望まぬ出会い――その6
――その6
二人を引き取ったものの、特に移動させる場所にアテがあったわけではない。
従って俺は、二人を自分の部屋にご招待することにした。処分がどうなるかはまだわからないが、とにかく魔王陛下の裁定が下るまでは、身近なここで休んでもらおうと、そう思ったわけだ。
幸い、新たに移ったここは部屋数も多く、兄妹一部屋で数えればまだ何とかなる。
ただ、魔王陛下はどうも俺とマヤ様を交えた歓談の後、またこの王宮――つまり、皆が魔王城と呼ぶこの城を、留守にしているのだな。
陛下に関しては、そもそも一年を通じて、城に居る方が少ないらしい。
あちこちの戦線で魔族軍が押され気味のせいか、あのお方が出向かないとどうにもならないことが多いとか。
早い話が、劣勢の魔族軍をあのお方の個人的な力で、何とか支えているようなものだ。
それでも俺は一応、マヤ様に報告すると同時に陛下にも、「捕らえた王子と王女については、ナオヤが預かってます」と使者を出しておいたし、その点が問題になるとは思えない。
それに陛下も、今回はそう長く留守にはしないようだ。
ただ、気になること……というか、嫌な話もちょっと俺の耳に入った。
これは、新参の臣下であるネージュが持ち込んできた噂話で、以下のようなものである。
「かつての上官の戦士将グレイルが、ナオヤがかくまってる王女と王子を狙ってるらしいのよ」
このあっけらかんとした言い方に当初は驚いたが……よくよく話を聞いて得心がいった。
どうも戦士将グレイルは、むかーしから、美人の奴隷が入るとつまみ食い……早い話が押し倒してやっちゃっていたらしいのだな。
しかもこのおっさん、どうやら少女も少年も、両方イケるクチらしい。
最初から最悪を想像していた俺にしてからが「うぇえええ」と思ったくらいで、ちょうどその場にいたジェイルとセシールは、それこそ見る見る青ざめちまったほどだ。
「じょ、冗談じゃないぞ」
美少年王子のジェイルは、吐き捨てるように言ったが、あいにく冗談ごとではあるまい。
ちなみに、セシールの方は既に口を利く余裕すらも失せて、震えている。
「まあ、ナオヤはダークプリンセスの直臣だから、そう簡単にちょっかいはかけて来ないと思うけど、あたしの経験上、油断はできないわ。まだ具体的な行動には出してないけど、近々必ず横槍を入れて来ると思うわよ」
ネージュは大真面目な顔で、実に有り難くない予言をしてくれた。
そのことも多少は関係あるかもしれないが、それから数日も経つと、さすがに警戒心たっぷりだった王族兄妹も、俺に少しずつ心を開いてくれた。
一つには、俺が自由以外の便宜はなるべく図ってやり、風呂にもこっそり入れてやったりしたためかもしれない。
おまけにミュウは礼儀正しいし、これで敵意満載の警戒心が継続するようなら、よほどへそ曲がりと言わざるを得ない。幸い、彼らはそうではなかった。
まず、妹のセシールが俺に懐いてくれるようになり、そのうち、兄のジェイルの方も俺に過剰な警戒心は見せなくなった。
さらに数日を経る頃には、食事を共にした後、皆で談笑するほどになっていた。
しまいには「臣下じゃないんだから、僕らに敬語はいらないよ」とまで言ってくれるほどになったね!
で、そんなある日の夜、頃はよしとばかりに、俺は自ら尋ねてみた。なにせ、それまではそんな突っ込んだ話ができる状態じゃなかったからな。
あと、そろそろ俺もまた戦に出ないといけないから、もうあまり時間もなかったんだ。
「ところでさー、ジェイル」
リビングのテーブルで、ミュウが淹れてくれた食後の紅茶を飲みつつ、俺はさりげなく持ちかけた。
「初対面の頃に君が洩らしてたけど、俺が消されるってのは、どういうこと?」
人がせっかく何気なく尋ねたのに、兄妹は二人揃って綺麗に動きを止めた。
兄はパンをちぎり取る手を止め、妹は優雅にカップを運ぶ手を止め、兄妹でじいっと俺を見ている。特にセシールの視線たるや、まさに「ああっ! このおにいちゃんって、もうすぐ死んじゃうのね」と言わんばかりの哀れみを込めた目つきで、俺を憮然とさせるのに十分だった。
というか、給仕をしていたミュウまで、わざわざ席について二人に注目したほどだ。
「なんだよー、その死刑囚を見るような目つき。すげー不安になるんだけど!」
「まったくです」
ミュウも賛同してくれた。
「あ、すまなかった……別にそんなつもりはないよ」
ジェイルは慌てて俺を慰めたが、もう遅い。
俺が無言で促すと、やっと詳しく説明してくれた。
「消されるという言い方は正確じゃないかもしれないけど、君が父上と……さらにもっとやっかいな相手から恨まれているのは事実なんだ。だからこそ、思わず口に出たのさ」
俺と年齢も近いジェイルは、実にざっくらばんに教えてくれた。
「父上って、帝国の王様? なんでまた、俺みたいな下っ端を?」
「ナオヤさまは、ダークプリンセスの誘拐を阻止しましたわ」
今度は妹のセシールが一生懸命に説明してくれた。
「父上にとっては許しがたいことのようで、大変お怒りでした」
「……と言われましても、臣下が主君を助けるのは、当然ですし」
俺は思わず敬語で答えてしまう。
相手が女の子でしかも王族となると、どうもこうなめらかに話せないのだな。所詮は、元ボッチである。せっかく物凄い美人がそばにいても、このていたらくだ。
「父上も問題だけど、さらに大きな問題があるよ」
駄目押しのごとく、ジェイルが不吉なことを言いやがった。
「父上だって、ナオヤが言ったような理屈はわかってるし、元々、倒されたリグルスとも上手くいってたとは言えない。だから、そのうち怒りも収まるかもしれない。……けど、決して忘れそうにない人物がいる。一番の問題は、彼なんだよ」
「というと、誰?」
鈍い俺は、まだそんなこと言って首を傾げていた。
大変、おめでたいと言わざるを得ない。
言いにくそうな兄妹に代わり、ミュウが脇から教えてくれた。
「あの……確かナオヤさんが倒したリグルスという人は、あのレイバーグの元仲間だったはずでは?」
「――う、うわあっ」
全くそのことを忘れていた俺は、思わずその場で頭を抱えた。
まさか……勇者レイバーグが俺を狙ってるってか!
勘弁してくれっ。




