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俺が魔族軍で出世して、魔王の娘の心を射止める話(の予定)  作者: 遠野空
第六章 今度こそ砦攻略(の予定)
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今度こそ、砦攻略(の予定)――その11




 ――その11



「なんだおまえはっ」


 鼻息も荒くマヤ様に注目していたブロワーカーとやらは、拍子抜けした顔で俺を見た。

「雑魚を斬ったとあっては、家名の名折れだ。下がっていろ」


「俺もそうしたいけど、そういわけにもいかないんで」


 心底、正直にぶちまけ、俺は肩をすくめた。

「一応俺、指揮官ってことになってますから」

「指揮官だと!? 貴様のような若造が」

 馬鹿にしたような物言いだったが、まるで会話を邪魔するように、外で歓声が起こった。

 振り向きたくなるのを我慢していると、遙か遠くでヨルンのでっかい喚き声が微かにした。少なくとも狼狽の声じゃなくて安心したが、あいつは確か、ネージュの部隊につけてたんだけどな。

 一体、いつの間に降りて来たんだよ!?


「ふむ……おそらく崖上にいたネージュが、部下を引き連れて降下してきたのであろう」

 俺の疑問に答えるように、マヤ様が呟いた。

「魔法封じのマジックシフトが無効化された今、あの者の実力ならそれくらいは容易いはずだ。……もはや防壁の門は押さえたも同然だな」

 どこまで意識したのか知らないが、計算尽くなら大したものだった。

 なぜなら、それを聞いた途端、余裕の表情で髭などしごいていたこのおっさんが、いきなり剣を抜いたからだ。


「遊んでいる暇もなさそうだ。小僧、どかぬとあらば、無理にでもどかせるぞっ」


 言下に、飛びかかってきやがった。

 おおっ、鋭い剣撃っと言いたいところだけど……このおっさん、ひょっとしてまだ遊んでるのか?

 俺は首を傾げながら飛来した剣撃を避け、ついでにブローワーカーの鎧の脇腹辺りを蹴飛ばしてやった。

「おわっ」

 ガッチャンガラガラッなどと、騒騒しい音を立てて転がるおっさんである。廊下一杯に広がっていた彼の部下達が、一斉に動揺した。


「なっ」

「ブロワーカー様っ」


 大慌てで抱き起こしていたりする。 

 あれれ? もしかしてこの人、本気で弱い?

「何を首を傾げているのだ、ナオヤ! いつものように、口を開けてポカンとするのはよすがいいぞ」

 また後ろからマヤ様が叱咤する。

 まあ、内容の割には嬉しそうな声に聞こえるのが救いだけど……相変わらず、ひでー言い方だ。


「ナオヤの今の実力なら、その無能など一撃であろう。そいつも弱いが、そもそも自分の実力が以前と違うことに気付かぬようでどうするっ。さっさと片付けよ!」


「……えー、そういうポジティブな考え方、俺には似合わないっていうか」

 人がしゃべってる途中で、部下の手をはね除け、ブロワーカーとやらが飛び起きた。

 唯一、露出した顔が真っ赤である。

「そ、そんなはずはないっ。ふんっ」

 気合い一発、豪快に長剣を横薙よこなぎにしたが……もうこの辺でさすがの俺も認めることにした。

 うん、俺のレベルが上がったのか、それともこのおっさんが弱いのかは置いて、とにかくこの勝負はもう見えたね! レイバーグと比べたら、猫と虎以上の差があるねっ。

 決断した俺は、まずブロワーカーの長剣を下方から刀で叩き上げて天井へ飛ばす。


「うわわっ」


 と相手が妙な声を上げてよろめいたところで、素早く背後に回って背中を蹴飛ばした。たまらず、またやかましい音を立てて石廊下におっさんが倒れる。

「ミュウ、そいつをふん縛っておいてくれ!」

「お任せくださいっ」

 有能なミュウがささっとおっさんを押さえてしまい、お陰でめでたく守将はこっちの手に落ちた。

「お、おのれっ」

 今度は、多分副将らしきヤツが躍り込んできたので、俺はわざと雄叫びを上げて突っ込んだ。

「はああっ」

 芸もなく振り下ろされた長剣を避け、代わりに剣腹でそいつの頭をどやしつける。悪いけど、相手の動きがすげースローモーに見えて、楽勝だった。


「よぉし、二丁上がり! もう人質はいらんし、後は殺す!」

 わざとらしくそう喚き、残りの騎士連中に突入しようとすると、向こうはあっけないほど簡単に崩れた。


「ば、化け物かっ」

「きっと、魔王の腹心だ!」

「降伏します、降伏しますっ」


 その場に武器を放り投げて膝をつくもの、そのまま回れ右して逃げる者、もはや散々である。踏みとどまって戦おうってヤツは皆無だった。

 もちろん、逃げたヤツらは俺の背後に控えていた部下達が嬉しそうに追っかけていく。砦の首脳陣があいつらなら、ひょっとして後は簡単じゃないのか?


「――なんというザマか。腑抜ふぬけた男共めっ」


 前方じゃなく、後ろからどっと殺気が吹き付けた。

「や、ヤバいっ」

 振り返ると案の定、殺戮の天使みたいに金髪をなびかせたマヤ様が、例の長大な剣を手に、残った騎士連中に突っ込もうとしていた。

「いやっ。もう勝負はついてますからっ」

 俺が慌てて抱き止めなかったら、多分、この場で七~八人は殺してたね!

「こ、これっ、放さぬかっ」

 がっちりと抱き止めたせいか、一時的に怒りが霧散したようで、マヤ様は狼狽の声を上げた。

「剣を戻すなら放しますが、さもなきゃ放しませんよ。せっかく穏便に済みそうなのに、暴れるのはやめましょう、ねっ」


「……わ、わかった。わかったから、放すがよい」

「本当ですねっ」

「くどいぞ、ナオヤっ」


 なぜか頬が赤いマヤ様の身体から、俺はやっと離れる。この人はホント、身体張って止めないと、何するかわからんからな。




「ナオヤっ」

 エルザの声がして振り向くと、彼女はまた屋上から下りてくるところだった。いつの間にか、周囲の状況を確認に行ってたらしい。

「防壁の門はこっちの手に落ちたわ。後は守将を捕らえたって呼ばわれば、戦も収束に向かうんじゃない? ていうか、もう気の早い人がそうしてるけど」

 確かに……逃げた騎士共を追った部下達が、遠くで喚くのがここまで聞こえていた。

 そのせいか、さっきまで周囲に満ちていた喧噪が急速に収まりつつある。

「……どうかしたの、浮かぬ顔して?」

 エルザが笑顔を消し、不思議そうに訊いた。

「いや、今回はなんか、全てが上手く運びすぎだよなぁと」

「えー、途中まで凄く大変だったけど? 相変わらず、心配性ねぇ」

「確かに、否定できない」


 俺は苦笑して刀を鞘に戻す。

 そりゃ、たまにはとんとん拍子で運んでほしいけど、今回は乗り込んだ後がちゃっちゃっと終わって気味が悪いほどだ。世の中がいかに甘くないか熟知してる俺としては、やっぱりちょっと心配するよな。どっかで倍返しとかありそうだなぁと。


 ……その不安はすぐ先で現実になるんだが、まだこの時の俺は何も知らずにいた。

 


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