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風呂


「俺っ? 俺は立場的に、マヤ様に顎で使われる方ですが」


「そう思われるのはご勝手ですが、貴方がマヤ様に大きな影響力を持っていることは、確かなのです。はっきり申し上げれば、今やあのお方の運命を握っていると言ってもいいかもしれませんわ」

 などと驚天動地のことをのたまい、彼女は俺を軽く睨んだ。

「なのに貴方は、そういう影響力を全く理解してらっしゃらない……ある意味ではよいことかもしれませんが、このままではマヤ様が可哀想です」

「ええと、相変わらずよくわかりませんが」

 おろおろと俺は問い返す。


 このピンク髪の人、むちゃくちゃ言ってくれるな、しかし。俺にそんな大層な影響力があるわけないだろうに。

 しかしジャスミンは、俺がまっったくわかってなさそうなのを見ると、眉をひそめた。

 落第寸前の生徒を見る教師みたいな顔で言う。


「では、ずばり告げますが、最近のマヤ様は貴方に依存しておられます。それはわかりやすく言えば好意なのでしょうけど、陛下以外の異性に対してそういう気持ちを持ったことのないマヤ様は、まだご自分の感情を認めていらっしゃいません。ただ――」


「いやいやいや、ちょっとちょっと!」

 俺は焦りまくり、熱弁する彼女を押しとどめた。

「た、確かに最近は出会った頃よりはマシだと思いますが、それにしたって相変わらず俺、あの人におもちゃみたいに扱われてますよ。しょっちゅう捕まって唇やら引っ張られたりするし。痛いんですよ、アレ!」

 思い出して、思わず最後は愚痴になった。

 しかし彼女は理解を示すどころか、いよいよ救いがたい者を見るような目つきをする。


「生まれつきの王女であるマヤ様はともかくとして、庶民の出のくせに鈍い方ですね、貴方は」


「おおうっ」

 い、今、何気にきっついこと言われた気がするぞ。

 むちゃくちゃ傷ついたんだが、ジャスミンは全然気に留める様子もない。


「まあでも、貴方がこの手のことに鈍いのは、本来、わたくしが心配することではありません。しかし、マヤ様が関わっているとなると、そうもいきません。最近のマヤ様は誰よりも貴方の意志を尊重なさいます。疑問があっても、『ナオヤの言うことだから』と、無理に信じようとなさるのです……それは、陛下のことでもそうです。当初は、ひどく心配なさっていたのに」


「うっ」

 これはさすがに心当たりあるし、追い打ちのようにぐさりと来た。

 魔王陛下の安否についちゃ、確かに俺は本心を口にしていない。

 実は俺自身も心配しているのだが、あえてなんでもないように振る舞っている。

「し、しかし……俺が『きっと陛下は大丈夫ですよ』と言ったからって、あのマヤ様がそのまま信じますかね」

「少なくとも、いま平然としてらっしゃるのは、貴方の言葉が大きかったのは事実ですわ。しかもそれだけではなく、最近のマヤ様は貴方の意見となると、かなり危険な策でも実行しようとなさいます。悪く言えば、贔屓目で貴方を見ているのです。……となると、結局は貴方がマヤ様の運命を決めることになりましょう」


 そうかぁ? いやいや、あの方も結構、ガンガン自分の意志を通す方だと思うけどなぁ。

 生来のネガティブ性格のせいか、自分にそんな大層な影響力があるとは思えん。

「わからないのなら、無理に理解してくださいとは言いません。でも、別に政治やいくさごとの話だけではなく、例えば貴方が他の女性と仲良くしているのを見るだけでも、マヤ様にとっては苦痛なんですよ。それだけはわかってください」


 わかってんの、あんた? と言わんばかりの顔で、ジャスミンはまたわざとらしくため息などついてくれた。

 むう……そういや、周囲の女性については、マヤ様に何かと苦情を言われた気が。

 いや、全部、俺は身に覚えのないことだけど。

「とにかく、これだけは常に心に留め置いてください」

 一人で考え込んでいると、ジャスミンが念を押した。

「……貴方はマヤ様の運命をその手に握っているということを。その判断の一つ一つが、全てマヤ様に影響をもたらすということを。わたくしが言いたいことは、それだけですわ」

 ――言いたいだけ言うと、ジャスミンは自分から席を立った。

 俺が慌てて立ち上がると、「お構いなく」と告げ、そのまま部屋を出てしまう。ただ……最後にこう呟いたのが印象的だった。


「わたくしも、マヤ様が普通の女の子だったら、こんなことをわざわざ告げに来ないのですが」


 ――と。

 むう……もしかしてこの人、マヤ様の秘密を知ってるな!?

 もちろん、ただ魔界のプリンセスとしての立場を暗示したのかもしれないが、俺はどうもそうとは思えなかった。




 などと柄にもなく考え込んでいると、今度はノックもナシでいきなりドアが開いた。

 それもババーンッと、とんでもない勢いで。


「ナオヤっ」


「おわっ。な、なんですか!」

 話題のマヤ様がずかずか入ってきて、俺はてきめんに動揺した。タイムリーすぎっ。

 つか、びびるから、足で蹴飛ばしてドア開けるなよとっ。前も覚えがあるが、貴女はいちいち蹴らないと開けられないんですか!

 ……いや、ドアが開いた瞬間、ちょっとスカートの奥が見えたのは嬉しかったけど。


「何をあたふたしているのか? さては、やましいことでもやっていたな?」


 からかうように言うマヤ様は、漆黒のゴスロリ風ドレス着用で、相変わらず(黙ってさえいれば)これほど見栄えのする人もいないだろう。……スカート短いし。

「な、何を馬鹿な……それより、何かありましたか」

「逆だ、ナオヤ」

 マヤ様はあっけらかんと言った。


「お互い、ちょうど暇なようだし、どうだ一緒に風呂に入るのは? ここの風呂は広くてよいぞ。マヤは、この砦で唯一気に入っている。たまには主従一緒もよかろう」


 そりゃまあ、ここの風呂は元々、駐留兵士が入るために馬鹿みたいに広くしてあるからな。

 ……じゃなくて!

 俺はやっと理解が及び、マヤ様をまじまじと見た。

「風呂? お、俺とですか!?」

 亀みたいに首を伸ばし、確認しちまったね。

「は、裸で?」


「……風呂に、服を脱がずに入る馬鹿がどこにいるのだ? おまえはそういう趣味なのか?」 


 マヤ様は不思議そうに尋ねた。



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