振り向けばそこに――
『悪いなっ』
と心の中で謝罪しつつ、抜刀して門番の首筋に剣撃を叩き込む。
「! けふっ」
とか妙な声を上げて、敵が倒れる。
腕の所属リングを見る限り、こいつらもファルシオン伯の系統みたいだったが、一応は峰打ちにしてある……もっとも、同じことを仲間にまで強要する気ないけど。
当然、追いついた他の二等戦士は、躊躇なく斬っていた……まあ、それで正解だろう。下手なところで息を吹き返されても困るしな。
とか思ってたところ、いきなりすぐそばでマヤ様が怒鳴った。
「おのれ、裏切り者めっ」
ほぼ同時に、例のごっつい大剣をどかっと振り下ろす。
俺と違って、この人は容赦ないなっ。
ホント、信長もびっくりだよ! 訳がわからず、ぽかんと立っていた兵士一人が、これでものの見事に即死したし。
おまけに、また二つ割りという……さすがにこれは目立ったらしく、早速、周囲が騒がしくなってきた。
「げ、げげっ。なんだよ、おい!」
「割れてるぞ、あいつっ」
たまたま詰め所から来たらしい兵士四人が、ぎょっとしたように足を止める。おそらく、交代が近かったんだろう。
談笑しながらチンタラ歩いてたのに、仲間の突然の死体化を見て、今や腰が引けまくっている。
「大人しく寝ててくれっ」
俺は即座にそいつらにも飛びかかり、遠慮なくガンガン首筋に剣撃を叩き込んで気絶させていった。
説得してる暇なんかないし。
この辺りでようやく少し緊張が抜け……同時に俺は思いついた……思いついてしまった。
――ひょっとして、今ならこのまま城内に突入できるんじゃないのかー?
もちろん、追いつく部隊を待ってるうちに魔法効力は切れるだろうが、今すぐ走り出せば、まだ一分くらいは効力が残ってるかも。
なんせ、我ながら素早く片付けたんで、今のところ応援が間に合う様子もない。
敵はまだ態勢なんか整えちゃいまいよ。
気付いて本格的に騒ぎ出すのは、おそらく後続の奴隷兵士達が追いついて、城門を駆け抜けた時だろう。
――そう判断した途端、俺は自分でも意外なことに走り出していた。
とっさに振り向き、俺が気絶させた敵兵に「スリープ(魔法)」をかけているネージュに、指示だけ叫んでおく。
「俺、一人で先に行くっ。ネージュと他のみんなは、後続を待ってから(ここ強調)突入してくれ。おそらくファルシオン伯は、最上階だっ」
「ええっ」
ぎょっとしたようにネージュが俺を見た。
「冗談でしょ!? 一人で暗殺に行くつもりっ」
「今はチャンスなんだって! 俺一人なら、逃げるにしてもどうとでもなるっ」
強引に叫び、俺はそのまま王宮内に走り込む。
「馬鹿ね、いくらなんでも無茶よっ」
「無茶は承知!」
背中の方でまだネージュが喚いていたが、俺はもう振り向かなかった。決断したからには、このまま機械式のエレベーターまで行けるかどうかが勝負なんだって!
今のところ、まだ透明化の魔法が効いてるのは、王宮内のホールを駆け抜ける俺を、誰も見向きもしないことでも明らかだ。
後は……贅沢は言わんから、機械式エレベーターまで魔法が保ってくれたら、言うことない。
それに乗れば、最上階まで行けるしっ。
俺の厚かましい願いは、一応は叶った。王宮奥にある、機械式エレベーターまで辿り着いたのだ。
そこでちょうど、扉がガラガラと開き、古風なスーツ姿の魔族の貴族が二人、悠然と下りて来た。無視して駆け抜けようとしたものの、今回は向こうが足を止めてこっちを睨んだ。
ちくしょう、ついに魔法が切れたか!
「待たぬか! 下級戦士が王宮で騒がしく走るものでは――」
言いかけ、なぜか二人共、悪夢を見たような顔で俺の後ろを見た。
当然、俺はこれ幸いとばかりに刀を抜き、問答無用で襲いかかった。
「悔い改めよっ」
昔、街の張り紙で見た宗教のセリフを真似して、怒鳴りつける。
多分、だいぶ俺も冷静さを失ってる。
「なっ」
叫びかけた相棒の首筋に剣撃を叩き込み、即座にもう一人の方へ向き直る。
ようやく反応して飛び退ろうとしていたそいつの間合いに、すかさず飛び込んだ。
そいつは既に腰の剣を抜きかけてたが、あいにくだいぶ反応が遅い。
「そんなんじゃ、いつか死にますよっ」
余計な忠告と共に、そいつの胴に横殴りの一撃を叩き込んだ。
あ、峰打ちだけど、今回は手加減忘れた。
多分……何本か折れたな。運が悪かったと思ってくれ。
振り向きもせず、これまた内心で謝っておく。ようやく開いたままのエレベーターに飛び込み、扉を閉めようと(手で開閉する蛇腹状の金属扉なんだ)……したところが、隙間から飛び込んできた人を見て、ぎょっとした。
「ま、マヤ様っ」
「馬鹿、大声を出すでないっ」
ヤケにわくわくした嬉しそうな顔でそう言うと、マヤ様は自ら金属製の扉を閉め、ぶっ叩くように最上階のボタンを押した。
ガクンッと大きなショックと共に、ガタガタとエレベーターが動き出す。
うわっ、もう追い返せなくなったぞ! ど、どうするよっ。
「くくくっ……やはりナオヤのそばにいると退屈しないなっ」
人の気も知らず、マヤ様がくすくす笑った。




