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俺が魔族軍で出世して、魔王の娘の心を射止める話(の予定)  作者: 遠野空
第六章 今度こそ砦攻略(の予定)
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今度こそ、砦攻略(の予定)――その8

 


 ――その8




 そこから先は、めまぐるしくコトが運んだ。


 その直後にネージュ達の姿を確認し、俺は初動の遅れを取り戻そうと、ロープの端に重りをくくりつけたヤツを、ミュウに投げてもらった。

 これはホントに、予想以上にあっさり上手くいき、ミュウが頭上で恐ろしい勢いで旋回させてから投げたロープは、重し代わりの石が嘘のように軽々と飛び、あっさり向こうの山まで届いてしまった。


 狙いもまたどんぴしゃりであり、丁度、ほけっと夜空を見上げていたネージュの足下に落ちていたみたいだ。……いや、彼女が思いっきりびびって飛び退いたのが見えたんで、わかったんだけどな。


 その間にも、二等戦士やボンゴの喚き声や、応戦しようとする砦側の兵士の声がガンガン響いている。さすがに陽動部隊も俺が事前に言い含めたことを思い出したのか、矢が届く寸前くらいの距離で停止し、しきりに砦に向かって矢を放ちはじめた。

 そんなことしたってどうせ届かないから、意味ないんだが、この際は敵兵の目を魔界領の方へ向けておいてくれれば、それで文句ない。


 ただ問題は、痺れを切らした帝国側が、門を開いて出陣することだが……今すぐそれをされると困る。もう少し後ならむしろ歓迎だけど。





「ミュウ、用意はっ!?」

 俺の問いかけに、タリカの樹にロープを縛っていたミュウは、頼もしく頷いた。

「渡しました! 後は滑り降りるだけですっ」

 即座に向こう側に目をやると、ネージュが手を振るのが微かに見えた。

「よし、みんな例のアレを用意だっ」

 例のアレ……つまり、予備のレザーアーマーを解体して作った、長方形の皮である。コレをロープの上から渡し、両端をそれぞれ左右の手で握って降りていくという、素晴らしく無謀なやり方だ。一応、ロープと同じくこの長方形の皮にも補強の魔法はかけてるが、大丈夫かどうか俺にも心許ない。


 さすがに、百五十メートル程度の距離はつと思うんだけどな。

 いずれにせよ、滑車なんて気の利いた物は用意できなかったし、これで何とかするしかない。


「エルザ、ちゃんといるかー?」

 俺は部下達の後ろの方に声をかける。

「……いるけど、バテてまーす!」

 予想通りの声が、微かにした。

 ずっと後ろの方で、手を振る彼女がようやく見えた。

 はいはい、そりゃ登ってる時からずっと遅れ気味だったもんな。しかし、今はこっちに来てくれないと困る。

「急いでここまで来てくれ。出番が近いぞ」

「わ、わかったわ!」

 さすがに小走りに駆けてきてくれた。

念のために連れてきていたが、上手くすれば彼女も戦いに投入できるし、砦の上空から降下する時も、ずっと楽できるかもしれない。

 一応、プランBというわけで、エルザにも協力してもらう。

 いや、全てはあの魔法を無効化するという、マジックシフトとやらが何とかなったらの話だが。

「予定通り、ミュウが先頭、俺がその次で、三番手はエルザな!」


「――仕方ない、マヤは四番手で我慢しよう」


 いきなりマヤ様がわくわくした声で言った。

 どうやら興奮気味なのか、既に薄赤い瞳は真紅に染まっている。おいおい……。

「しゅ、主君が臣下と一緒に突入してどうすんです!?」

「心配するな。こんなところで死ぬヤワなマヤではないぞ。むしろ、ナオヤは自分のことを案ずるがよい」

「……ま、まあいいです、はい。じゃあ、マヤ様は四番手で。その代わり、俺のそばから離れないでくださいよ」

「ふふ……ナオヤもなかなか言うようになったな」

 豪勢なペルシャ猫みたいな笑みを浮かべ、マヤ様は頷く。


「わかった。父にも言われていることだし、素直に従おう」

 全然、素直じゃないし! と思ったが、もちろんぶっ飛ばされたら嫌なので俺は黙っておく。

「ナオヤ様、敵の動きが慌ただしいですぞっ」

 ギリアムが後方から注意した。

「どうも、陽動部隊を迎撃に出る兆しかと」

「そ、そうかっ。よしミュウ、行こう。――作戦開始だっ」

「わかりました!」

 落ち着いた様子でミュウは応じ、すぐに即席の皮をロープの上から渡す。両端を掴み、下界をちらっと確認してから、未練なく宙に躍り出た。


 おおっ!? なんか……すげー勢いで降りて行かれましたが……見る見る遠ざかっていくよ。こりゃ思ったよりスピード出るわー。

 大丈夫なのか……いや、彼女ではなく、俺達の方が。


「うわ、そんな簡単にっ」

 エルザが口元に手を持ってくる。既に足が震えていた。

「他人事じゃないぞ。エルザは三番目だからなっ。俺の後に続けよ! ただし、合図の後でな」

 年上に悪いと思ったが、びしっと言っておく。

 いや、見るからにびびりまくってるんで、ここは強く言っておかないと。……まあ、そういう俺も怖いんだけどな。なんせ、道具がいい加減するし。


 しかし、ここで怖じ気づくと、みんな(特にエルザ)に後で何を言われるか知れたモンじゃない。というわけで、俺は革紐をしっかり掴むと、えいやっとばかりに虚空に飛び出した。

 途端に、耳元で風を切る音がした。

 つか、そもそもモロに身体に風が当たる。あと、速度はやっ。思ったより全然はやっ。

 頭上でロープと皮が擦れる、ギュワギュワギュワッてな音がしてるし、身体を支えるのは思ったより難儀だし……この作戦、実はすげー無理があったな!


 しかも、傾斜が想像以上にあったせいか、俺があたふたと怯えている間に、もうミュウに接近していた。彼女を先頭にしたのは、実に正解だった。

 どうやってか知らんけど、ミュウは確実に砦の上空で停止し、既にこちらを向いて俺を待っていたからだ。


「ナオヤさんっ」

「ぎゃあっ」 


 返事が悲鳴で悪いが、許せ。

 人生でこんな経験すること、まず滅多にないんだし。俺はロクにスピードも落とさずに片手で器用にロープに掴まるミュウにぶち当たった。

 というか、ミュウが巧妙に抱き留めてくれなきゃ、奈落の底まで落ちてたね!


 どんっとミュウにぶつかり、一瞬、彼女と抱き合う形になってしまう。片手でロープを保持し、片手で俺を抱き留めるとか、この子、やっぱりすげーな。

 おまけに、いつの間にか下に向かってロープも垂らしていると来た。

 あと、スーツの胸の部分が俺の胸に当たり、恐ろしいまでに柔らかくてよい感触だった。


 もしかして、これがクッションになったのか? と俺は馬鹿なことをちらっと思った。 


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