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望まぬ出会い――その8



 

 ――その8

 



 これはヤバい……兄妹の貞操の危機かもしれん。

 

「俺達もすぐ戻るけど、ネージュとエルザにも連絡して、騒動の現場に来るように伝えてほしい!」

 俺は使いの者にそう頼むと、ミュウが横から口を出した。


「ダークプリンセスには報告しないのですか?」


「いやぁ、これは個人的な問題だし――」

 そう言いかけた俺は、ミュウの心配そうな顔を見て、気が差した。この子はもちろん、自分ではなく、俺のことを心配してくれているのだろう。

「あのさ……魔王陛下の親族とマヤ様は、どうやらあまり上手くいってないようなんだよ。だから、ここで臣下の俺の騒動に巻き込まれると、あのお方はますます立場を悪くする恐れがある。こういう時だからこそ、俺の独断で動いてるってことにしとかないと」

 一応、ちゃんと説明してあげた。

 もっとも、理由はそれだけじゃないけどな。いちいち、マヤ様に泣きつくのはご免だってのも、理由の一つではあるんだ。

 ……どのみち、ミュウにはちゃんと伝わったと見え、彼女はそっと頷いてくれた。


「わかりました……ナオヤさんは、わたしがお守りします」


「いやいやっ。いざという時は自分優先で。――じゃあ、連絡頼むよ」

 そんな場合じゃないのに悪照れした俺は、手を振って使者を追い払った。

 多分、顔が真っ赤だっただろうな。






 嫌な予感に限って当たるもので、俺達が駆け戻った時には、既に遅かった。

 王宮三階の俺の私室前では、黄色い髪のヨルンが石廊下に倒れていて、ギリアムが抱き起こしているところだった。


「ギリアム、ヨルンっ」

「ナオヤ様っ、申し訳ありません」

 いつも冷静なギリアムが、今回は随分と悔しそうに述べた。

「グレイル様がご自分の郎党を十数名引き連れ、押しかけてきました。そこで止めようとした私を数名がかりで押さえつけ、ヨルンを殴り飛ばし、王女と王子を連れ去ってしまいました」

「そ、そうか――」

 気は急いたが、俺はとにかく、頬をらしたヨルンに尋ねた。

「大丈夫か!?」

「だ、大丈夫、大丈夫! ただ張り倒されただけだ」

 面目無さそうな顔で、ヨルンは何度も頷く。

「くっそ、あいつら『殺さないだけ、有り難く思え』とか吐かしやがってえっ」

 憤懣ふんまんやるかたない口調で、ヨルンが声を絞り出す。普段は陽気なヤツなのに、今回はよほど腹に据えかねたらしい。

「面目次第もございません」

 ギリアムが押し殺した声でまた謝った。

「私がついていながら、この有様で――」


「そんなことより、これからどうするかでしょ」


 りんとした声に振り向けば、連絡を受けたのか、ちょうどネージュが駆け寄ってきたところだった。さすがに今日は、初対面の時のように悪戯っぽい笑顔は見せていない。しかも、レオタードプラスミニスカートみたいな格好のくせに、腰にはレイピアみたいな銀色の剣を吊っていた。



「どうするもこうするも……ネージュは、もう準備してるじゃないか」

 俺は一瞬だけ廊下の天井を仰ぎ、嘆息した。

 こりゃコトによると、悪運強く生き残ってきたのも、これまでか。それでもまあ――短かかったけど、いい夢見られたよなぁ。

 俺は内心で覚悟を決め、ギリアムに尋ねた。


「……グレイルはどこにいる?」


「あたしが案内してあげるっ」

 ネージュが嬉しそうに口を挟んだ。

 つか、なんでこの人、笑ってんだ?

「あいつはね、王宮の別棟に住んでるのよ。今から追いかければ、少なくとも二人の貞操の危機は救えるかもしれない」

 ついにあいつ呼ばわりだし!

 まあ、俺が文句言う筋合いじゃないけど。

「よしっ。なら、すぐに追いかけようっ」

『はいっ』

 俺が立ち上がると、皆、声を揃えて応えてくれた。

 今回、エルザは間に合いそうにないが……むしろ、その方がいいかもな。





 いつも南門の側しか見てなかった俺は、よく知らなかったが――。

 広大な魔王城には、空中歩道と呼ばれる大がかりな橋で結ばれた、小型の別棟があるらしい。ビルで言えばツインタワーみたいなものだが、ただしこの場合、その別棟は魔王城の本体と比べ、二回りほど小さい。

 そんな小型の王宮が、城の北側に空中歩道で結ばれ、建っているわけだ。

 そこには、魔王陛下の親族や血筋関係でも、特に大物ばかりが揃って入ってるらしい。本来の意図は、外敵が侵攻してきた時に、まずは魔王陛下の身内がこぞってこれに立ち向かう――というものであり、それで王宮のすぐ隣に建設されているそうな。


 つまり、籠城時には敵の攻撃を真っ先に引き受ける場所なわけだ。

 しかし……グレイルみたいなヤツの話を聞くと、陛下は単に、「うざい身内を外に放り出したつもり」じゃないかと邪推じゃすいしたくなる。

 


 自分の刀を腰にぶち込んだ俺は、王宮の階段を駆け上がりながら、そんなことを考えていた。

 とういのも、その空中歩道とやらが王宮の四階とその別棟の四階を結んでるそうなのだな……そんなこともあって、空中歩道と呼ばれるらしい。

 そして、四階に出て軽やかに前を走るネージュの案内で、俺達は空中歩道と呼ばれる場所に着いた。廊下の突き当たりに両開きのドアが開いている場所があり、その向こうにローマの水道橋みたいな石橋が真っ直ぐ延びていた。


 もちろん、アレとちがってちゃんと欄干らんかんがあり、数名くらいは横に並べる広さもある。うへぇ、こりゃ思ったより規模がデカいや。


「いたわっ」


 空中歩道に出た途端、ネージュが急停止して、叫ぶ。

 彼女が指差す先に、黒い影がいくつも見えた。





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