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困った時のミュウ頼み



「よしよし、第一段階としては上出来じゃないか?」


 俺は、早々と降伏させた数百ほどの軍勢を眺め、破顔する。

 正規軍兵士は例外なく縛られ、他の、最初から縛られている奴隷達は皆、その場に座り込んできょとんと俺達を見ている。

 場に流されて生きる彼らにとっては、全てはその場限りの出来事みたいなものなのだろう。


 眼前の軍勢は、実は軍勢というよりは九割方は奴隷の集まりだが、この際はそれが功を奏したな。もう少し正規軍兵士の割合が高ければ、こう上手く制圧できなかっただろう。

 正味の話、俺達がやったのは、夜陰に乗じて彼らを襲い、特に監督官(奴隷を監督する正規兵士)のみに目を付けて、ささっと制圧しただけだ。

 命令する兵士がいなきゃ、奴隷は自分から動かないしな……輸送中で縛られているとなれば、なおのこと。



 

 ……というわけで、俺達は帝都マヤから半日の距離にある、軍道のそばまで来ていた。

 もちろん、帝都マヤからファルシオン伯がルクレシオン帝国へ向けて軍を差し向けたのと入れ違いに、ここまで接近したわけだ。

 そこで正規軍ではなく、「奴隷輸送中」の軍勢を狙い、こうして早々と勝負を決めたというわけ。現在、魔界はルクレシオン帝国と激しく交戦中なわけで、奴隷の行き来はひっきりなしに行われる。

 その大量輸送の途中に目を付けたのだな。


 その狙いは簡単で、俺達自身が奴隷に化けて、帝都の門をくぐり帝都マヤに……引いては魔王城に侵入するためだ。元々が出荷場行きの奴隷に化ければ、比較的楽に侵入できる――かもしれない。俺はそう考えた……というか、それしか思いつかなかった。




「しかし、ナオヤ様」

 座り込んだむさ苦しい奴隷達とは違い、ぱりっとした黒のスーツ姿で立つギリアムが、案じるように言う。

「さすがに帝都の門を守る衛兵は、我らの顔を知っていましょう。監督の兵士に化けるのは、なかなか困難だと思いますぞ。となると、今制圧した彼ら――つまり奴隷を監督する二等戦士や上等戦士達に、帝都侵入の協力を求める他はありませんが」

「そうだ」

 マヤ様も大きく頷く。


「我らの事情をみ、協力してくれればいいが、帝都の門まで来て騒がれたら、何とする? あえて訊かずにここまで来たが、もちろん考えはあるのだろうな?」

 期待するようにマヤ様が俺を見たが、もちろん、それもちゃんと考えてるさ。

「ふふふ……方策はありますとも、方策は」

 俺は、のび太がドラ○もんに頼るようにミュウにあるお願いをし――。

 その上で、この輸送奴隷を率いていた正規軍兵士達を呼びつけ、マヤ様を前にして俺達の事情――まあ、めんどくさいところは伏せて、単にファルシオン伯の裏切りとマヤ様をないがしろにしている事実をぶちまけた。


 馬小屋で審問したリューゲルによると、魔界の兵士は「マヤ様はもう亡くなっている」と聞かされているらしいから、健在すぎるほど健在なマヤ様を眼前に見せるのは、大いに効果があるはずだ。

 で、彼ら(ざっと二十名ほど?)に全部話した上で、こう持ちかけた。


「というわけで、俺達は正義の鉄槌(ここを強調)を下すために、帝都マヤに侵入して、ファルシオン伯を打倒するつもりなんだ。もちろん、協力してくれれば、諸君も後で恩賞は思いのままだぞ。どうだ、ここらで正道せいどうに戻り、忠義を尽くす気は?」


 諸君とか正道、てな言い方には舌を噛みそうになったが、ここはいかめしく持ちかけるのが正解だろう。

「一人ずつ、返事を聞きたい。はい、まず君から」

 一番端に座らされていた、二十歳くらいの若者を指差す。

 若いとはいえ、これでも二等戦士である。


 彼は唇を引き結んで考え込んでいたが、俺の指名を受け、後ろ手に縛られたまま、立ち上がった。

 決然として俺――ではなく、俺の横で軽く腕を組むマヤ様を見つめ、音声テストみたいに声を張り上げる。


「自分は、マヤ様も魔王陛下も、敵に殺されたと聞かされていました。それが嘘だった以上、これまでの行いを深く反省し、今後はマヤ様に従います!」

 

 うあ……出たよ、クラスに一人はいる、生真面目な優等生。こういうヤツにかばわれて、かえって傷ついたことあったなぁ、俺……とか余計なことまで思い出した。

 まあ彼は優等生とはいえ、顔に刀傷があったりして、なかなか気合い入ってるけど。

「なるほど、なるほど」

 黙したまま俺に任せきりのマヤ様に代わり、俺はにこやかに頷く。

 で、そのままさらに左隣のミュウに囁いた。


「――今のは本当かな?」


「真実です。彼はこの上ないほど真剣ですね」

 同じく囁き返したのを聞き、俺はにんまりとほくそ笑んだ。

 いやぁ、ミュウがいると楽でいいや。真偽が一発でわかるもんな。


「おめでとう!」


 俺は愛想よく近付き、自ら彼の縄を解いてやった。

「今から君は、俺達の仲間だ。共に戦って帝都を奪還しようっ」


 我ながら調子いいな、俺!


「あ、ありがとうございます。命がけで戦います!」

 意外そうに目を瞬いたが、彼は随分と嬉しそうに、縛られていた手をさすった。

 まあ、からくりを知らないから、「俺、信じてもらえたっ」とか喜んでるんだろうな。おいおい、世の中そんな甘くないぞ、若者よ。

 ――つか、俺の方がずっと年下だけど。


 ともあれ、この調子で一人ずつ全員に同じ質問を繰り返し、俺はさくさくと選別していった。結果、三人を除き、後は合格した。

 思ったほど統制力ないな、ファルシオン伯とやらは。いや、この場合は人望力か。




「……そういえば以前、その娘には嘘を見分ける能力があると聞いたが」


 マヤ様がしんねりと上機嫌な俺を見やる。

「マヤはナオヤは信じるが、その娘までは信じておらぬ。本当に信用して大丈夫なのか」

 これに対し、俺はきっぱりと言った。

「俺を信用してくださるなら、ミュウも信じてやってください」

 お陰でミュウはとろけるような微笑を広げ、逆にマヤ様は渋い顔になったが……まあ、仕方ないさ。別に太鼓持ちのつもりもないし、俺だって。


 とにかく、これで帝都の門は何とかなる……かもしれない。 




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