今度こそ、砦攻略(の予定)――その2
――その2
しかし、それは全くもって、無謀な挑戦だった。
背丈はそこそこあるものの、見かけはか細いローティーンの少女に見えるマヤ様だし、実際、触った時の感触も、肉が薄くてさほど筋肉があるようには思えない……なのに、どんだけ力入れても、ケロッとしてんだもんなぁ。
いや、力を入れれば入れるほど気持よさげにしてくれるので、やりがいはあるのだが。
ソファーに俯せに横たわるマヤ様を見下ろすように、その脇の床で両膝をついているので、眼下に半裸の身体があってドキドキするし。
特に、このお尻の形が素晴らしい……て、主君の身体をじろじろ見るのはいけないけど。
と、とにかくっ。この調子では俺の体力が保たん。
「ところでマヤ様、打ち合わせはどうなりました? 今のところ、雑談とマッサージしかしてないですが――ていうか、寝ないでくださいっ」
半分居眠りこいていたマヤ様に気付き、俺は憤慨して叫んだ。
そもそも、人がこんだけ力を振り絞っているのに居眠りて……やっぱりこの人、あらゆる意味ですげーな。
「よい息抜きになった。心なしか、身体が軽くなった気がする」
起き上がったマヤ様は、長い金髪を背中に払い、ご機嫌で腕をぐるぐる回していた。
一方、汗だくでそこら中の筋肉が痛み出した俺は、すげー身体が重くなった気がする。
本来、同じソファーに座らず、ちゃんと足元に跪くべきだろうが、そんな気力も失せたわっ。
「これはよいものだな……今後もナオヤにしてもらうとしよう」
おまけに、この恐ろしいセリフだ。
「いやいやっ。メイドやら侍女やらが山のようにいらっしゃるでしょう! 彼女達に頼みましょう。それよりっ」
マヤ様が不満そうに睨むのに気付き、俺は慌てて話を戻す。
「砦攻略の件ですけど、以前の人数の倍を許可してくれたのは有り難いことですが、今日はまた、どのようなご用事の呼び出しですか? 何か打ち合わせするようなことでも?」
「なんだ、その言い方は? この主君であるマヤが呼び出すのが、不満のような言い方だな」
薄赤い瞳を細めたところで勘付き、俺は素早くソファーから逃げようとしたが、向こうの方が十倍は早かった。
はしっこい野良猫が裸足で逃げそうな、超反応である。
さっと手を伸ばして俺を捕まえると、後ろからがっちり抱え込み、唇の両端を摘んでぐぐっと引っ張ったりする。俺を自分並のタフさと勘違いしているのか、肉がちぎれるかと思ったほどだ。
「ほら、どうしたことだ、ナオヤ? レイバーグの時に見せたという、超速の動きをこのマヤにも見せてみるがいい。うん? こんなに簡単に捕まってどうするのだ、ほらほらっ」
すっっげー楽しそうな声と共に、ぐいぐい引っ張る。
「ひたい、ひたいっす! つか、マジいたひっ」
「あはははっ。面白い顔になってるぞ、ナオヤ!」
あ、あんたな……と本気でむっとしかけたが、しかし背中に柔らかい膨らみが当たっていたりして、ちょっと嬉しい部分もあったりして。
例によってよい香りに包まれるし。
女の子は、本気で怒りにくいから得だよな……まあ、仮に俺が本気で怒ったって、この方には手もなくあしらわれる気がするが。
さらに数分ほど俺の百面相を楽しんだ後、マヤ様はようやく解放してくれた。
ほっとして口元をさする俺に身体ごと顔を向け、あっさりと今日の用向きを伝える……女の子座りで。
「用とは言うのは簡単なことだ。……今回の遠征、マヤも同行することになったぞ」
「えっ」
「不服か?」
また機嫌が悪化しそうになったのをいち早く感じ取り、俺は焦って首を振る。
「いえ、そうではなくてっ。その場合、マヤ様が指揮官ということになるのでは?」
「それはないから安堵するといい、ナオヤ」
何を勘違いしたのか、マヤ様がなだめるように言う。
「あくまでも指揮官はナオヤだ。マヤは同行するだけだぞ……これは、実は父上の望みでもあってな」
「魔王陛下の!?」
「うむ。……どうも最近、父上は親族の有象無象と益々上手くいってないようなのだ。マヤの安全のためにも、ナオヤとできるだけ一緒にいるようにと言われた。それどころか、できれば城中でもナオヤのそばから離れるなと仰せだ。ご心配は嬉しいが、父上は少し大げさすぎる。マヤを闇討ちするようなヤツがいれば、思い知らせてくれるのに」
怒ったような口調ながら、満更でもなさそうだったし、実際、機嫌よく続けた。
「まあ、マヤとてこの城で遊んでいるよりは、実際の戦いに赴くナオヤに同行する方がよい。というわけで、よろしく頼むぞ、ナオヤ。なに、いざという時はマヤも力になろうではないか。以前誘拐されかけた時も、その直前に数十名は敵を冥界に送ってやったのだぞ? ぜひ頼りにするがよいぞ! あははっ」
切れ長の瞳を好戦的に輝かせ、豪傑笑いよろしく哄笑してくれた。
黙っていれば、か細い金髪の美少女なのに、この凄まじいギャップ!
頼もしくはあるが、しかしそりゃあんた、陛下は俺に「娘の護衛を頼む」と言ってるのと同じじゃないのかぁ?
部屋に戻った俺は、早速、ギリアムを呼んでこの話を伝え、意見を聞いてみた。
なんだかんだ言って、今の俺が相談するとなると、ギリアムかミュウくらいだからな……ヨルンは物事を簡単に考えすぎるし、さすがにエルザとか、あと入ったばかりのネージュには相談しにくい。
無論、気の良い彼は、むしろ相談を受けたことを喜んでくれた。
ただし、彼の考えそのものは、かなり深刻だったな。
「それはおそらく……ダークプリンセスのお言葉以上に、魔王陛下の立場が微妙になっておられますね」
「そ、そうなのか?」
応接室で向き合っていた俺は、否応なく身を乗り出した。
「はい……我がクライン家も一応、下級貴族の端くれではありますので、その手の噂はつとに入ってきます」




