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望まぬ出会い――その5




 ――その5




 しばらくぶりの出荷場は、相変わらず人いきれで蒸していた。

 夏が近いから、というのではない。

 場所的に年がら年中、汗の臭いと奴隷の体臭が混じり合ったような臭いに包まれ、汗ばむような湿気のある場所なのだ。


 そんな、来た瞬間に帰りたくなるような場所に、問題の二人はいた。

 しかも、別に出荷場の中の特別枠というわけでもなく、単に東の壁際に当たる隅っこに、隣同士で繋がれていた。

 当然、ちゃんと仕切りもあって、隣同士とはいえ、会話以上のことはできない。


 そして王女がまた、むちゃくちゃ可愛い子だった!

 長い銀髪にはシルクみたいな光沢があり、額の真ん中で分けてある。目はぱっちりと大きくて真っ青であり、着ている衣装はフリルやらレースやらの多い、完全なお姫様風の純白ドレスだった。

 あまりにも予想通りの王女様ルックなので、むしろ逆に驚いたよ!

 こんな凄まじく凡人離れした子、当たり前のように奴隷の仕切りに入れとくってのはどうなんだ。


「……うっ」

 なぜか、女の子が怯えたように身を引いた。

 既に涙目であり、肩まで震えている。というか、俺が来る前から散々泣いていたらしく、白い頬には涙の跡が幾筋も残っていた。

 これは傷つくな……俺、そう凶暴には見えないはずだけど。俺は慌てて、隣のギリアムから先に聞いておいた名前を出す。


「ああ、いやいや。俺、別に怪しい者じゃないですよ。ええと、セシール・ド・ルクレシオン殿下でいらっしゃいますか」


「……はい」

 俺の穏やかな声が功を奏したのか、一応、女の子は答えてくれた。

 どうでもいいが、首に付けられた鉄鎖の輪っかが痛々しい。SM系の薄い本じゃないんだから。

「どうも、臣下の者が失礼をしたようで。すぐに、お部屋の方に移って頂きますから」

「な、ナオヤ様!?」

 ギリアムが後ろでぎょっとした声を上げたが、俺は無視した。

 この子をここに置いとくのは駄目だろっ。


「待て、妹を何処いずこへ連れて行く気かっ」


 少年の声がして、俺はやっと思い出した。……そういや、王子もいたんだっけかな。妹のインパクトがでかすぎて、忘れてたけど。

 なぜか一緒についてきてるミュウの微妙な視線にも気付き、俺はゲホゲホと咳払いなどする。

 言い訳だけど、知らぬうちに中三になってるとはいえ、俺はあくまでもまだ中坊なんだよ。魔界じゃ、十三歳辺りからもう大人扱いだそうだけど、んな基準は知らん。

 ただの中坊に、公平無私とか期待するだけ無駄だ、無駄。俺だって女の子に目を奪われることもあるよ。


「あー、そうそう、王子さんね」

 それでも一応、わざとらしく明るい声を出し、女の子の隣を覗いた。

 ……わー、すっげぇ反抗的な目つきの、これまた銀髪の少年がいたぞ。見るからに育ちの良さが窺える美少年で、これもちょっとびっくりした。

 銀糸の飾り付きの黒スーツに、クラバット(ネクタイの先祖様らしい)まで胸元にある。それがまた恐ろしく似合っていた。

 血筋ってとんでもないな。兄妹で美形かい!

 

「妹に、セシールに手を出すな。この僕が許さないぞっ」


 胸を張って堂々と叱声を叩き付ける。

 ……奴隷にされてこんな生意気で大丈夫かと思ったが、頬が赤いところを見ると、既に誰かに張り飛ばされたらしい。

 それでも強がりは捨てないってのは、なかなか見上げた根性である。

 ……と思ったけど、よく見たら拳に固めた手が少し震えていた。

 俺はなるべく優しそうに見える笑顔を作り話しかけて――みる前にギリアムに訊いた。

「この方、なんて名前だったっけ?」

「先程も言いましたが、ジェイルですよ……十四歳だとか。妹の方は十三歳です」

「あ、王女様のスペックは覚えてる、うん」

「そ、そうですか」

 さすがのギリアムが少し呆れたように返す。


「妹の名前と年齢は覚えていて、僕は覚えてないというのは、どういうことだ!」


 ぷりぷり怒ったそのジェイルが、的確な突っ込みを入れやがった。

 しかもそばにいたミュウまで、タイミングよく頷くわけで。

「深い意味はないですっ。マヤ様と同じ年齢だから、忘れなかっただけっ」

 俺はきっぱりと言い切り、話を戻した。

「では、王子様と王女様のお二方共、今少しマシな部屋にお移り頂きましょう」

「騙されはしない」

 ジェイルが今にも殴りかかりそうな目で俺を見た。

「僕は近習から散々聞いてる。魔族は、人間の女の子を手込めにして」

 そこで少しどもった。

「に、にくどれいにするそうだな! おまえ、セシールを狙ってるなっ」


 ……随分と生々しい単語を口走るなぁ。でも、クソッタレの上官の中には、バレない状況なら、そんなことするヤツも確かにいるとは聞いたが。

 ただしだ、妹だけが危ないと心配するのは、まだまだ甘いぞ、少年。

 外見からして、おまえ自身も十分危ないね。もちろん、俺は興味ないけどな!


 それより、にーちゃんがなんか言う度に、そのセシールの方が怯えてしくしく泣いてる感じなのだ。このクソガキは空気読まないにもほどがある。

 めんどくさいので、さっさとコトを進めることにした。

「ギリアム、悪いけど、鎖を外してやって」

「わかりました、ナオヤ様」


「ナオヤですって」

「ナオヤだと!?」


 なぜか兄妹で声を合わせた。

「そうだけど、それがなにか?」

 俺が尋ねると、生意気兄貴の方がしげしげと俺を見て、首を振った。


「多分、おまえ……消されるぞ」


 なんだよそれっ。掲示板の書き込みじゃないぞ、おい!

 今度は俺がむっとする番だった。


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