明日のために、今日の(以下略)
「利用? あんな役立たずを、どう利用する?」
ずばり尋ねるマヤ様に、俺は自分の考えをざっと説明した。
まあ上手く運ぶかどうかは未知数だったけど、この世界じゃ策謀を使うヤツも少ないみたいだし、ひょっとすれば引っかかるかもしれない……運がよければ。
それはいいが、説明するうちにみんなが――文字通り、マヤ様を含めた仲間のみんなが、極悪人を見るような目で俺をしげしげと見るのが参ったな。
「ふむぅ……なかなかあくどいな、ナオヤは」
どこか引っかかる言い方でもって、マヤ様は俺を見つめる。
一応、感心してくれてるようだが、なんかその言い方は嫌だなっ。
しかし、あいにく反応としては、マヤ様はまだマシな方だった!
「ナオヤ君は、悪い人だったのねぇ~」
とネージュが呟いたのを皮切りに、ヨルンも「ワルだ、今俺はモノホンのワルを見たっ」とか首を振っている。おまけにギリアムまで、「それは悪辣すぎませんか?」なんて言う始末で。
えー、この程度で悪辣って……この世界の人、みんな素直過ぎるだろ。
というより、根は正直なヤツが多いのか。
残酷なことをする時には、結構ためらわずにやるくせになー。
「いや、この程度は俺のいた世界じゃ、全然マシな策で……もっとひどい手を使う軍人も大勢いたはずですよ」
「例えば?」
ネージュが興味津々で尋ねる。
話が逸れてアレだが、訊かれたのでやむなく答えた。
「例えば……そうですねぇ? 今回と全然ケースが違うけど――例えば戦争したい大国が、自国の国民を自分達でザクザク惨殺しておいて、知らぬ顔で敵国がやったことにして、うまうまと開戦の口実にするとか」
「それはひどい! ひどいではないか、ナオヤっ」
マヤ様がいきなり憤然と言い、他の面々も口々に非難した。
「あくどい、あくどすぎるわっ」
「ナオヤ、おまえってとんでもねーヤツだったのなぁ」
「さすがにこれは、諫言せざるを得ませんぞ!」
「いや、俺がそんな策を採ったわけじゃないよ! 俺、ただの学生だったしっ。あくまでも、歴史上にそんな国もあったとかなかったとか!?」
慌てて手を振りまくることになった。
いつの間に、俺が悪者になってんだよ!
しかし、相変わらず皆がしんねりと睨むので、これ以上は返って逆効果かもしれない。
「ああもうっ。いいよ、どうせ俺はワルだよ。もうワルでいいさ、ワルで」
ヤケクソで喚き、マヤ様を見た。
「で、どうします? この策を試してみますか?」
「試してもいいが」
マヤ様は、珍しく迷う様子で俺を見返す。
「もしも、ナオヤの策が狙い通りに運んだらどうする? それはそれで危険ではないか? それにマヤは、父上の状況も気になる」
「魔王陛下については、どのみち今は魔界には不在でしょう。どんな理由があって姿を隠しているにせよ、今現在は帝都マヤを出ているかと思います」
俺は苦しい言い訳をして、ささっと話を変えた。
「で、策を実行した場合の弊害ですが……もちろん、マヤ様が心配するような危険はあります」
素直に頷く。
実際、この作戦は下手するとヤバい方へ転がる。
「しかしどのみち、帝国側とは交戦状態ですし、事態がこれ以上悪くなることはない……と思うんですが」
「そう……だな。それに残念ながら、今のマヤ達が不利なことは事実であろう。父上がいずれは全てを解決にするにしても、今はマヤ達がどうにかするしかない」
マヤ様が呟くように言う。
あ、さすがにご自分の状況はわかってらっしゃる? でも、この方は魔王陛下の死亡の可能性は、ほぼ考えてないようだ。今は帝都に不在って俺の与太を、簡単に信じたしな。
まあ俺だって、「本当にそうだといい」と思って言ったんだけど。
「じゃあ――」
早速にもと言いかけた俺は、近付いてきた二等戦士を見て、口を噤んだ。
相手は、リューゲルとカシムが率いてた軍勢の戦士だったが、すっかりマヤ様に呑まれているらしく、恭しい態度でまずマヤ様に一礼し、次に俺に低頭した。
「お話中、失礼します。ナオヤ様が先程放っていた斥候とやらが戻りました。どうやら、新たな軍勢が急速にこちらへ接近してくるようです」
「おっと!」
ここは帝都に近いだけに、気づかれたらしい。あるいは、最初から他の軍勢を放っていたか。
俺は彼に、「急いで出立の準備を」と命じ、マヤ様を見る。
「あいにく、敵の方が時間をくれそうにありません。しかし、逆にこれはチャンスかもしれない。もしも許可してくださるなら、さっきの策を試すよい機会かもしれませんよ」
「そうか、そうだな。まさに絶好のチャンスであろう」
マヤ様も納得したように頷いた。
「しかし、そうすると……我らは一旦、退くことになるわけか?」
察しのよいところを見せるマヤ様である。
ただ、顔つきは不満そうだったが。
それはまあ、覇気溢れる魔王の一人娘――ダークプリンセスともあろう者が、一時的にでも撤退などするのは、抵抗があるのだろう。
「はい」
俺は何度も頷き、あえてマヤ様に近付き、耳元で囁く。
「マヤ様」
「どうした? 遠慮はいらぬ。進言を聞こう」
有用な進言だと勘違いしたのか、マヤ様も声を潜める。
「では、お言葉に甘えまして。俺の故国には、実はこういう時に相応しい言葉があります。――明日のために、今日の屈辱に耐えよと!」
古いアニメで聞いたセリフを、ここぞとばかりに吹き込む。
なに、少なくともネタ元がマヤ様にバレる気遣いはない!
「……なるほど!」
おおっ、なんでも言ってみるもんだな!
マヤ様、すっきりした表情になったやんっ。
「最終的な勝利のためには、一時の後退など気にするなということだな?」
「そう、そういうことですっ。では、早速――」
マヤ様の気分が変わらないうちに、俺は皆に申し渡した。
今は、さっさと逃げるに限る。
「みんな逃げ――じゃなくて、後退するぞ!」
途中でマヤ様に睨まれ、俺は慌てて言い直した。




