暗雲が立ち籠める
縛り上げられて引っ張ってこられた二人組は、部屋の中を見て真っ青になっていた。
まあ……相棒が血の海の真ん中で真っ二つになってたら、そりゃ驚くだろうな。
ちなみに、まだ片付けてないのはわざとである。
この光景を見れば、さすがに素直になってくれるんじゃないかと。
「いやぁ……ご覧の通りなわけで」
俺はあえてにこやかに告げてやった。
一応、こいつらも副使として裾の長い上着を纏ったいわゆるスーツ姿ではあったが、どうせ中身は元奴隷とかだろう。
「素直に話してくれるなら、俺からマヤ様にお願いして、相棒の後は追わずに済むようにするけど? あ、嫌ならそれでもいいよ。その代わり、肉片が増えるけど」
『は、話します話します、話しますっ』
……器用にもコミックバンドみたいに声を合わせた二人に、俺は優しく頷く。
そういや、身長的にも大柄な方と小柄な方で、実にわかりやすい。メリハリが利いてる。
「それは嬉しい。じゃあ……まず、なんでこの縦割りになった人がダークプリンセスを殺そうとしたのか、まずその辺りの事情からよろしく」
「そ、その死んだヤツは元々、ルクレシオン帝国の兵士で、去年、魔界領内でダークプリンセスの部隊に捕まったんでさ。まあ、それは俺達も同じですが」
ガタガタ震えている大柄な方に代わり、小柄な男が白状した。
「戦闘中に戦友が殺されたのを恨んでいた上、捕まったせいで奴隷にされちまったわけで……その経歴に目を付けた魔界の偉い人が、今回の任務に選んだわけです。ただ、俺達が聞いた話じゃ、暗殺はいざという時の非常の手段で、本来は魔王陛下の口上のみを伝えるのが目的だったはずです」
「そ、そうそうっ」
今度は大柄な方が、震えながら頷く。
しきりにマヤ様の方を気にしているのは、不機嫌に睨むあのお方が、いつ飛びかかってくるかと、怯えているからだろう。
「お、俺達、暗殺なんて全然考えてなかったっす! そいつと違って、マヤ様に恨みなんかないですし。この任務を果たせば、奴隷から解放して大金もやるって、そう言われたんで。前金もらったから、つい信用する気になっちまって」
「ヨルン」
デコボコ二人組を無視して、俺はヨルンに訊いた。
「死んだヤツに見覚えがあったそうだけど、この人達の話ってホントかな?」
「まあ……確かに捕虜として連れてこられてたよ。そういやその直後に、死んだヤツ含めて、三名ほど戦士長が連れて行ったな。それこそ、かっさらうような勢いだった。言われてみりゃ、その二人も見覚えある」
ヨルンは頭をぽりぽり掻き、胡散臭そうに二人組を眺めていた。
「戦士長の方は、俺は見てないと思ったのかも。実際、俺もたまたま出荷場に来たのを見ただけで、いちいち全部の奴隷なんか覚えてないし。死んだそいつが、一晩中反抗的に怒鳴ってなきゃ、見ててさえ忘れてたさ」
「となると、このような時に使うため、あえて他の奴隷から隔離していた?」
ギリアムが呟くと、小柄な方が嬉しそうに言った。
「おそらくそうだと思います。だって俺達、その後はほぼ一年、閉じ込められてただけですから」
「ふぅん……まあ、いいや。じゃあ、ここからが本題だけど」
俺はあっさり話を変え、縛られている二人を見据える。
「関係者で名前がわかるヤツは、後で全員教えてもらうとして……魔界で何があったのかな? あんたらだってわかるだろうけど、これはどう考えても普通じゃ有り得ない話だ。単なる誰かの裏切りなのか、それとも――」
「俺達にも、はっきりしたことはわからないんです、旦那」
ようやく落ち着いてきた大柄な方が、困ったように言う。
誰が旦那だよと思ったが、俺は我慢して促してあげた。
「何か思いだした方がよくない? さもないと、マヤ様の二つ割りがまた見られちゃうよ」
「ま、まま待って待って、待ってください」
彼はたちまち態度を改め、口角泡を飛ばす勢いで捲し立てた。
体格の割に彼が一番、メンタルが弱そうである。
「俺達ゃ何も聞かされてないけど、偽の使者として送り出される前に、色々命令してきた人が部下の人達と話すのは聞きました。も、洩れ聞いたところじゃ、『魔界内を掌握した以上、あと問題はダークプリンセスだけだな』なんて言ってましたぜ」
「貴様、なにを言うか!」
マヤ様がぎらっと男を睨んだ。
「ひぃいいいっ」
「我が父上が治める魔界に対して、なんという言い草かっ」
「お、俺じゃありません、俺じゃありませんっ。言ったのは俺じゃっ」
ずいっと進み出たマヤ様の剣幕に、俺は慌てて前を塞いだ。
「お待ちを……まだ話の途中ですし、それに盗み聞きの内容についちゃ、確かに彼らに罪はないですよ」
俺まで睨まれたけど、さすがに今、殺戮スイッチオンは困る。
「わかった……ナオヤに任せる」
一応、不満そうな顔つきながら、マヤ様は怒りを収めてくれた。
「助かります」
ああ、危なかった。この方の場合、放置するとホントに二つ割りにするからな。
関係ないけど、最近のこの方は、俺を上目遣いで見られることが多いな。
「ありがてぇ、旦那様っ」
「全くですっ」
「……その呼び方、やめて」
二人組に顔をしかめてやり、俺はさらに促す。
「他には? 他にもそんな妙なセリフを盗み聞きしてない? なんでもいいんだ」
「あ、あの……これは関係ないかもですが」
小柄な方がおずおずと俺を見る。
「いいから言ってみようよ。判断はこっちでするから」
「は、はい。……なんか、その偉い人は妙なことも口走ってました。『ついに呼び出す手段が見つかったのは喜ばしい』とか。……いえ、それが誰のことか、俺達には全然わかりませんが」
「――! うわあっ」
いきなり俺が喚いたせいで、デコボコ二人組を含め、全員がこっちを見た。
しかし、構ってる暇なんかない。
いや……これはまさかと思いたいが……しかし、嫌な状況に嫌なキーワードだ、これが偶然だと考えるのは、ちょっと無理がないか?
割符だって、こいつらはちゃんと持たされていたわけで。
もしも俺の危惧が当たってたら、魔王陛下はもはや――
「これ、ナオヤ」
マヤ様に呼ばれ、俺は我に返った。
見れば、マヤ様は心配そうに俺を眺めていた。
「どうしたのだ? おまえらしくもなく、顔が真っ青だぞ」
「いえ……なんでもありませんよ、なんでも」
俺は無理して笑い、首を振った。
ま、まだ……確定したわけじゃないさ、うん。




