罠、しかし――
決然と頷き合い、俺達は森から出て、篝火が差さない方から接近していった。
とはいえ、ここからは遮るものも少ない平地なんで、ある程度接近すれば誰かに見つかるのは当然である。
俺達がひたひたと迫るのを見て、運悪くその近くで巡回していた兵士が立ち止まった。
「……大勢いるようだが、なにか予定でも?」
「ああ、帝都からの援軍だよ」
打ち合わせ通り、ヨルンが陽気に手を上げる。
「念のため、俺達も合流しろってさ」
「妙だな。俺は特に何も聞いてないがなぁ」
まさかここまで堂々と近付くヤツがいるとは思わなかったのか、相手はかなり本気にしたらしく、首を傾げていた。
そりゃまあ、別に声を上げるでもなく走るでもなく、普通に歩いてぞろぞろ来てるんだしな……敵だとは思いにくいだろう。
レザーアーマーばっかの兵士も、完全に魔族軍の特徴だし。
「あれぇ、おかしいな? 俺達、連絡がいってるものとばかり」
ヨルンが白々しく言う間に、ギリアムが横から飛びかかり、巡回兵の後頭部を剣の鞘でどやしつけた。
「げぐっ」みたいな声を上げて、くたっと相手が倒れる。
それを音がしないように受け止めると、ギリアムは手際よくその辺に寝かせてやった。
「そうそう」
俺は声を潜めて囁く。
「その調子で、もうどうしようもないところまで堂々と歩いて行こう。案外、近くまで行けそうな気もするし」
ヨルンとギリアムは頷き、また先頭に立って歩いていく。
そのすぐ後ろに俺が続き、さらに後ろにはネージュがいる。
「いざという時は、魔法で頼みます」
「了解よ」
ネージュもひそひそと答えた。
「打ち合わせた通りの戦法ね? 任せて」
お茶目なエルフは自信満々で頷く。まあ……留守番に置いて来たエルザよりは、この人の方が腕は確かなはずだ。
しかし……それにしても、やたらと抵抗なく進めるな。
俺は神経質に周囲に目を配る。
こいつら、総勢で二百人ほどいるわけだが、そのうち一人や二人くらいはまだ起きてるヤツがいて、こっちを見てもいいと思うんだが。
なのにこいつらは全員、俺達の方なんか見向きもせず、横になった位置で眠りこけている。
「ナオヤさん」
なぜか追いついてきたミュウが、囁いた。
「どうした?」
「妙です……この人達全員、人間の就寝時平均より、呼吸数が早いです。あと、心拍数も平均以上の数ですわ」
「げっ」
疑っていたところに、これは駄目押しだった。
しかも、足下に近いヤツを見ると、ひそかに剣に手がかかってる!?
「罠だ! 全員、本陣へ走れえぇええええっ」
俺は、文字通り大声で叫んだ。
もはや隠す気も失せ、魔法付与の刀を抜き、ギリアム達の前へ出る。
途端に――どっと周囲で喊声が湧き起こった。
「気付かれたぞおっ」
「皆、かかれえ!」
だみ声があちこちでしたかと思うと、いきなり周囲で寝こけていたヤツらが立ち上がり、ざざっと俺達を円形に囲んだ――いや、囲もうとした。
しかしその瞬間、俺は対抗するように叫ぶ。
「ネージュ、今だあっ」
「了解! 魔法使いの優位性を知りなさいっ。サンダーストリーム!」
言下に、ネージュがずっとスタンバイ中だった雷系の上位魔法が炸裂した。彼女が両手を広げた途端、周囲を囲もうとしたヤツらに向かい、青白い雷光が津波のごとく押し寄せる。
剣を抜き、歯を剥き出して向かってきていたヤツらは、その雷光に見事に迎撃され、ばたばたと倒れていった。
「だわっ」
「でぇえええっ」
微妙に手加減を頼んだから死んだとは思わないが……しかし、当分は動けないかもな、あれ。なんせ、失禁してるヤツが多いし。
そして無論俺は、奇襲部隊の先頭を切って本陣に向かってダッシュしていた。
陣のど真ん中に入っちまった以上、もはや後戻りもできない。可能性があるとしたら、ネージュの魔法で隙ができた、このチャンスをものにするしかない。
さもないと、奇襲部隊百名、ことごとく討ち死にするか捕まって縛り首になるかだ。
「どけぇーーーっ!」
日頃は絶対に使わない怒声を振り絞り、俺はふらふらと迫る連中を容赦なく斬っていた。いつの間にかそばにはミュウがいて、俺が撃ち洩らした連中を片付けてくれた。
「ナオヤさんの邪魔はさせないっ」
斬りかかった剣を無造作に腕で止め、そしてぬいぐるみみたいに持ち上げてぶん投げる。単純だが、ターミネーターを止められる普通人がいないのと同じで、誰も対抗できない。
悲鳴を上げて投げられ、運がよければ味方の誰かがクッションになるし、悪ければ地面に叩き付けられていた。
いつもながら、有能すぎるぞ、この子!
そして……一時は肝が冷えたが、この部隊の戦士長とやらが好戦的で、そこだけは助かったようだ。
というのも、こっちが駆けつける前に、向こうから突進してきてくれたらしい。
「成り上がりの小僧がぁああっ。戦士長カシム、参るっ。わしが直々に頭を潰してくれるわ!」
顔中が傷だらけの押し出しのいい男が、長剣を振り上げて駆けてくる。
ミュウが出ようとしたが、俺は手で押し止めた。
「いや、これは俺の仕事だよっ」
言い置くと、真紅に輝く刀を手に、俺もカシムに突っ込んで行った。
「貴方には不敬罪の疑いがありますよっ」
「笑わせるな!」
唾を飛ばして一蹴された。
やっぱり、これで納得して諦めるわけないか。まあ、そうだろうな。
「ならば、やむを得ないっ。ダークプリンセスが直臣、ナオヤ・マツウラ! 主君の命にて、貴方を拘束させて頂く!!」




