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疑惑

 



 さて、エルザなどに策の「仕込み」を頼んだ次は、戦士長カシムの番だった。


 俺個人としては、なんとなくあの人は憎めないのだが、無論、向こうは俺に対して全然違う意見を持ってるだろうな。

 なにせ、やむを得なかったとはいえ、骨折させちゃったし。


 カシムは砦の地下にある、捕虜収容専門の牢獄に繋いであるのだが、俺はわざと一人でそこを訪れた。別に深い意味はないが、いつもミュウについててもらうのもなと。

 牢獄を管理している二等戦士が俺を見て驚き、「お一人であの猛将と面会ですかっ!?」とか素っ頓狂な声を上げたが……いちいち脅かすなよ。


 ま、まあ大丈夫だろうさ、相手は丸腰の怪我人だし。

 牢の鍵を開けてもらうと、俺は錆びて音が鳴る入り口を開け、牢の中に入る。

 カシムは奥に据えられたベンチに一人で座っており、一応、魔法使いの誰かが手当したのか、具合はだいぶ良さそうだった。


 ただし、もちろん俺を見ても愛想の良さなど欠片も見せず、「ふんっ」と鼻息も荒く睨みつけただけである。とはいえ、最初みたいにいきなり罵倒ばとうしないだけ、マシだろう。




「どうもどうも……調子はどうです?」

 座るトコがないので、やむなく俺は鉄格子を背にしたまま、立って述べた。


「そのうち、帝都の味方がこの砦を落としに来るはずだ。それまでの辛抱と思えば、どうということはない」


 俺はつくづく、傷だらけのたくましい顔を見て首を傾げた。

「なんだ、何か文句でもあるのか」

「いえ……貴方はどう見ても生粋きっすいの戦士に見えるのに、よくリューゲルなんかと組んでるなぁと。全然、合わないように見えますけどねぇ。あと、マヤ様のいとこであるファルシオン伯とやらも、ギリアムに聞く限りでは戦士肌の人じゃないそうですし。なんでまた、そっちについてるんです」


「わしは魔王が嫌いだからだ!」


 魔界の者なら誰もが畏怖を持って呼ぶあの方を、このオヤジはまた、憎々しげに言い捨ててくれた。

「幾ら下っ端とはいえ、実際の戦場で戦う戦士の諫言かんげんに全く耳を貸さぬようでは、先は見えとるわい」

 この上なくはっきり言い切り、べっと唾を吐く。

 ……なかなか熱い人だったが、しかしあれ? なんかその印象、俺が魔王陛下と話した感じと全然一致しないな。つか、そもそもこの人自体が、ネージュ曰く、「尊大ぶった嫌なヤツ」とか評してた気が。

 俺がそれを指摘すると、カシムはそれこそ真っ赤になって怒った。


「わ、わしが尊大だと!? 自分の魔法をいつも鼻にかけるあの女エルフこそ、わしに言わせれば尊大だっ。魔法が使えないだけで、人をゴミのように見るヤツだぞ」


 ……ドウドウ、そう怒るなよ、オヤジさん。血圧上がるよ。

 俺は苦笑してしまった。

「なるほど、確かにネージュさんには、魔法を使える者を特別視するところがあるかもしれないですね。実際、特別なんでしょうけど。でもその割に魔界じゃ不遇だったから、彼女の不満もわかりますよ」

「……わしは別に、魔法使いは女がやるものだ、などと思ったことはないわい。そう思う者は多いが、わしはそこまで浅薄ではないぞ」

 むすっとカシムが返す。

「ふむふむ……では、魔王陛下に対してのその感情は? 俺が話した感じでは、陛下は割と人の意見をれてくださる方ですよ~。現に俺、何度か意見とか言ったし」


「ば、馬鹿な! そんなはずはないっ。わしは上官を通じて、何度も魔王に進言をしているぞ。奴隷達のひどい扱いや、今の不利な戦局を打開するための戦術など、進言は多かった。しかし全て却下されたし、会おうともせぬ。一つ二つならともかく、全てだぞ! わしを軽んじておるっ」


 握ったごつい拳をぷるぷる震わせ、カシムは吐き捨てた。

 つくづく熱い人らしく、思い出すだけで腹が立つらしい……しかし……なんかちょっと引っかかったな? あ、そうか。

「カシムさん、今『上官を通じて』と言いましたね? 直接、進言したわけじゃない?」

「おまえは何を言っておるのだ」

 むしろ哀れむように、カシムは俺を見上げた。

「魔王といえば、魔界の神にも等しい立場だったのだぞ。そんな存在に、戦士長ごときが気安く直接会えるものか。むしろ、上官を通じて進言できるだけ、まだわしは恵まれている方だ」

「へぇえええ。やっぱり俺、その点じゃ幸運だったんですねぇ」

 まあ、相手は魔王だしな……誰でもホイホイ会えるわけないのは当然か。

 いやぁ、それを思えば、俺はホントに運が良かったな。もちろん、これもマヤ様の直臣だったお陰だけど。


「でも、ネージュさんなんか、直接、陛下に相談したりしてたみたいですよ?」

「それは、あの女が厚かましいからだっ。本来、やってはいけないことだ!」

 文字通り、カシムは吠えた。


「上下のけじめがなくなれば、軍など容易く崩壊する。やっていいことと悪いことのけじめは歴然とあるのだぞ。あの女は、その秩序を軽視しておるわ。言いたいことがあれば上官を通じて述べ、それがれられずに不満だというなら、このわしのように魔王を見限る他はない。それが戦士たる者のやり方だろう」


「なるほど……ギリアムと気が合いそうですね、貴方は」

 俺は感心して頷いた。

 秩序を重視するという点では、ギリアムに似てるな、この人。あと、最初の印象よりも真っ直ぐというか、むしろ直線的な人らしい。

「ちなみに、どうせ俺は知らないでしょうけど、カシムさんの進言を中継した上官って誰です?」


「戦士将、グレイル様だ」


 胸を張って述べたカシムを見返し、俺は顔をしかめた。

 その名前、どっかで――て、あのセクハラ戦士将かい!

 俺は、ルクレシオン帝国のジェイル王子とセシール王女を横取りして押し倒そうとしていたおっさんを思い出し、顔をしかめた。


 よりにもよって、あの樽おっさんかよーーーっ!!


「魔王めは、あれほどわしによくしてくれたグレイル様にも、冷たかった」

 憤懣ふんまんやるかたない声で、カシムは言う。

「決起したのは、もちろんその復讐もある」

「……さらに訊きますけど、では戦士将グレイルは、貴方を丁重に扱ってました?」

「おうっ。他の者はよく怒鳴りつけられることもあったそうだが、わしには常に礼儀正しく振る舞ってくださったぞ。『戦場ではお主が頼りだ』といつも仰っていた。いくさに出れば、常に先陣をたまわっていたくらいだ」

「う~ん」


 すぐに答えずに、俺は一人で唸った。

 それって……言いたくないが、「こいつ、いくさ馬鹿で戦場では役に立つし、おだててこき使ってやるか」という理由じゃないのかねぇ。



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