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俺が魔族軍で出世して、魔王の娘の心を射止める話(の予定)  作者: 遠野空
第六章 今度こそ砦攻略(の予定)
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今度こそ、砦攻略(の予定)――その1



――その1





 あの、レイバーグの侵入騒ぎから十日が過ぎた。


 結果から先に言うと、レイバーグ達は無事に逃走してしまい、魔王陛下はレッドドラゴンの群れを壊滅させて事態を収拾した。

 まあ、形としては痛み分けになるのか? どうやってか知らないが、向こうも飼い慣らしたレッドドラゴンを大量に失ったわけだし。

 ただ……俺は魔王陛下と互角の斬り合いを演じたレイバーグが、どうしても忘れられずにいた。思えば俺も、とんでもないヤツを敵に回したな、くそっ。


 ちなみにマヤ様はあの時、ご自分の部屋で爆睡していたらしい。そのまま朝まで、まっったく目覚めなかったとか。

 あれだけの大騒ぎだったのに、色んな意味ですげーよ。





 時に――人質が逃げた件については、とりあえず俺はおとがめナシとなった。

 なぜなら、幸か不幸か、変態樽おっさんの戦士将グレイルが、陛下に「人質管理変更」の使いなどを無理に送りつけていたため、人質が逃げたのは亡きグレイルの落ち度、ということになったからだ。

 グレイルを叱りつけるために急遽戻った陛下は、この機に乗じてグレイルに落ち度を押しつけたというわけだ。こういうところ、魔王陛下はただのイケメン魔族戦士じゃないと思う。なかなか策士でいらっしゃるようだ。


 というのも、陛下はついでにグレイル亡き後の彼の一族をも処罰の対象とし、「おまえ達の所業、日頃から目に余る。家名を継ぐことは許さぬぞ」と申し渡したからだ。

 俺は当初から「こんなヤツでも戦士将とか務まるわけ?」と密かに思っていたのだが、それは誰よりも魔王陛下が頭を痛めていたことらしい。

 ただ、魔族は無駄に歴史が長いせいか、有力な家系や諸将が、それこそ山のようにいるらしいのだな。

 そいつらは大抵、地位の割には大して働きもせず、余計な差し出口はするわ、利権を掠め取って甘い汁は吸おうとするわで、陛下にとっては目の上のたんこぶだそうな。


 それでも、そいつらはそれぞれ無視できない数の私兵をようし、いざという時はそれなりの数の兵士を動かせる。つまり、いざ戦となると、名門の当主はどうでもいいとして、そいつが擁する兵士は出してもらわないと困るわけだ。

 だからこそ、陛下ほどの実力と権力があっても、なかなか断罪に及べないというわけ。


 ……ていうか、これらは全て、あの後で陛下に呼びつけられた俺が聞かされた、愚痴のようなものだが。

 俺みたいな小物にそんな愚痴を聞かせていいのかと思うが、俺の顔を見て、陛下はその疑問を先んじて察したのだろう。

 大真面目な顔でこう仰った。


「おまえにはできるだけ多くを知っておいてもらいたいのだ、ナオヤ。この先、予に何かあった時は、マヤが魔界を治めねばならぬ。そのような時が来れば、おまえが我が娘を支えることになろうからな」


 有り難い話だが、さすがに陛下の崩御ほうぎょは考えたくないな。

 あと、そんなことを言いつつ、俺が「ならば一つ質問がございます」と切り出した時、までこっちが何も訊かないうちから、先手を打たれちまった。

「ナオヤの質問は予想できる」

 陛下は勢い込んだ俺をなだめるように言った。

「だが……その疑問に答えるまでは、もう少し時間をくれぬか? 予にも打ち明け難いことはあるのだ」


「それでは、お待ちしますが……もしかして、俺の疑問の答えとやらは、先日陛下から伺った、例の秘密と関係してますか?」


 諦めきれずに尋ねた俺に、陛下はただ黙って頷いた。






 ただし……その数日後で今度はマヤ様に呼ばれたわけだが、そこであの方から「父上がナオヤを呼びつけたそうだが、何故だ?」と尋ねられた時、もちろん俺は正直に答えなかった。


 そもそも、陛下が打ち明けた「秘密」に関しては、誰にも話さないと約束していたし、実際俺も、今はマヤ様に教えない方がいいと思っている。

 いや、むしろ永遠に教えないのが正解の気がしてるほどだ。

 しかし、「いや雑談ですよ」とトボけようものなら、鋭いこの方はたちまち何か秘密があると疑うだろう。


 そこで俺は、「どうも陛下は……ご自分が亡き後のことを考え始めているらしく」などと、一部本当に聞かされた話を告げておいた。

 陛下は、マヤ様のことを心配しているようだってさ。

 これなら、嘘にもならないし。


「……父上ともあろうお方が、何ということを仰せか」


 ソファーに俯せに横たわったマヤ様は、気持ちよさそうな表情と怒りの表情を器用に同居させていた。

「既に千年近くもその地位にある父だぞ? 父上に仕えていたメイドの中にすら、同じくらい生きていた者もいるのだっ。それを何を弱気な……くっ……ナオヤ、もう少し力が入らないのかっ」


 叱責された俺は、汗だくになった額を拭い、慌てて答えた。

「すいませんっ。でも、俺は結構、力を入れてますよっ」

 すぐ下には、この世界の下着に当たる、レオタードちっくな薄着を着たマヤ様が、モデルのように横たわっているのだが――。

 なぜか、最初ほど嬉しくない。

 つか、手と腕が痺れてきた。この方、全力でニギニギしても、全然痛そうにしないしなっ。



 ……当初、「俺にもついに幸運がっ」とか思った俺は、大馬鹿だった。

 それを言うなら、「俺のいた世界には、マッサージ専門の店なんかがあって」などと雑談に紛らわせて教えたのが、そもそもの間違いだったのだが。


 いや、今後の打ち合わせのために私室におもむいた時、陛下の一件を話す前に、「魔界とナオヤのいた世界は、かなり違うのか?」などと質問されたので、いろいろと教えて差し上げたのである。

 で、その中の「マッサージ専門店」というのに、マヤ様はいたく興味を示されたのだった。


「まっさーじ? そのようなものは、ここでは聞かないぞ。それは、どういうことをする店なのだ?」


 ――てさ。

 この時、俺がエロい妄想を抱かなかったと言うと、それは嘘になる。

 遙か昔、亡きかーちゃんによく「ナオヤ式独自マッサージ」を施していた俺は、今こそその手腕を活かす時だと思ったわけだ。


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