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背中合わせの二人


「ふははっ、甘いぞナオヤっ。魔界最速のマヤと勝負とな!?」


 特攻寸前とは思えない、晴れやかな声が追いすがってきた。

 これ、遊びじゃないからっ。

 人が死んでんねんでぇ、と言いたい。

「見ろ、マヤの方がはや――」

 マヤ様が誇らしげに、あるいは性懲りもなく、俺を追い越そうとする。

「そうはイカの何とかですようっ」

 だいたい、わざと速度をゆるめたんですよ、今のは。

 だいぶ鬱憤うっぷんが溜まってたので、さらに追い抜かそうとするマヤ様の先を読み、さりげなく足を引っかけて差し上げた。



 ……いや、相手のことを思えばだけど、意趣返しの意味があったのは否定できない。

「きゃっ」

 嘘みたいに色っぽい悲鳴を上げ、マヤ様が倒れる。 

 ちらっと振り返ったところ、素早く半回転してすぐ上半身を起こしてたみたいだが、その頃にはもう俺、数馬身はリードしていたね。

 最後は独走だ……まあ、死のロードかもしれんけど。


「ナオヤあっ。今のはわざとであろう!」


 ヤバい、怒りまくった叱声がした。 

 眼前の護衛共より、こっちの方が俺は怖い。

 もう、振り返らずにおこう。

 

「うお、本当だっ」


 護衛の誰かが、今頃になって叫んだ。

「い、今のやたらと綺麗な倒れ方した女、ダークプリ――いや、マヤだっ」

「生きてたのか!」

「くそっ、階下のヤツらはどうして止めなかったんだっ」

 俺より、コケたマヤ様を見た護衛共が、口々に叫ぶ。

 とそこで、呆然としていた一人が我に返ったように叫んだ。


「取り押さえる必要はないっ。殺せ!」


 こいつが指揮官だったらしい。

「うるせー、どかないと斬るっ」

 集団の間近まで来てヤケクソで叫んだが、さすがに私室の前で警護してるだけあって、こいつらは筋金入りだった。


「やってみろ!」

「貴様が死ねえっ」


 全員、怒声と共に抜剣して、斬りかかってきやがった。

 人数のせいか、目の前はまるで剣の林みたいだな、ちくしょう!

「ええい、くそっ――」

 仕方ないなあっ、と叫ぶほどの時間もなく、最初の一人が突っ込んで来た。

 でもって今更だが、最初の頃に比べたら俺の身体、嘘みたいに軽いっ。正直、例の超速モードに入らなくても、相手の動きが緩慢かんまんに見える。

 今も、サイドステップであっさり敵の一撃を避け、逆にふらついた敵の上半身をざっくり斬っていた。

 そのまま勢いに乗り、すぐ後ろに続いていた二人ほどを次々とほふる。その間、本気で一秒とか二秒くらいの刹那の間だったかもしれない。


 右へ左へと刀身がなめらかに動き、寸刻も迷わなかった。

 今回は全く手加減しなかったので、三名揃って即死確定である。

 ――ていうか、そもそも手加減なんかしてる場合じゃないっ。

 二十名超の人数がこの馬鹿みたいに広い廊下で俺達を囲もうとしている。さすがの俺も背中に目はないので、後ろへ回り込もうとするヤツはどうしても見逃しやすくなる。


 敵も即座にそこに気付き、「囲めっ。囲んで四方から同時に斬りかかれ!」などとぬかして、包囲にかかった。

 気配で背中につかれそうになったのがわかった時は、ひやりとしたほどだ。

 しかし、完成しかけた包囲の一画は、次の瞬間にあっさり崩れた。





「無礼者共めぇええええっ」


 大気を震わせるほどの大喝と共に、物凄い血飛沫が上がった。

 追いついたマヤ様が、ごっつい剣を豪快に横薙よこなぎにし、三名ほどまとめて冥界に送ったせいだ。


 うわぁ……今回は横割りか……これはこれでエラい悲惨な。

 

 敵も、一部は寸前でマヤ様に対して身構えていたのに、構えていても全然関係なかったな……剣技がどうのより、パワーが違い過ぎる。無双ゲームの主人公も真っ青だな。

 自分を棚に上げ、そう思ったくらいだ。


「いてっ」

 ついでに、駆け寄ってきたマヤ様にガツンと頭殴られて、俺までダメージ受けた。

 あんな小さな拳なのに、煉瓦で殴られたようにくらっと来た。

「なにすんですかっ」

「黙れっ、さっきわざと足を引っかけた仕返しだ!」

 ぷりぷりして大人げないことを言い切る。

 とはいえ、この人はスタイルの割にまだ十三歳なんだが。

 片手で頭を押さえた俺は、文句を言いかけたが……周囲を見て、慌てて刀を構え直した。

 自然と、マヤ様が俺と背中合わせに立ち、互いに死角を補う形となる。


「いつかこうして、ナオヤと共に戦いたいと思っていた」

 マヤ様が一転して静かな声で言った。

「願いが叶ってマヤは嬉しい」

 声がいつになくマジで、俺は返事もできなかった。

 一つには、囲んでるヤツらがいつ一斉に掛かってくるかわからず、気を抜けなかったのもある。


「ふざけやがって」

 指揮官の髭ダルマが石廊下に唾を吐いた。

「二人共、ここで首を刎ね、ファルシオン様に献上してくれるっ」

 俺達が走ってきた方を指差し、にんまりと笑った。

「見よ、増援が来たぞ」

 慌てて振り向けば、確かにあのやかましいエレベーターがまた到着し、汗臭い兵士の群れを吐き出したところだった。


「おまえ達もここまでだっ」




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