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俺が魔族軍で出世して、魔王の娘の心を射止める話(の予定)  作者: 遠野空
第六章 今度こそ砦攻略(の予定)
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今度こそ、砦攻略(の予定)――その2



 ――その2





 しかし、それは全くもって、無謀な挑戦だった。


 背丈はそこそこあるものの、見かけはか細いローティーンの少女に見えるマヤ様だし、実際、触った時の感触も、肉が薄くてさほど筋肉があるようには思えない……なのに、どんだけ力入れても、ケロッとしてんだもんなぁ。


 いや、力を入れれば入れるほど気持よさげにしてくれるので、やりがいはあるのだが。

 ソファーにうつぶせに横たわるマヤ様を見下ろすように、その脇の床で両膝をついているので、眼下に半裸の身体があってドキドキするし。

 特に、このお尻の形が素晴らしい……て、主君の身体をじろじろ見るのはいけないけど。

 と、とにかくっ。この調子では俺の体力が保たん。


「ところでマヤ様、打ち合わせはどうなりました? 今のところ、雑談とマッサージしかしてないですが――ていうか、寝ないでくださいっ」


 半分居眠りこいていたマヤ様に気付き、俺は憤慨して叫んだ。

 そもそも、人がこんだけ力を振り絞っているのに居眠りて……やっぱりこの人、あらゆる意味ですげーな。





「よい息抜きになった。心なしか、身体が軽くなった気がする」

 起き上がったマヤ様は、長い金髪を背中に払い、ご機嫌で腕をぐるぐる回していた。

 一方、汗だくでそこら中の筋肉が痛み出した俺は、すげー身体が重くなった気がする。

 本来、同じソファーに座らず、ちゃんと足元にひざまずくべきだろうが、そんな気力も失せたわっ。


「これはよいものだな……今後もナオヤにしてもらうとしよう」

 おまけに、この恐ろしいセリフだ。

「いやいやっ。メイドやら侍女やらが山のようにいらっしゃるでしょう! 彼女達に頼みましょう。それよりっ」

 マヤ様が不満そうに睨むのに気付き、俺は慌てて話を戻す。

「砦攻略の件ですけど、以前の人数の倍を許可してくれたのは有り難いことですが、今日はまた、どのようなご用事の呼び出しですか? 何か打ち合わせするようなことでも?」

「なんだ、その言い方は? この主君であるマヤが呼び出すのが、不満のような言い方だな」

 薄赤い瞳を細めたところで勘付き、俺は素早くソファーから逃げようとしたが、向こうの方が十倍は早かった。


 はしっこい野良猫が裸足で逃げそうな、超反応である。

 さっと手を伸ばして俺を捕まえると、後ろからがっちり抱え込み、唇の両端を摘んでぐぐっと引っ張ったりする。俺を自分並のタフさと勘違いしているのか、肉がちぎれるかと思ったほどだ。


「ほら、どうしたことだ、ナオヤ? レイバーグの時に見せたという、超速の動きをこのマヤにも見せてみるがいい。うん? こんなに簡単に捕まってどうするのだ、ほらほらっ」


 すっっげー楽しそうな声と共に、ぐいぐい引っ張る。

「ひたい、ひたいっす! つか、マジいたひっ」

「あはははっ。面白い顔になってるぞ、ナオヤ!」

 あ、あんたな……と本気でむっとしかけたが、しかし背中に柔らかい膨らみが当たっていたりして、ちょっと嬉しい部分もあったりして。

 例によってよい香りに包まれるし。

 女の子は、本気で怒りにくいから得だよな……まあ、仮に俺が本気で怒ったって、この方には手もなくあしらわれる気がするが。

 さらに数分ほど俺の百面相を楽しんだ後、マヤ様はようやく解放してくれた。

 ほっとして口元をさする俺に身体ごと顔を向け、あっさりと今日の用向きを伝える……女の子座りで。


「用とは言うのは簡単なことだ。……今回の遠征、マヤも同行することになったぞ」


「えっ」

「不服か?」

 また機嫌が悪化しそうになったのをいち早く感じ取り、俺は焦って首を振る。

「いえ、そうではなくてっ。その場合、マヤ様が指揮官ということになるのでは?」

「それはないから安堵あんどするといい、ナオヤ」

 何を勘違いしたのか、マヤ様がなだめるように言う。

「あくまでも指揮官はナオヤだ。マヤは同行するだけだぞ……これは、実は父上の望みでもあってな」

「魔王陛下の!?」


「うむ。……どうも最近、父上は親族の有象うぞう無象むぞうと益々上手くいってないようなのだ。マヤの安全のためにも、ナオヤとできるだけ一緒にいるようにと言われた。それどころか、できれば城中でもナオヤのそばから離れるなと仰せだ。ご心配は嬉しいが、父上は少し大げさすぎる。マヤを闇討ちするようなヤツがいれば、思い知らせてくれるのに」


 怒ったような口調ながら、満更でもなさそうだったし、実際、機嫌よく続けた。

「まあ、マヤとてこの城で遊んでいるよりは、実際の戦いに赴くナオヤに同行する方がよい。というわけで、よろしく頼むぞ、ナオヤ。なに、いざという時はマヤも力になろうではないか。以前誘拐されかけた時も、その直前に数十名は敵を冥界に送ってやったのだぞ? ぜひ頼りにするがよいぞ! あははっ」

 切れ長の瞳を好戦的に輝かせ、豪傑ごうけつ笑いよろしく哄笑してくれた。

 黙っていれば、か細い金髪の美少女なのに、この凄まじいギャップ! 

 頼もしくはあるが、しかしそりゃあんた、陛下は俺に「娘の護衛を頼む」と言ってるのと同じじゃないのかぁ?





 部屋に戻った俺は、早速、ギリアムを呼んでこの話を伝え、意見を聞いてみた。

 なんだかんだ言って、今の俺が相談するとなると、ギリアムかミュウくらいだからな……ヨルンは物事を簡単に考えすぎるし、さすがにエルザとか、あと入ったばかりのネージュには相談しにくい。

 無論、気の良い彼は、むしろ相談を受けたことを喜んでくれた。

 ただし、彼の考えそのものは、かなり深刻だったな。


「それはおそらく……ダークプリンセスのお言葉以上に、魔王陛下の立場が微妙になっておられますね」

「そ、そうなのか?」

 応接室で向き合っていた俺は、否応なく身を乗り出した。


「はい……我がクライン家も一応、下級貴族の端くれではありますので、その手の噂はつとに入ってきます」


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