金色戦士
俺が焦りまくって刀を構え直そうとしたその時――
「全員、動くでないっ!!」
聞き覚えありまくりの声がした……しかも、上空から。
上を見て、俺は驚いたね!
なんと、マヤ様がくびれたウエストに片手を当て、颯爽と立っていた。いや、皆が注目した途端、すぐに支えを失ったみたいに落ちてきたけどな。
多分……注目してもらうために、わざわざ自前の力を使って無理したな?
それにしても、この格好はどうだ!
白いマント姿なのはともかく、その下に着てるのが黄金色に輝く鎧なのだ。つっても、本当に要所要所しかカバーしてない、例のビキニ鎧みたいなタイプだけど。
貴女は、色気に走ったゴールドセイントかと。
……いや、俺は見とれてるけどな。
長身でスタイルいいと、どんな格好しても映えるよなー。
「いやいや、そうじゃなくてっ」
俺は慌てて首を振った。
呆けてる場合じゃないよ!
「ど、どうしたんですかっ。留守番のはずでしょうに」
つか、俺が「留守居でお願いします」と言った時は、二つ返事で頷いたやん!
「そう思ったが、気が変わった」
ふふんと鼻で笑い、マヤ様はマントを裁いて俺の横に立つ。
横目で見て、囁いてきた。
「せっかくだから、ナオヤが戦うところを見てやろうと思ったのだ。……ナオヤも嬉しかろう? マヤに自分の活躍を見てもらえて」
――で、でたよ、今考えたような適当な理由!
悪いが俺は騙されん。この人、最初から戦闘に参加するつもりだったな? でもすぐそう言うと俺が反対するから、馬でも駆って、黙ってついてきたのだ……そうに決まってる。
「あのですねぇ」
「いいから、ここはマヤに任せておくがよい、ナオヤ」
そっと肩に手を置き、俺の耳元で囁く。
おい、息を吹きかけるのをやめてくれ……どこで覚えたんですか、そんなの。
「皆の者、聞けっ」
ポカンと遠巻きにこちらを見つめる、奴隷戦士や兵士達に叫ぶ。
「倒された大馬鹿者のカシムに何を吹き込まれたのか知らぬが、マヤの直臣のナオヤに剣を向けるということは、このマヤに剣を向けるのと同じことだぞ。おまえ達にその覚悟があるのかっ」
爛々《らんらん》と輝く瞳で、ぐるりと周囲を見渡す。
この挑戦的なセリフと視線の威力がまた強力で、まだマヤ様は一歩も動いてないのに、ざざっと数メートルも敵兵が退いたほどだ。
つか、ギリアムを初めとする俺の配下達まで退いてるしっ。まさにドン引きだな。
とはいえ、もちろん簡単に折れない人もいた。
「待て、怯むなおまえ達っ!」
少し後ろの方で、誰かが叫ぶ。
「今や、そこにいる女は敵だぞっ。倒せば恩賞は思いのままだっ」
さっきのカシムのようなことを述べたが、あいにく、今度ばかりは効果が薄かった。なにしろ、目の前にマヤ様本人がいるのだ。
「ほぉおお? 誰だか知らぬが、公然とマヤに反旗を翻すか? よい度胸ではないか」
嘘みたいに鮮やかな色をした舌が、上唇をなぞる。
切れ長の瞳が、みるみる真紅に染まっていくのがわかった。
「だが、味方の後ろで吠えるのは頂けないぞ。せめてこのナオヤのように、最前線で同じことを言ってみるがよい!」
長い金髪を払い、ぎらっと声のした方を睨む。
「それとも臆したか、腰抜けめっ」
あ、声が沈黙しちゃいました。気持ちはわかるけどな。
……ところが、周囲がそれを許さなかったらしい。マヤ様が睨んだ方の兵士達が、あわててその場から逃れ、たちまちモーゼが海を割ったみたいに、視界が開けた。
「うおっ」
でもって、そこには一人だけ取り残された重装備の鎧男がポツンといた。レザーアーマーがデフォの魔界戦士で、金属の鎧を着てるって珍しい。
慌てて自分も逃げようとしたものの、兵士の誰かが後ろから蹴りを入れて、倒しちまった。
「な、何をするかっ」
跳ね起きる前に、俺が命じた。
「ボンゴぉ、おーい、いるか?」
「い、いるよぅ、あにぎぃ!」
嬉しそうに遠くから手を振る。姿が見えないと思ったら、ギリアム達より離れたトコにいやがった。
あいつ、最近は階級が上がった俺に遠慮して、そばに寄ってこなくなったなぁ。
「悪いけど、あの鎧のおっさんを連れてきて」
「う、うんうんっ」
ボンゴが嬉しそうにドスドスと駆け、鎧おっさんのところへ行く。何とか起き上がったおっさんはまた逃げようとしてたんだが、ボンゴが首根っこを掴んで引きずってきた。
「き、貴様、獣人の分際で、何をするかっ。わしを誰だと思うか!」
「おで、シラネ。あにぎの命令が優先だあ」
忠実なボンゴは無視して引きずり、俺とマヤ様の前に、おっさんを乱暴に投げ出した。
「ほぉ……これはこれは」
マヤ様が唇に笑みを刻み、鎧のおっさんを見下ろす。
「誰かと思えば、使えない我がいとこ殿の家臣ではないか。あまりにどうでもよいので、マヤはもはや名前も忘れたが……くくく」
この笑い方、俺は前にも見たことがあるぞ……そう、本気で怒ってる時の、マヤ様のパターンの一つだ。これはこれで、後が怖いわけで。
蒼白になったおっさんに、俺は同情しちまったね。




