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あんたが原因



 複雑な気分だったが、しかし何といっても自分が立てた策なので、マヤ様の決定に異論を唱えるわけにもいかない。

 こうなると、否応なく俺達は帝都マヤを奪還することを考えなければならないだろう。

 ……下手すると、全滅するかもしれないに。


 当たれば儲けものだしなー、くらいの気持ちで始めたことだが、今やこの世界を揺るがすような大事に発展している。

 大昔の孔明とかもこんな気持ちだったんだろうかと思うが……まあ、孔明の場合は全て計算尽くだろうから、俺みたいに「え、マジで上手くいったの!?」とかぶったまげたりはしないんだろうな。

 今更、愚痴ってもしょうがないが。


 こうなれば、四百名の味方をどう動かせば帝都マヤを奪い返せるか……それを考えねばなるまいよ。元の世界じゃ中坊に過ぎない俺には、頭の痛い話だけど。





 ――しかめっ面で考えつつ、俺がマヤ様の部屋を辞して自室に戻ると、入るなり、ミュウが寄ってきて耳打ちしてきた。

「あの……お客様が来てます」

 いや、見ればわかるよ、うん。

 なんせ俺の部屋、寝室と今俺が立ってる大部屋しかないし。


 見れば、実に堅苦しい表情で、ピンク髪の女の子がソファーに座っている。

 魔界は目の色も髪の色も千差万別なので、種族ではなかなか判断できないが、さすがにピンク色の髪は珍しいな……多分、色んな種族が血筋に混じってるんだろう。


 見覚えもあって、黒いメイド服を着込んだ、マヤ様付きのメイドさんである。

 マヤ様の直臣じきしんは現在のところ俺一人だけで、後は全部、こういうメイドさん達が身の回りの世話をしている。そういや、大して口を利いたことはないが、彼女とも何度か挨拶くらいは交わしたことがあった。


 名前も覚えてないものの、メイド仲間にあれこれ指示を出す、中心的な役割をになっている人だったはず。ちなみに彼女達は、いざとなれば身をもってマヤ様を守る役目も兼ねているので、時には武装することもある。

 その、いわばメイド頭みたいなみたいな立場の人が、立ち上がって一礼した。




「突然のご訪問をお許しください、ナオヤ様」


「あ、いえ。……ミュウ、悪いけど、お茶でも」

 言いかけたところが、メイドさんは即座に制した。

「いえ、お構いなく。それと……あの」

 やや言いにくそうに、しかしはっきりと言い切った。


「できれば、お二人だけで内密にお話をさせて頂けませんか」


 この部屋には三人しかいないから、要するにミュウを何とかせーと言いたいわけだ。

 少し迷ったが、ここで喧嘩をする必要もないだろう。俺が後でミュウに内容を教えてあげれば、同じことだ。

「わかりました、じゃあ」

 俺はミュウに目配せしつつ、言葉にはせず口の形だけで「後で教えるし」と合図する。

 彼女にはこれで通じるのでありがたい。

 ミュウは微笑してそのまま部屋を出て行ってくれた。




「それで……ええと、確か貴女は」

 名前を思い出すふりをして見せると、彼女の方から名乗ってくれた。

「マヤ様付きのメイド頭、ジャスミンと申します」

 あ、今この人、「どうせあんた、覚えてないでしょ?」て顔をしたぞ。まあホントに覚えてなかったけど。


 俺達はソファーからいつも俺が食事をる丸テーブルに移り、お互いに不景気な顔を見せ合っている。とはいえ、このジャスミンは見るからに綺麗な女の子で、メイド頭という割には、十七~十八歳くらいにしか見えない。それでも俺より年上なわけだけど。


 どちらかというと細身の妖精みたいにはかない雰囲気の人だった。 

 ……ただし、エルザと同じく目つきがきっついので、全然か弱く見えないけどな。ピンク髪はおかっぱみたいな髪型で、文句ナシに可愛いのに。


「お話するのは初めてだと思いますけど、何か俺にご用件でも」

 微妙に見つめられるのがプレッシャーで、俺は恐る恐るお伺いなどしてみる。

 普通、特等戦士の俺と身の回りをするメイドとでは、身分的に天地の差があるはずだが、何といっても相手はマヤ様付きのメイドさん……しかもメイド頭である。

 

 彼女の気分次第では、いつマヤ様に「あいつ、ナメた発言してましたよ!」と告げ口されるかもしれないし。

 俺は今も昔も、美人は徹底的に疑うことにしているのだ。

 しかし、ジャスミンは俺が訊いた途端、眉根を寄せて考え込み、なかなか切り出そうとしない。辛抱強く一分ほど待つと、ようやく口火を切った。


「実は……お気付きかもしれませんが、最近、マヤ様の様子がおかしいのです」


「えっ」

 意外なことを言われ、逆に俺の方がびっくりした。

 いつ会っても全然元気そうだし、相変わらず俺の三倍くらい食べるし、全然問題なさそうに見えるけど。

 俺がそう言うと、ジャスミンはあからさまにため息をついてくれた。

「それは……ナオヤ様の前ではそうでしょうけど。このところ、ご自分の部屋にいる時のマヤ様は、がらりと様子が変わるのですわ」


「それは、もしかして魔王陛下のことでしょうか」

 さすがに察したつもりだったが、これも外れた。

「いいえ、違います。マヤ様は陛下に万一のことがあったなどとは、夢にも考えておられませんわ」

 そうか……それだけあのお方を信じているってことだろうな。

 確かに魔王陛下はそう思われて当然なほど、強い方だし。


「となると、ちょっと俺には見当がつきません」

 白旗を揚げると、ジャスミンは重々しく告げた。

「では申し上げますが」

「はいはい」

 ぐっと身を乗り出した俺を、ジャスミンの黒い瞳がじっと見据える。



「――原因は、貴方ですわ」



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