
威力が高過ぎるのかパンチをすると島が揺れ、周囲の地面が隆起しひび割れていく。
当然1発で終わることなく何度も何度もパンチを加え、その度に衝撃が島に広がる。
ただパンチしているだけなのにとんでもない音がするんですが……。
というか、パンチするごとに山頂だった地面が沈んでないか?
女神の聖域で守られている部分以外の地面の高さが徐々に低くなっているんだが。
カロンの猛攻を見て、思わずといった様子で小さなテストゥード様が呟き始めた。
『あの龍人は一体何者だ……。人の形を保ちつつあれ程の力を持っているとは。まさか最果ての地より呼んできたのか?』
「最果ての地? そこがどこかわかりませんけど、間違いなく違うと思います」
『そうか……。何にせよ、あの様子なら我が分体の力を不安定にする傷を負わせられる可能性はありそうだ』
最果ての地? 一体どこのことを言ってるんだ。
テストゥード様の話を聞いている限り、この世界にはエルフや龍人も存在しているみたいだけど……最果ての地とやらにいるのか?
そんな俺の疑問はすぐに次の話で流されてしまった。
「テストゥード様は飛べるみたいでありますが、このままだとその前に逃げられたりしないでありますかね?」
『その心配はないだろう。あやつはこの地を自分の領域として認識している。ここを捨てて逃げる選択などない』
「この島ってそんなに重要な場所だったのかしら? お姉さんから聞いた話だと守護神様が向かった先にあった島だって話だけれど」
『ここは島扱いされているが、遥か昔に我から剥がれ落ちた甲羅の一部でな。それがこの地に根付いて今の形になったのだ』
なんと、この島って元々テストゥード様の一部だったのかよ!?
だからマリグナントはこの島に来て召喚しようとしていたのか?
御神体もまた体の一部だって話だったけど、この島はそれとはまた別なのかな。
やはり色々と気になる部分があったが、カロンに攻撃されていたファルスス・テストゥードに変化が現れたので話を中断した。
ついにされるがまま攻撃されていたファルスス・テストゥードの甲羅にヒビが入ったのだ。
しかし、それと同時に甲羅が黒いオーラに包まれて雰囲気が変わった。
それにはカロンも一瞬攻撃するのを止めたが、関係ないと言わんばかりにまた拳を叩き込んだ。
が、さっきまでと違いさらに鈍い音がすると、攻撃したはずのカロンが僅かに動きを止めた。
それでもまた何度も殴っているが、勢いが明らかに落ちている。
あれは……もしかしてシェルフォートレスってやつを発動させたのか?
カロンの猛攻を受けて攻め切れないのを悟って甲羅にこもりやがったな!
あと一息ってところだったのに、このまま竜魂解放が解除されるまで時間稼ぎをされたら非常にまずいぞ!
「せっかくヒビが入ったのに急に硬くなったみたいですね。あのオーラはスキルによるものでしょうか」
「元々ステータス的には防御寄りだし、スキルを発動されるときついな。カロンなら確実に勝てるだろうけど、時間制限がある中じゃ……」
「むむむ、もっとカロンの攻撃力を上げる物があればいいのでありますが……」
確かにシェルフォートレス発動中でもカロンの攻撃の方が上回っているみたいだから、もっと攻撃力を上げる方法があればいいのだが……。
パワーブレスレットを重ねる……いや、それじゃそこまで攻撃力は上がらない。
もっと一気にあのテストゥードの甲羅を破壊できるぐらい跳ね上がる方法は……あっ、あるじゃんか!
これを渡せばきっと……それにカロンのティーアマトならもしかしたら!
俺は女神の聖域から出て、持っていた物をカロン目掛けて投げた。
「カロン! この武器のスキルを使うんだ!」
そう、投げた物とはエクスカリバールだ。
エクスカリバールは専用武器じゃないから誰でも使える。
つまり、カロンが持つことによってエクスカリバールの能力も上乗せ可能だ。
ということはだ、黄金の一撃も付加される。
竜魂解放発動状態でさらに2倍の攻撃力を上乗せ、現状でこれ以上強化できる手はないはず。
投げたエクスカリバールを受け取ったカロンは一瞬怪訝そうな表情を浮かべていたが、すぐにこっちを見てニッと笑みを浮かべ親指を立てた。
俺も返事にグッと親指を立て女神の聖域の中に逃げ帰る。
カロンが完全に制圧してくれていたとはいえ、今この中から出るのは正直かなり怖かったぞ……。
再び聖域内からカロンを見ると、黄金の一撃を既に発動させているのかエクスカリバールは金色の光を発していた。
それだけではなく、オーラ状になったティーアマトがエクスカリバールに纏わり付いて、黒と金が混ざり合って輝いている。
自由に形を変えられるティーアマトならできると思ったけど、マジでエクスカリバールに纏わり付かせて使えるとは。
カロンは合体させたティーアマトとエクスカリバールを掲げると、ヒビの入ったテストゥードの甲羅目掛けて振り下ろした。
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ありがたく拝見いたしました……感謝感謝です!




