表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/317

一瞬のできごと




「ええと。俺、確かちゃんとガードに入りましたよね?」


 知らぬ間に攻撃でも受けたのかと思い、訊いてみる。

 途端に、マヤ様はよけいにくしゃっと顔を歪め……あたふたと無人の部屋を見渡している俺に、抱き付いてきた。そう、抱き付いてきたわけだ!


 正直、ええっ!? と思ったな。


 投げ飛ばされる前兆かと勘違いして、身構えそうになったほどで……しかし、そういう斜め方向の攻撃ではなく、本当に首筋に手を回して抱き付いている。

 これは抱擁ほうよう以外の何物でもない。

 あと、なぜかちょっと身体が震えていた。

「……あの」





「ナオヤは死んではいけないのだぞ。このマヤが死を許さない」


 いきなり囁かれ、俺は焦った。

「え? あ、はい。俺も、今はそう望んでいます」

 いやホントに。

 あと、この方の香りに包まれまくるわ、胸はばっちり当たっているわで、俺は早くも鼓動が激しくなっていた。

 使者と会うので、今は部屋着じゃなくていつもの薄いゴスロリ衣装だが、抱き付かれるとむちゃくちゃ感触が伝わるなっ……当たり前か。


「ナオヤはマヤのそばにずっといて、マヤを補佐して見守らないといけない……マヤが遙かな未来に、この世を去るまでだ。それがナオヤの任務なのだぞ? ちゃんとわかっているの?」


「あ、はい」

 つか、いま何気に、最後の部分が女の子言葉になってなかったか? 気のせいだと思うが。

 それと、こう言っちゃなんだが、俺とマヤ様とでは寿命が大幅に違うわけで、この方の死を看取るのはさすがに不可能の気がする。

 今ここでそれを指摘するほど、俺も馬鹿ではないけど。

 ……それより、まさかこれって。



「あのぉ……もしかして、俺の怪我を心配してくださいましたか」


 小さい声で尋ねた途端、抱き付く力に途方もない力が加わった。

 プロレスラーのベアハッグだって、ここまで骨が軋まないと思う。ヤバい、これは本気でヤバい。骨が折れる、骨がっ。

「――死ぬ、死にますって!」

 たまらず訴えたが、低い声で言い返された。


「たった今、ナオヤをマヤの腕の中で殺したくなったっ」


 マヤ様が耳元で囁く。

「これほどマヤを心配させておいて、それも知らずにいたとは。ナオヤはどこまで鈍感な男なのだっ」

「す、すいませんっ。でも大したことないです、はい。もう治ったし!」

 でも今、自分は新たな怪我をしそうでありますっ。しかも、こっちの方がダメージはデカい気がしますっ。

 必死で訴えたのが功を奏したのか、やっと少し力を緩めてもらえた。ったく、この細腕で、何という剛力なのか、この方は。

「ふう……し、死ぬかと思いました」


 脂汗が流れ、俺は心底ほっとして息を吐く。

 しかし、間近で泣き濡れた真紅の瞳に覗き込まれ、また顔が強張ったね! 瞳の色が濃いままなのは、まだ危険信号だからな。

 関係ないけど、こうして見ると、やっぱり俺の方がちょっとだけ目線が高いな。それともどっかで身長を追い越したのか。


「……もっと強くなり、余計な怪我などしないように」


「はい」

 俺は慌てて頷く。

「特に、マヤの前であんな風に心配をかけないようにせよ」

「は、はい……それはもう」

 実際、情けなかったのも本当なので、俺はこれに関しては素直に頷けた。

「それから――」

 そこで口籠もったので、俺は小さく促してやる。

「はいはい、聞いてますよ」

「そ、それから」

 マヤ様はわずかに頬を染め、囁いた。


「……さっきは、マヤをかばってくれて嬉しかった」


 一瞬、さっと口づけし、すぐに離れてしまう。

 それはもう、きっぱりと。

 逆に、今度は俺の方が棒立ちになって、魂抜かれちまった。

 えー……い、今のってキス? いや、感触なんか千分の一秒もなかった気がするが、それでも柔らかい唇が当たった気がする、絶対する。




「ナオヤ様っ」


 いきなり呼ばれたらしいが、俺はまだ今のが幻想か否かについて考え込んでいて、ちゃんと聞いてなかった。

 途端に、マヤ様が近付いて、背中をどやしつけてきた。


「ナオヤっ。ぼーっとするでない! ギリアムが戻ったぞっ」


「どわっ」

 足が宙に浮き、俺は二メートルも飛ばされて床に這っちまった。相変わらず加減を知らないなぁ、この人は! 背中も痛いんだよっ。

 さすがに文句を言おうと、立ち上がってさっと振り向いた――ものの。

 顔どころか全身を真っ赤に染めたマヤ様を見て、文句が引っ込んでしまった。

 淡く膨らんだ胸の下で軽く組み、上目遣いの瞳が俺を見ている。しかし、目が合うとさっと逸らされた。


「……ばかっ」


 掠れ声でののしってそっぽを向いた拍子に、金糸みたいな金髪が派手に舞った。あ、ヤバい……むちゃくちゃ可愛かった、今の。

 なにあれ、意図せずにあんな可愛い素振りができるもんか?


「あの……ナオヤ様? 何かございましたか?」


 改めてギリアムに問われ、俺は慌てて無闇に手を振った。

「いやいや、別に。ちょっと内密な話があったんだ」

 何とか表情を改め、こっちから訊いた。

「それで、そっちはなに?」

「いえ……それが」

 今度はギリアムが口籠もる番だった。

「すぐにヨルン達が副使を連れて来ます。ご自分でお聞きになった方がよろしいかと」

 もったいぶった言い方をされ、俺はせっかくの気分に水を差された形である。



 いやぁ……この人がこういう言い方をする時って、大抵はいいことないんだわなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ