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魔王城突入

 



 俺は大歓声を背中に、真っ先に軍勢を飛び出し、魔王城の方へ駆け出す。


 一応、最初は路地に駆け込み、ほんの少しだけ回り道するコースを選んだ。モロにメインストリートに出ると、あまりに目立ちすぎる。

 指揮官が先頭切ることなどは、この魔界にあってさえ有り得ないんだが、いつ俺達が侵入した報告が行くかもしれない。


 急いだ方がいいに決まっているんだし、できれば自分の手で何とかしたかった。

 と、いち早く馬で追いつき、俺の左に並んだ戦士がいて――誰かと思えば、フードを取ったネージュだった。



「おわっ」

 危うく刀を抜きそうになった。

「あっ、そうか。ネージュもこっちだったなぁ」

「……自分が同じグループに入れたくせに、忘れないでよ」

 路地を同じく併走しつつ、ネージュが呆れたように言う。

 エルフ特有の真っ白な髪を晒して駆けているので、だいぶ目立つ。

「まあ、ナオヤ君――というより、ダークプリンセスが盛大に切れてからは、展開早すぎてあたしも出てくる隙がなかったんだけど」

 器用に馬上で肩をすくめ、


「でも、こうなるとナオヤ君のそばにいた方が、役に立てるかなって。……というより、他の戦士より援護のし甲斐があるっていうのが大きいわね」 

「そうだっ」

 俺は彼女の話をほとんどスルーし、急いで問う。

「透明化の魔法って使えるよね、魔法使いなんだし?」

 この質問に、ネージュは膨れっ面を見せた。

「やぁね、もちろん使えますとも。――ただ」

 と俺を横目でちら見する。

「何を考えてるかはわかるけど、あの魔法はそう長く保たないわよ。せいぜい数分ってトコかしらね」



 そこで、「待て、待たぬかっ」という聞き覚えのある声が聞こえた。

 速度を緩めずに振り返ると、マヤ様を初めとして、新たな二等戦士達が必死でついてくる。当然、馬はそんなに数多くないので、後の奴隷達はダッシュでその後からついてきてるだろう。

 ……つまり、どうしたって俺達が先に城門に着くわけだ。

「数分でもいい」

 俺はマヤ様を無視してさらに馬を急かせ、声を抑えてネージュに言う。

「ただ、人数はどれくらいカバーできるかな?」

「……これまた考えてることはわかるけど」

 さすがにネージュも、緊張した顔つきになった。

「あたしの魔力を持ってしても、せいぜい十名……その程度ね」

「十名でいい、上等だよ」

 俺は大きく頷いてやった。

 どうせ今は、それくらいしか先行してないもんな。

 問題はマヤ様がついてきてることなんだが――。

「……どこかで隠れててくださいって言っても、絶対無視するだろうなぁ、あの人はさー」


「当たり前だっ」


「わっ」

 気付けば、既に右横に並んでいた。

 どこでガメたのか、立派な白馬にまたがり、ローブの下に着てた漆黒のドレス姿で、心地良さそうに金髪をなびかせている。

 もちろん、恐ろしいまでに目立っていた。

 この人、自分が狙われてる自覚ないな!


「待てというのに、さっさと行くでないっ。当然、マヤも同行するに決まっておろう! 元々、あそこは父上の居城であり、ゆくゆくはマヤとナオヤの居城になるのだからなっ」


「……いや、俺は関係ないんじゃ?」

 上の空で答えたが、マヤ様は口元に手をやり、なぜか狼狽しまくりの表情を見せた。

「そ、それはいいっ。とにかくマヤも同行して戦う。追い返そうとしても無駄だ」

「わかりました」

 やむなく、俺は頷く。

「というか、今はマヤ様を説得してる時間もないし、隠れ家を捜してる時間もありません」 

 路地とはいえ、早くもちらほら人が集まり、こちらを指差すのを見て、俺は唇を噛む。

 こりゃ駄目だ。ホントにいつ連絡が行くかわからん。それに、魔王城はもうすぐそこなのだ。覚悟して突っ込むしかない。


 先行したギリアム達が外の騒ぎに気付けば、あるいは予定を早めて内部で決起してくれるだろう。それをアテにするしかないな。

 くそっ、我ながらおおざっぱな策だよ、ホント!

 しかし時は待ってくれない。

 前方の魔王城が見る見る大きくなって行く。そろそろ、用意しとかないとまずい……となると、透明化の魔法の制限時間は、門についた時には正味、幾らも残ってないだろうな。


「それでも仕方ないなっ」

 俺は意識して速度を緩め、後続の二等戦士達が追いつくのを待った。彼らの馬が追いついてから、改めて計画を話す。

 仲間がいい感じに固まったところで、ネージュに合図を出した。


「いいよ、ネージュ。透明化の魔法を頼むっ」


「わかったわ!」

 俺の左で、ネージュが頷く。

 既に小汚いローブは脱ぎ捨て、いつもの軽装だった。

 すかさず詠唱に入り、片手を大きく俺達の方へ回した。


「インビジブルっ」


「おおっ」

 と声に出し、みんなを見回したけど、別にちゃんと見える。

「これ、ホントに透明化になってんの!?」

「なってるわよっ」

 速攻で言い返された。

「同時刻に、同じ魔法を掛けられた者同士は、ちゃんと見えるの。でないと判別つかなくて危ないじゃない!」

「あ、そうか」

 ていうか、足を止めてこっちを見てた帝都の住人達がどよめいたので、多分、本当に透明になっているんだろう。


 どのみち、心配してももう遅い。既に路地から飛び出し、帝都で一番広いメインストリートに出ちまった。

 軍道も兼ねた石畳の道だが、ここからは魔王城の門がまともに見える。


 今は昼なので、跳ね橋も下り、門はちゃんと開いている。

 後続部隊が追いつくまでは、あそこを確保しとかないとな。

 ……しかしこれ、一つ重大なことを忘れていたな。


 俺は今更ながらに顔をしかめた。透明化になっても、馬蹄の音までは消えない。現に、門番の兵士達が顔を見合わせてごにょごにょしゃべっている。

 いや、もう声まで聞こえた。


「おい、どこからか馬蹄の音がしないかっ」

「するが、しかし何も――」



 返事の前に、既に馬足をゆるめた俺は、地上に飛び降りて駆け出していた。


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