見覚えのある、あいつ
以後も、俺達は新たに仲間となった兵士から他の奴隷輸送ルートを聞き出し、夜間を待って同じく襲撃した。
この襲撃も奴隷を監督する正規軍兵士のみを対象に早々と勝負を決め、特に問題も起きずに上手く自軍に組み込むことができた。もちろん、ミュウを同席させてのテストで失格となる兵士もいたけれど、それはあくまで少数派である。
やっぱりみんな、マヤ様を目の当たりにすると、ファルシオン伯を見捨ててこちらに着くものが多かった。
身も蓋もないけど、「指導者はある程度は外見も関係あるなぁ」と、俺は確信したね!
ゲバラ(焼き肉のタレじゃないぞ)だって、あれだけイケメンなお陰で、これだけ有名なんじゃないか? などと、穿ったものの見方までしちまったくらいで。
いや、別にゲバラが嫌いなわけじゃないけどな。
外見は置いても、おそらくマヤ様とそのいとこのファルシオン伯を公平に比べると、頼もしさが全然違うんだろう。おまけにマヤ様に従うってのは、やっぱり魔王陛下に従うのと同義で、まっとうな魔界戦士の忠誠心に訴えかけるのも事実だ。
いみじくも俺がフカした、「正道に戻る」ってヤツ?
というわけで、俺達は二度の襲撃を経て、この時点で元からあった兵力が大幅に増強され、総勢で千に届こうかという軍勢に育っていた。
その大半は奴隷ではあるが、しかしこれだけの数となると、なかなか馬鹿にできない力となる。いざとなれば、軽く合戦くらいはやれる人数だしな。
なので、この辺りで俺は決断することにした。
「機は熟しました……そろそろ、王都潜入を試みましょう」
野営したその夜、俺は諸将を集めた軍議の場で、マヤ様に進言した。
「うむっ」
マヤ様は満面の笑顔で頷いてくれた。
「ナオヤがいつそう言うかと、待ちかねたぞ。いよいよだなっ」
覇気に溢れるマヤ様は、もちろん反対しない。密かな俺の予想通り、反対したのは自軍の中じゃギリアムだけである。
「少し急ぎすぎではありませんか?」
彼はいつもの慎重論を唱えた。
「あと何度か、同じように奴隷達の輸送を狙い、兵力を増強しては?」
「まあ、本来はそうするのが硬いんだろうな」
俺は真面目くさって頷く。
決して嫌みではなく、俺はギリアムのこういうところ、大いに気に入ってる。みんなイケイケ軍人みたいになってたら、それこそヤバいからな。
やっぱりギリアムのように、ブレーキをかける人材は必要なんである。
……などど認めつつも、ここでは俺は自分の考えを通すことにした。
理由は簡単だ。
「これ以上、大軍に育つと、目立ちすぎる。魔界は斥候も出さない余裕ぶっこいた将軍が多いらしいけど、さすがに帝都の近くで大軍が移動してたら人目に付きすぎるよ。奴隷の輸送に偽装するたって、限界はあるだろうしさ」
噛んで含めるように説明してやった。
「おまけに、ファルシオン伯が出した五千の軍勢が、いつ戻って来るかわかったもんじゃない。下手にこの辺りをうろうろしてて、そいつらとかち合ってもつまらないし」
「わかりました、そういうことでしたら」
意外と、あっさりギリアムは引っ込んだ。
考えすぎかもしれないけど、この人はわざとこうして疑問を呈して、俺の口からみんなに聞かせようとしてるのかもな。
だとしたら、いよいよ得難い人かもしれない。
「そうと決まれば、早速、戻ろうではないか」
最後は、マヤ様が力強く宣言した。
「我が名を冠した、魔界の帝都マヤにな!」
俺を初め、全員が敬礼で応え、ここに一世一代の大博打が始まった。
……まあ博打じゃなくて作戦と言うべきだろうけど、危うさから言えば博打に近いよな。
翌日、元からの仲間達は、俺の指示で全員が奴隷に化け、元々奴隷達を率いていた魔界戦士達に従い、輸送されていった。
もちろん、帝都マヤに向かって。
この輸送奴隷達は、そもそも魔界にある地方の村や街から徴兵された者達で、それこそ人も獣人も取り混ぜて大勢いる。
その中に粗末な麻の衣装を着込んで、小汚いローブでも被って俯いてりゃ、それだけで余裕で紛れ込めるわけだ。
心配だったのは、誇り高いマヤ様がその変装を納得するかだったが……この方は案外お茶目な部分もあるらしく、「奴隷に変装か? 生涯、二度とやることもあるまいし、なかなか楽しそうだっ」とむしろはしゃいでいた。
……ていうか、これは遊びじゃないんだけどな。もちろん、可愛いから許せるけど。
殴られるので、そんなことは本人には言わんけどさ。
という余談は置いて、俺達は自軍を紛れ込ませた奴隷集団を、元の正規集団のように二つに分け、それぞれ帝都へと向かった。
最初の集団にはギリアム、エルザ、ヨルン、ミュウが。そして二つ目の集団には、俺とマヤ様と、後は他の仲間が紛れ込んでいる。もちろん、砦の兵力も二つの集団に分散して紛れ込ませた。
それぞれ一定の時間を置いて、帝都の門を通過する予定だ。
順番についてはだいぶ悩んだけど――。
まずこの作戦が上手くいくかどうか試す意味でも、最初の集団にマヤ様が紛れ込むのは止めといた方がいいだろうと。
幾ら賭けとはいえ、まずは試さないとな。
人員配置について、ミュウが「ナオヤさんと一緒のグループにいたいです」と、腰にずんとくるような甘いお願いしてきたが、俺は心を鬼にして却下した。
いざコトが露見したら、ギリアム達や他の仲間を庇って戦える人がいてくれないと困る。別に彼らも捨て駒のつもりはないんだし。
そう説明して、ようやく納得してもらえた。
――そして霧が立ち籠める朝、俺達は何事もなく、帝都の巨大な門に到達した。
十メートルはありそうな巨大な黒石の門柱と、それに鉄の補強が入った、馬鹿みたいに大きな分厚い木製の扉の前に、監視の兵士達が退屈そうに並んでいる。
彼らが出入りする人間や物資をチェックしてるわけだ。
この時点で、先行したギリアム達が敗走してこなかったということは……彼らは上手く潜入できたってこと……のはずだ。
だから、理屈では俺達も上手く行くはず――なんだが。
「――げげっ」
奴隷に混じった俺は、衛兵を監督する正規軍戦士を見て、思わず声を洩らした。
交代したばかりなのか、いかにも眠そうな顔でぼさっと立っているあいつ……あのむさい顔には、嫌というほど見覚えがあるぞ。
なんと、俺が肉の盾をやっていた頃の、クソッタレ将軍じゃないか!
な、なんでこいつ、普段はやらないような監視任務に就いてんだよっ。




