今度こそ、砦攻略(の予定)――その10
――その10
「大丈夫ですかっ」
「だ、大丈夫、大丈夫っ」
駆け寄ってきたミュウを安心させ、俺は可能な限り素早く立ち上がる。
見上げれば、同じ要領でギリアム以下の将兵が、無造作に下に落とされるところだった。マヤ様は流れ作業のように、滑り降りてきたヤツ全員を、問答無用でここへ叩きとしているようだ。
落ちてくる兵士はみんな大の男で、歴戦の戦士も多いのに、例外なく堪えきれずに悲鳴を上げている……無理もないが。
ただ、この騒ぎのお陰で、砦側にもこっちの存在がバレちまった。
「なんてこった、上を見ろっ」
叫び声がして、俺は慌てて下界を見る。
丁度、追撃部隊が砦の門を開いて出撃しつつあったが、それとは別に、防壁に向かう弓兵の一人が俺達を見つけたらしい。
こっちを指差して、大声で喚いていた。
「敵だ、敵の奇襲ーーーっ。ぐっ」
反対側の山に待機したネージュ達が即座に弓を放ち、弓兵を先に片付けてくれた。しかし他にも弓兵はいたし、彼らはきっちり俺達を見つけ、応戦しようとしている。ネージュ達がいなきゃ、危なく矢雨が降ってくるところだ。
幸運なことに、このために待機してた彼女達のお陰で、矢雨を浴びるのはヤツらの方だけどな。
まあどのみち、砦本体に残留する兵士達には見つかっちまったようだが。
屋上へ至る唯一の階段を駆け上る音がして、俺は即座にマヤ様から拝領した刀を抜いた。真紅に煌めく刀を頭上に掲げ、次々と到着(落下)しつつある部下達に叫ぶ。
「ギリアムっ、半分ほど連れて、反対側の階段を降りて外に出てくれ。門を確保してくれると助かるっ。後の半分は俺に続け! これからが本番だぞっ」
「おぉおーーーーーっ」
雄叫びというか、ヤケクソ気味の歓声が響き、全員が武器を抜く。
俺は真っ先に駆け出し、階段を上がってきた最初の一人に斬りかかった。
「どいてくれっ」
一刀の元に斬り下げ、先頭切って階段を駆け下りる。ほとんどはもう外に出払っていたのか、残っている兵士は想像してたよりは少ないようだ。
しかも、なんか身体が軽い!
リングマジックの影響で最近はだいぶレベルが上がったお陰か、嘘のように軽々と走れ、以前より見切れるのも早くなった。
「なあ、この砦の新しい守将って誰か知ってる?」
「な、なんで知らないのよ、攻め寄せた指揮官がっ」
まだ後ろについていたエルザが、呆れたように見返す。
「ていうか、あたしも知らないし――きゃっ、また来たわよっ」
「元間諜のくせに、知らないってどういうことだよっ」
石廊下を曲がってきた新手をまた一人斬り捨て、俺は愚痴る。
なぜ砦の守将を気にするかというと、どうもこの世界じゃ、「軍勢の指揮官が戦死するか捕まったら、その時点で戦は終了」って暗黙の了解があるみたいなんだな。
いや、別に暗黙の了解じゃないかもしれんけど、とにかく俺が今まで観察したところじゃ、だいたい指揮官が戦死した時点で、敵兵は四散していた。所詮、敵味方共に奴隷が主戦力なんで、中心となるヤツが不在になったら、もう戦なんかやってられないのだろう。
……絶対とは言えないが、少なくとも短期間に勝利を収めるには、指揮官を討つのが一番早いわけである。
しかし、居場所どころか名前もわからないならしょうがない。
俺は舌打ちして、砦の中を駆け回る覚悟を固めそうになった――その時。
追いついて来たマヤ様が、さらりと述べた。
「ナオヤ、心配せずともよいぞ。マヤがおまえを男にしてやろう」
「きゃあっ」
「ええっ!?」
……いや、なんで君が、俺より先に赤くなって叫ぶんですか、エルザ。
まあ、どうせ俺と同じ勘違いだろうけど。と思ったら、マヤ様はその場で傲然と顎を上げ、朗々と声を張り上げた。
「砦の守備兵よ、聞けっ。戦功を望む者は、ここへ参るがよい!」
いきなり……本当にいきなりの大喝である。
「ちょ、マヤ様っ」
慌てて止めようとしたが、マヤ様は小粋にウィンクし、仁王立ちで絶叫を続けた。
「魔界の覇者、魔王ナダル・グリュンワルドが一子、マヤ・グリュンワルド、人呼んでダークプリンセスが見参であるっ。我と思わん者は、かかってくるがよいぞ!」
「うわぁあああ」
「もう駄目、もぉおお、だめっ!」
俺は血刀を下げたまま頭を抱えたし、エルザはしゃがみ込んで震えだした。
考えてみりゃ、どうせ砦の中にいるんだから、もう何をしようと同じなんだが、とにかくマヤ様の声が凄まじくよく響いたからなっ。
魔界のナンバー2なのに堂々と名乗りを上げたりして、その事実だけでビビるよ! あと、俺は臣下として、この人を守る責任があるんだけどっ。
ほれ見ろ、言わんこっちゃない。
下の方から動揺しまくりのざわめきがして、この最上階に駆け上がってくる足音がするぞ。
「ふふふ……見よ、マヤの機転を」
一人、マヤ様だけは満足そうだった。
「誰だか知らぬが、これで守将とやらも出てくるであろう?」
絵に描いたようなドヤ顔とは、まさに今のマヤ様の顔を言うのだろう。しかし、紅潮した表情と立ち姿を見て、俺がちょっと見とれちゃったのも事実だけど。
例によってボディスーツみたいな薄着に、いつの間にか申し訳程度のブレスアーマーを着けてはいる。しかし……ありゃゲームに出てくるビキニ鎧みたいなもんで、俺が喜ぶだけの効果しかないし。
――ただ、確かにこの名乗りを上げた意味はあった。
なぜなら、ばらばらと駆けつけた兵士の中に、一際豪華な鎧姿のヤツがいて、そいつが大声で呼ばわったからだ。
「私は、ルクレシオン帝国正騎士、ブロワーカー! お相手致すぞ、ダークプリンセスっ」
――お、俺の恩賞が目の前にっ、みたいな顔で、ギラギラとマヤ様を眺めている。
あるいは俺と同じで、ただ薄着に注目してるだけかもしれんけど。
「ふふふ……相手はしてやるが、しかしマヤはあいにく指揮官ではない」
マヤ様はしてやったりと言わんばかりの、妖艶な笑顔を見せた。
「ナオヤ、マヤに感謝するがよいぞ。……約束通りの見せ場だっ」
「――あたっ」
つか、敵の集まってる中に、気安く突き飛ばすなぁあああ。
無情に押された俺は、よろよろと前へ出る。自然と、ブロワーカーとかいう中年と向き合う羽目になった。




