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俺が魔族軍で出世して、魔王の娘の心を射止める話(の予定)  作者: 遠野空
第六章 今度こそ砦攻略(の予定)
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今度こそ、砦攻略(の予定)――その9





 ――その9




「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫、大丈夫!」


 俺はガクガクと頷き、大きく息を吸い込んだ。

 幸い、遙か下界では、ここの兵士達のほとんどは防壁の方へ走って行く途中で、それぞれ好戦的な喚き声を上げている。砦の門も追撃のために開きつつあるし、下界は大騒ぎである。

 上を見るヤツなんざ誰もいない……今のところは。

 つか、下を見たらまだヤバいほど高いな、おい。


「魔法陣だ、魔法陣の方を頼む」

「その間、平気ですか?」

「ああ、何とか」

 俺は下を見て、急いで魔法陣を探そうとしたが……ミュウが先に耳元で言った。

「大丈夫です。既に見つけました。砦の屋根の部分、東西南北の四箇所に小型のサークルがあります。おそらく、それのことでしょう」

「よし、どれか一つでいい。その魔法陣を無効化しちまえば、マジックシフトは破れる。頼めるか?」

 俺は、眼下の砦を見ながら囁いた。


 砦本体は四角い屋根のある四層構造の塔みたいな形だが、屋根部分は意外と広そうだ。確かにあそこなら魔法陣を描くのにうってつけだろう。上空にまで影響を及ぼすというアレを無効化すれば、かなり楽になる。


 つか、楽にならんと困るっ。実際、もう腕が痺れてきた! こりゃ、ロープ伝って下まで降りるなんて無理ゲーかもしれん。プランBしか無理だ、無理。


「上塗りするための塗料を用意してますから、ご心配なく」

 俺の焦った顔を見て、察したのか、ミュウはすぐに囁き返した。

「では、先に行きますっ。ロープ、しっかり掴んでてくださいね」

「了解。ミュウも気をつけ――うわ、もう飛んだ」


 君、いちいち早いよ!


 ミュウは簡単にロープから手を放し、その場で落下した。まさかそのまま下の屋根まで真っ逆さまかと思いきや、途中、一度か二度、パッパッと下に垂らしたロープを掴み、申し訳程度の減速はしていた。しかしほとんど間を置かず、すたっと屋上に降り立ってくれた。


 しかも、予想以上に音がしない。

 この子がいてくれて助かった。俺は心の底からそう思ったね!

 ミュウはその場で腰にくっつけていた塗料入りの袋を掴み、手近な魔法陣らしき場所にあっさりばらいた。顔料の一種である粉末を大量にぶちまけた後、足で魔法陣をぐちゃぐちゃにしちまった。


 これでもう大丈夫……のはずだが?

 確かめる術はまだないので俺は即座に手で合図して、エルザを呼び寄せようとした。なんか向こうの崖の上でぐずぐずしていたが、後ろのマヤ様が無情にも突き飛ばしたらしく、小さな悲鳴を上げてこっちに滑ってきた。


 ば、馬鹿! 周囲に聞こえたらどうする!?

 自分のことを棚に上げ、俺は慌てて周囲を見る。一応、まだ気付かれた様子はない。


 ――て、エルザきたっ。

 涙目で滑ってきたエルザが、容赦なく俺にぶち当たる。

 相手が女で良かった! と思う瞬間である。しかし、当然ながらミュウほど上手く止められず、エルザにガミガミ噛み付かれることになった。


「痛い、腰打ったわっ。――あと、どこ触ってんのようっ」

「尻に触れたのは、不可抗力っ。ウエスト支えなきゃ、危ないだろ! あと、こんな場所で暴れるなよ。落ちたら二人共死ぬんだぞっ」

「ひっ」

 やっと思い出したらしく、ローブ姿のエルザは、即座に下を見て震え上がった。

「こ、こんな場所から下りられるわけ、ないじゃない」


「だから魔法だよ、魔法っ。打ち合わせの時、プランBを検討したろ? ここでレビテーションを――てうわっ」

「きゃんっ」

 

「ふふふっ。これは楽しいな!」


 真紅の瞳を輝かせたマヤ様が、エルザと俺に遠慮ナシにぶつかってくれた。自己判断でとっとと滑ってきたらしい。

「まだ合図出してませんよっ」

 下が大騒ぎの矢戦中なのを幸い、俺はそれなりの声で文句を告げる。

 しかし、マヤ様は鼻で笑っただけだった。


「何を悠長ゆうちょうなことを言うのか、ナオヤ。いくさとは時間勝負ぞ? 見よ、下ではもはや追撃部隊が出撃していく。ボンゴ達に襲いかかるまで、そう長くはかかるまいっ。故に、他の者も間を置かずに滑ってくるように、申し置いた」


「ええ!? て、おわっ」

 驚いてるそばから、ドカドカッと新たな衝撃が。俺の部下達が、二等戦士から奴隷に至るまで、次々とロープを伝って滑ってくる。つか、五十人分が全部到着するまで、俺の腕が保たないっ。

ぶら下がってるだけでもかなり体力消耗するし。


「エルザ、レビテーションだ。本来は浮遊のための魔法でも、時間切れになりゃ、ふんわりと降りられるんだろ? なら、今すぐ頼む。俺達全員を対象でっ」


「わ、わかった――」

 自らも疲れていたのか、エルザは一も二もなく賛成してくれた。

「待て、ナオヤ。魔法よりよい手がある」

 しかし、そこでまたマヤ様が口を出した。……この人、指揮権に干渉しないと言いつつ、干渉しまくりだなっ。

「この土壇場でなんですか?」


「レビテーションの効力切れ待ちをするくらいなら、マヤの方が遙かに早い。考えても見よ? 大型の獣人ですら、手も触れずに宙に浮かせ、壁に叩き付けることが可能なこのマヤなのだぞ? さすがにあの山から全員を飛行させるのは無理だったが、五十人程度をゆっくりとここから下ろすくらいなら、十分に可能だ」


 肌着みたいな薄着の胸を張り、マヤ様がエルザの頭越しに自慢する。

 その時の俺は、一瞬、ほうけた顔を見せたかもしれない。

 言われてみれば、最初の出会いで、既にマヤ様は鬼野郎二人を壁に叩き付けていた。手で一切触れずもせずに。

 魔王の直系には他の魔族にはない力があるそうだが、確かに俺は、その片鱗へんりんを見ていたのだ。

「な、なるほど……しかし本当に」

 言いかけた途端、マヤ様の目が光った。

 いや、比喩的な意味ではなく、本当に一瞬光ったのだ。


「口であれこれ言うより、試す方が早い。ほらっ」


 言下に、マヤ様がエルザと俺の両方を力尽くで、掴んでいたロープから引きずり下ろした。抵抗できるようなパワーではなく、気付いたら二人で真っ逆さまに落下中だった。

 エルザは甲高い悲鳴を上げやがったし、俺にしてからが既に半泣きだった。


「いやぁあああああっ」

「うわわっ」


「だから、叫ぶでない! 気付かれるではないか」

 マヤ様が上空から小声でたしなめた瞬間、いきなり不可視の力を感じた。そこで急激に減速して、俺達は砦の屋上に着地していた。

 ……とはいえ、かなり荒っぽいやり方で、ちょっと足にダメージきたけどな。


「つつっ、荒っぽいなっ。減速は最後に一度だけかいっ」

「痛い痛いっ」


 二人してしゃがみ込み、再び涙目である……情けない。


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