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望まぬ出会い――その10





 ――その10





「そ、そんなわけにもいかないだろ!」


 と言いつつ、俺は嫌な予感がしていた……しまくっていた。

 なぜなら、あの集団の中に魔法まで使って紛れ込んだヤツがいたとして、その意図は明らかだからだ。つまり、人質の救出以外に有り得ない。で、そんな敵地での超難しい救出が可能なヤツとなると、そこら辺にゴロゴロしているとは思えない。


 何が言いたいかというと――。

 ちょっと考えただけでもう全ての答えが、俺の乏しい知識の中にある「ある人物」を示しまくっていたんだが――でも、まさかと思いたいわな。

 だいたい、こんな出世街道の序盤で、それはないだろうと。


 ゲームで言えば、序盤のマップでいきなりラスボスクラスの敵と遭遇するようなモンだろ。理不尽過ぎるっつーんだ。

 うん、やっぱりそれは無いだろ!

 最後に楽観論にて結論を出し、俺は思い切ってそちらを見る。





 ……うわ、今度はちょっと凄いぞ。これまでの樽おっさんとは大違いだ。

 男にしては長い前髪が、目の片方を覆うほどあり、その視線はあくまで鋭い。銀糸で飾られた裾の長い上衣姿で、手には青白く光る刀を引っさげていた。

 年齢は、多分、俺とそう変わらないはずだ。

 

 黒髪で黒い瞳なんで、そこも俺に似てるが……顔の彫りの深さとか、明らかに洋風である。ああ、もちろん俺は、あんな切れ者風のハンサムじゃないしな!

 そしてこいつも、黙って立ってるだけで、鳥肌が立つほどの迫力があった。こりゃ、初対面の時の魔王陛下と同じ威圧感だっ。

 ちくしょう、あの方に匹敵する化け物っていえば、益々嫌な予感が――。




「き、貴様は何ヤツだっ。いつの間に、エドモンドとすり替わっていた!?」


 今になってようやく、グレイルがガミガミと尋ねた。

 ところが、新手の少年はおっさんを見もしなかった。ただ、ジェイルとセシールに手を伸ばして、こう告げただけである。

「……無事で良かった。さあ、帰ろう」

 王族相手に、なんという気安い口調!

 そして、俺の嫌な予感が、次の瞬間に現実のものとなった。

 惚けたように彼を見ていた二人のうち、セシールが嬉しそうに叫んだのだ。


「レイバーグさまっ」


 しかも、まさにその喜びの声が合図だったかのように、兄妹の背後にいたグレイルの手下二人が、ゆっくりと傾いで倒れた。

 待ってましたとばかり、兄妹がレイバーグに駆け寄る。

 おいおい、手下はいつの間に斬られてたんだ? まるで気配も無かったのに。


 その瞬間、俺の脳内でベートーベンの交響曲第5番……あの有名な「運命」が大音響で響き渡ったね! 


 もちろん、最初のサビの部分だけだけど。

 ――よりにもよってここで、この魔王城でレイバーグかっ。

 あの、ドラゴンキラーの勇者で……しかも、俺を狙ってるとかいう……冗談キツ過ぎるだろ。

 無論、度肝を抜かれていたのは、何も俺ばかりではない。グレイルとその一行も同じである。


「れ、レイバーグだと!?」

「たった一人で戦況を引っ繰り返したこともあるという、あいつかっ」

「音に聞こえた、ルクレシオンの元傭兵!」


 生き残りの総勢が――え~、数えてまだ十五名もいた供の者が、全員びびって腰が引けていた。矜持きょうじがあるのか、さすがに表立って「勇者」と指摘するヤツはいないが、あれだけ怖じ気づいてたら、どう思ってるかはバレバレだ。

 まあ、今度ばかりは俺も人に言えんが。


「うろたえるな、愚か者共!」

 鈍いのか、全く応えてないグレイルが喚く。

「見よ、あいつは一人だぞ。それに比べて、こちらはまだ十五名もいるのだ。全員で一斉にかかれば、防げるはずはない」


「そ、そうですな」

「確かに!」


 主君にげきを飛ばされ、現金な手下達がたちまち生気を取り戻した。

 すぐさま三名ほどが腰の剣を抜き、レイバーグの前を塞ぐように、それぞれ構えた。




「少しだけ離れてて」

 レイバーグは兄妹を後ろへ下がらせると、改めて刀を下段に構えた。


「手を出さない方がいい……そう忠告しても、君達には無駄だろうな」


 いきなり傲慢なセリフに、三名は一瞬だけ狼狽した表情になった。しかし、自分達の背後で主君がやかましく「どうした!? レイバーグの首を獲れば、恩賞は思いのままだぞっ」などと焚きつけたせいか、互いに目配せして頷き、一斉に斬りかかった。


「ほざく――」

 真ん中の男の語尾が、ふっと途切れた。

 呆れたことに「ほざくな」と、一言喚くだけの時間もなかったらしい。というか、見ていた俺にしてからが、何が起こったのかは、正確にはわからなかった。

 一瞬、レイバーグの姿が元の位置からかき消え、あっと思った時にはもう正面の奴の首筋から血が噴き出していた。

「むおっ」

「くっ」

 慌ててレイバーグに向き直ろうとする左右の二人は、直後にきっちり真ん中の奴とほぼ同じ運命を辿った。

 豪快に横薙よこなぎにされた刀で、首筋を襲われて一人が仰け反り、最後の一人は返す刀で胸を袈裟けさりに斬られてその場でくずおれていく……まだ、向き直りさえしてなかったのに。


 しかもその直後、俺は頬に微かな風を感じた……嘘のような話だが、レイバーグがあの三名に躍り込んだ時の疾走が、ここまで風を運んだらしい。

 

 正直、ネージュの意見に賛成したくなったね……そうもいかないのが辛いところだが。



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