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作戦決定



「ま、まさか!」


 俺は鼻息も荒く即答した。

「むちゃくちゃ関心ありますよ、ありまくりですよっ」

「そ、そうか……」

 珍しく、少したじたじとなってマヤ様が頷いた。

「では、誘った甲斐があったな。……ならば、そろそろ用意して湯殿に参ろう」


「そ、そうだすねっ!!」


 緊張のあまり、思いっきり言い間違えていたが、それすら今の俺は意識してなかった。

 何となく背を向けて、モソモソと脱ぎ始める。


 そこで初めて……本当に初めて、「これ、よく考えたら俺も裸を見られるやん!」と思い至ったが、もう後戻りもできない。

 いや……そもそもこのお膳立て自体、マヤ様が俺をからかっているのではないか。ひょっとして、今振り向いたら、なんか札とか持って、「引っかかったな、愚か者!」などと満面の笑みで言われるのではないか? 

 などといつものネガティブ根性が蘇り、衝動に駆られて振り向いてみた。


「――! ぶっ」


 思わず口元押さえたね! ガツンと衝撃食らった。

 ホントはもっと見たかったけど、慌ててまた棚の方を向いた。

 真っ白でしなやかな背中から、ぐっと絞られたウエストのラインから、絶妙の形のお尻まで、今俺は、全部見ちまった。

 まだ後ろ姿だったから、鼻血出ずに済んだようなもんだ。

 ぬ、脱ぐの早いよ。だいたい、貴女はいつも人の三~五倍は食べるくせに、なんでそんな体型を維持できるんですか。


 あ、ヤバい……ちょっと他のことを考えないと、反応しそうだ。これは予想外にヤバいな。そこまで計算しなかった。下手するとマヤ様に変態だと思われるじゃないか。

 この有様で見られたら、どんな言い訳も通じないぞ。

 などと考えていたら、いきなりポンと肩を叩かれ、悲鳴を上げそうになった。



「……先に行くぞ、ナオヤ」

 少しだけ頬が赤くなったマヤ様が、わざとらしくそっぽを向いたまま通り過ぎていく。

「は、ははっ」

 ははっ、ではない。マヤ様が落ち着いているのに、俺があたふたしてどうすんだ!? この風呂イベントだって、元々は俺を気遣ってセッティングしてくれたらしいのに。

 深呼吸した後、俺は自分の頬をぴしゃりと叩いた。

 

「……よし!」


 深く考えるからいけないんだ、うん。別に一緒に風呂入るだけなんだよ。妙な真似をするわけじゃないし、どうせ湯気が多くて、見たくてもそんなに見えないさ。

 親戚の幼女と風呂に入ると思えば、なんてことないっ。親戚に幼女なんかいないけど。


 覚悟を決めると、少しだけ落ち着いた。

 その勢いでささっと服を脱ぎ……それでもタオルで前だけは隠して……俺は湯殿へ通じる扉を開けた。ここまで来て、引き返せるもんか!


                    ○○ 

  

 ……結局、俺は二人で長湯した結果、湯あたりしてその晩は寝込むことになるんだが、まあそれは置く。

 とりあえず、俺とマヤ様の距離は、これをきっかけに多少は縮まったかもしれない。

 翌日から始まった帝都マヤの攻略作戦を決める時も、二人でとどこおりなく進んだ。

 ただ、以後の数日はどうも……どうもこう、気分がふわふわしていけなかったな。数日後にはほぼ全軍で砦を出たのだが、ホント、もう気分を切り替えないとヤバい。




「うん、いい加減に気持ちを引き締めて、気合いを入れないとな」


 皆に作戦を伝える軍議の間で、俺は自分自身に言い聞かせるように呟く。

 風呂場の時のように深呼吸して、ざっと周囲を見た。


 円卓よろしく、でっかい円形のテーブルが置かれ、そこに主立った仲間が呼ばれて座している。新顔の二等戦士もいるが、まあ大半はいつものメンバーだ。

 一つ咳払いをした後、俺は「俺が考え、マヤ様の承認を得た」作戦を話した。

 ……予想されたことだが、みんな「それは妙案!」と感心したりはしなかったな。

  まず、正面にいたヨルンが突っ込んだ。


「砦、空っぽにして出ていくのかよ!?」


 ギリアムが顔をしかめたが、ヨルンは相変わらずのタメ口調で唾を飛ばした。

「空っぽじゃないだろ。一応、三十名ほど残すよ」

「今は、俺達の唯一の拠点だぜ? 守備兵が三十名だけって、大丈夫か?」

「……大丈夫とは言えないけど、仕方ない。今は、少しでも人数がいる」

 俺は肩をすくめて見せた。


 空城の計を知らんな? と言おうかと思ったが、この場合は全然意味が違うしな。

「それに、砦を惜しんで、肝心の王都攻略が失敗したら本末転倒だろ? 俺達は、この最初の襲撃を皮切りにして、最終的には帝都マヤを攻略するつもりなんだ。それは逆に言えば」


「――逆に言えば、この砦を死守するつもりはないということだ」


 俺の横に座るマヤ様が、後を引き取った。

 いつもの黒いドレス姿で上機嫌に長い足を組み、覇気に溢れた顔で皆を見渡す。

「ここに固執して、例えば半数ほども守備兵力を残したとしよう。結果、最悪の場合は帝都攻略に失敗し、全員、首を斬られるかもしれない。今は、帝都奪還に全力を挙げるべきであろう……違うか?」

 じっと見つめられ、ぎくんとヨルンの身体が強張った。

 真っ黄色の髪が全部逆立ち、慌てて十回近くも頷く。


「ま、まことに仰る通りです、プリンセス」


 いっそ、清々《すがすが》しいほどのこの変わり身! 

 むう、相変わらずダークプリンセスは恐れられてるな。俺にとっちゃ、怖いよりは可愛い人なんだけど。


「わかればよろしい。――ナオヤ、続けるがよいぞ」

 長い金髪を払い、妖艶な流し目で俺を見やる。

 お陰で、俺までぞくりときたが……この場合はまあ、ヨルンとは別種の「ぞくり」である。


 とにかく、お陰で後の作戦説明は実に簡単に運んだ。ロクに反対意見出なかったし。


予定がズレて、本章のタイトルを変更してます。

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