望まぬ出会い――その14
「この期に及んで――むっ」
陛下が遙か西の空を見上げたので、俺達も釣られてそっちを見た。すると……すぐにはわからなかったが、視力に優れたネージュが真っ先に口走った。
「レッドドラゴンの群れよっ」
「な、なんだそれ?」
俺が訊くと、青い顔のネージュの代わりに、ギリアムが教えてくれた。
「ドラゴンの一種です。かなり小型の種ではありますが……しかし、数を頼んで来られると、面倒なことになりましょう」
言われ、俺はもう一度遠い空を見た。
ようやく、月明かりの下をぽつぽつと点のような群れを見つけた。ありゃどう見ても十匹以上はいるような。
「……それに、こちらも時間切れを心配していたが、どうやら僕の方も何とかなりそうです」
レイバーグが何かに気付いたように付け加えた。
「笑止! 貴様は今、予が成敗するっ」
言下に、陛下の長身がその場からかき消えた。
同じく、離れた場所に立っていたレイバーグの身体も霞んで消え、次の瞬間、甲高い金属音が一度だけ響く。
気付いた時には、双方、立ち位置を変えて立っていた。
どうやら今……とんでもないスピードで疾走し、互いに斬り結んでいたらしい。
「くっ」
「小癪なっ」
レイバーグは頬に掠り傷を負い、そして魔王陛下はスーツの上衣をわずかに斬られ、それぞれ声を上げる。なぜか嫌な予感がした俺は、大声で叫んだ。
「陛下っ」
しかし、双方がまたぱっと互いに向かって疾走し、陛下がまず巨大な剣を寒気がするような風切り音と共に横薙ぎに叩き付けた。
しかし、レイバーグは寸前で跳躍し、空中で一回転してこれを避けてしまう。結果的に、二人はまた、元の立ち位置に戻ってしまった。
「貴方を倒し、ナオヤを倒して仇を取ったところで、討ち死にしては意味がない。失礼の段はお詫びするが、当初の目的も果たしたことだし、今日はこれで失礼する――ジェイル、セシールっ」
『はいっ』
最後のレイバーグの呼びかけに、はらはらと見守っていた王女と王子が、ぱっとレイバーグの身体に左右からしがみついた。どうも、どこかの時点で奴に言い含められていたようだ。
二人共、そのくらい迷いのない動きだった。
そして俺達は、今度は東の空からの羽ばたき音を聞き、逆方向を見た。
そっちの空からは、レッドドラゴンとやらが一匹だけ飛来しており、しかも、その背中には戦士風の男が一人、乗っていた。
「レイバーグ、すまねぇ! 遅れちまったっ」
男がセリフの割には陽気な声で叫ぶ。
「気にすることはないよ、ロイド。意義のある夜だったしね」
レイバーグが微笑むと同時に、レッドドラゴンがやや速度を落とし、空中歩道の上空ギリギリを通過しようとする。
……つか、足になんかぶら下がってるぞ?
「なんだ、あの細長いの?」
「あれはロープのようですっ」
見えない俺に、ミュウが教えてくれた。
「ロープって……じゃあ、まさか!?」
その、まさかだった。
レッドドラゴンが彼らの頭上を通過する寸前、レイバーグは垂れ下がったロープを、神がかったタイミングでさっと手に掴む。結果、彼ら三名はあっという間に夜空に舞い上がった――いや、舞い上がりそうになった。
「そうはさせぬぞっ」
おそらく、タイミングを計っていたに違いない陛下が、いきなり手を突き出して雷撃を放った。
「それも計算のうちだっ、魔王陛下!」
完全にレッドドラゴンに命中するコースだったのに、レイバーグが自分も素早く掌を突き出す。
……結果的に雷撃は見えないシールドに阻まれてしまい、空しく四散した。
気付いた時には、レイバーグ達を運んだレッドドラゴンは、見る見る遠ざかってしまう。
「この勝負は預けるぞ、ナオヤ・マツウラ! 次は必ず君を倒すっ」
「ナオヤさま、またどこかでっ」
「ナオヤ、ありがとう!」
レイバーグにしがみついたセシールとジェイルの方は名残惜しそうに俺に手を振っていたが、応えるどころじゃないよ。
あの野郎、陛下じゃなくて俺に捨てセリフかいっ。
「ならば、予が直々に追うまでっ」
むっとしていた俺は、陛下が再び翼を広げたので、慌てて声を上げた。
「陛下っ、レッドドラゴンの群れが!」
そう、西の空から接近中だったレッドドラゴンの群れが、もうほとんどすぐそこまで飛来していたのだ。放っておくと、帝都マヤを蹂躙しそうだ。
「む……先に、あの獣共を落とす他はないか」
陛下は厳しい顔で頷き、そのまま空に舞い上がった。
もちろん、陛下はお一人であの群れを全滅させるだろう……しかし、片付け終わった頃には、さすがにもう奴は遠い空の下だ。
結局、レイバーグは取り逃がすことになりそうだった。
まあ……今の俺は、命拾いした喜びの方が大きいけどな。
気安くあんな奴が出てくるって、ナイトメアモードのゲームかって!
「……とんでもない戦士でしたな」
近寄ってきたギリアムが、ぽつりと述べる。
それはおそらく、この場の全員の感想だったはずだ。
そして俺は、強く予感していた。
レイバーグと俺は、いつか必ず決着を着けることになりそうだと。




