望まぬ出会い――その11
――その11
俺は急いで振り向き、まずはヨルンに頼んだ。
「城内へ戻って、ありったけの援軍を呼んでくれ。この騒ぎならそのうち気付くと思うけど、どうせなら早い方がいい。つか、一刻を争うかも」
「そ、そりゃ構わないけど、その間、大丈夫か?」
なんと、ヨルンは俺の心配をしてくれているらしい。そりゃまあ、今も俺の背中の方で、悲鳴とか怒号がじゃんじゃん湧き起こってるしな……無理もあるまい。
俺は少しでも頼もしそうに見えるように願いつつ笑い、首を振った。
「無茶はしないさ。援軍が来るまで、何とか保たせるつもりだ」
「わかった!」
長話をする愚を悟ったのか、ヨルンは素早く頷いて身を翻した。
「すぐに戻るからなっ。迂闊に飛びかかってくれるなよっ」
「こらっ。だから、主君に何という口の利き方を――」
ギリアムが注意した時には、もうヨルンは猛ダッシュで橋を駆け戻り、城内へ入っていた。あの調子なら、そう待たずに援軍が来るだろう。
なんたって、この城は魔族の本拠なんだからな! さすがに俺達もここで全滅はないだろうさ。それじゃ、俺が余りに可哀想過ぎる。
いささか元気を取り戻し、俺はまたレイバーグの方へ向き直った。
「よしっ、気は進まないが、ここはあの上官の加勢をして時間稼ぎを――」
言いかけた俺は、そのまま語尾を切って唖然と前方を見た
いや……なんかもう、四人しか残ってないんだけど。
「化け物かよ、おい」
まさに、「三分も経たずにかっ」と喚きたくなる場面である。
「だから、逃げようって言ったの」
ネージュが困ったように返す。
「あたし前に最前線で、彼の獅子奮迅の戦いぶりを見たことがあるのよ。さすがのあたしも、彼を敵に回すのは遠慮したいかも」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろっ」
しゃべってる間にまた二人が連続で斬られ、俺は慌てて刀を抜いた。
もはやグレイルと残り一名は、最初の高言も忘れて俺達の方へ遁走しようとしているのだが、レイバーグが追いすがろうとしている。
「貴様だけは、許す気はない!」
きっぱりと宣言して、青白く光る長い刀を振り上げる。薄闇の中に、その魔法付与の光がやけに眩しく見えた。
「おい待てっ。もう勝負は――」
俺が喚いた途端、レイバーグはこちらをちらっと見て、叱声を迸らせた。
「ドラゴンバスターっ」
声と同時に、また奴の姿がその場からふっと消えた。ごおっという風切り音が一瞬して、次の瞬間、グレイルの巨体とその手下が、二人揃ってその場に凝固する。
彼らはびっくりしたような顔で口を半開きにし、虚空を見つめていた。
半秒ほどの間を置き、二人の身体が胸の少し下辺りでゆっくりとズレて行き、そのままばらけて倒れた……きっちり四つの肉片に分かれて。
俺の頬を、今度は突風に等しい風が吹き抜けていく。同時に、背後に無数の影を従えたレイバーグの痩身が、彼らを追い越して俺達の前方で足を止めた。
……分身の術かよ、おい。
もちろん違うんだろうが、そう見えちまったぞ。
あまりにも現実離れした技を見せられたせいか、俺はもちろん、ギリアム達も誰一人として物音一つ立てなかった。
俺達が馬鹿みたいに見守る中、レイバーグは前傾姿勢からゆっくりと直立状態に戻り、振り切った刀をすっと戻す。
そのまま、また元の姿勢に戻った。つまり、だらりと刀を下段に構えた姿に。
初めて覗き込むこいつの黒い瞳は、なぜかひどく哀しそうに見える。その瞳が、真っ直ぐに俺を見ていた。
「さっき聞いたばかりだが、君はジェイル達を助けようとしてくれたらしいな」
レイバーグは静かに囁く。
「できれば殺したくないし、傷つけたくもない。まだここから立ち去るわけにはいかないが、放っておいてくれれば、すぐに城から退去するつもりだ。君も、今は僕らを見逃してくれないか?」
そう思うなら、そのまま逃げればいいだろうに、なぜかそんなことを言う。
「あ、それは賛成したいかも……あたしの代わりに、あいつを倒してくれちゃったし」
ネージュが自分勝手なことを言ってくれた。
いや、気持ちはわかるんだけど、俺が見逃していいわけないだろっ。
そう諭しかけた俺は、レイバーグのずっと背後で、ジェイルとセシールがしきりに合図しているのに気付いた。え~、あれは人差し指を口元に持っていってる?
しばらく首を傾げて考え、俺は気付いた。
そういや、レイバーグはまだ、俺の名前とか知らないんだっけか? グレイルも俺も、別に名前出してないしな。仲間内で呼ばれた時は、近くにいなかったし。どこであの集団に紛れ込んでいたのか知らんけど、可能性はある。
――そ、そうか、うんうん。
俺は内心で何度も頷く。まあレイバーグとの戦いは避けられないにせよ、別にわざわざ燃料投下するこたぁないよな。タダでさえ、こいつは俺を恨んでるみたいだし。
そうだよ! ここは一つ、余計な恨みは抜きにして、神経を高ぶらせず、人を思いやる気持ちも忘れずに、そおっと戦ってもらうということで。
……と、あくまでも匿名戦士で通そうと思ったその時、人の涙ぐましい思いを台無しにする声がした。
「ナオヤっ、まだ生きてるんでしょうねっ!?」
悲鳴のような声がして、駆け寄る足音……遅れて来たエルザである。
燃料投下、来ました!
俺はマジで脱力して、その場にへたり込みかけた。やっぱり美人は鬼門だったよ。
見ろ、レイバーグの顔つきが明らかに変わったぞ、くそっ。
伏線ミスってたの見つけて、その9を一部変更してます。申し訳ありません。
(お話の流れは何も変わってません)




