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望まぬ出会い――その3



 ――その3




「は? ええと、聞き違いじゃなければ、俺の臣下に加えてほしいとか? もちろん、聞き間違いだと思いますけどっ」

「ううん、間違ってないわ。確かにあたしはそういったもの」


「いやしかし――」

 俺は両手をあわあわと動かし、何とか言葉を続ける。

「俺、まだ特等戦士に上がったばかりですよ?」

「わかってますとも」

 やたらときらきら光る目を細め、ネージュ様は楽しそうに言う。

「戦士長だった頃のあたしから見たら、ずーーっと下っ端の方になるわね……ふふっ」

「ふふって、わかってるならっ」

 俺は途中で気付き、ネージュ様を見返す。

「今、『戦士長だった頃』って言いましたか?」

 丁度そこへ、ノックの音と共にミュウがワゴンを押して戻ってきて、手際よく紅茶を並べてくれた。

 俺達は自然と押し黙り……ついでに言うと、ネージュ様はやたらと興味ありそうな目つきでミュウを観察していた。

 でもって、彼女が一礼して出て行った直後、いきなり身を乗り出す。


「あの子、もの凄い美形ね? もしかして、ナオヤの新しいメイドさんとか?」


「んな馬鹿な! そもそも、新しいも古いも、俺にメイドさんなんかいませんよ」

「どうして? 出世株だし、雇えばいいと思うわよ。君くらいの階級辺りから、みんなそうしてるしね。綺麗どころ集めて、どんちゃん騒ぎとか」

 いささか皮肉な声音で言われ、俺は眉根を寄せる。

 この人の意図が読めないが、今の話に結構インパクトあったのも事実である。

 そうなのか……みんな、メイドさんなんか雇ってんのか。なら俺もミニスカで胸がそこそこ大きい子を――て、違うだろっ。

 危うく夢想しそうになり、俺は頭を振る。


「妄想してたわね!」


 しかも(もう様付けをやめるが)ネージュが嬉しそうに指摘する始末である。

「か、からかわないで、事情を話してくださいよ。どういうことです?」

「あー、ごめん。あたし暗いの好きじゃないから、ついふざけちゃうけど、悪気はないのよ。ええと、これも別に冗談ごとじゃなくてね、実はあたし、戦士長の身分は返上してきたの」

「そりゃまた……なんで?」

「このままだと、どうせ未来がないから。あと、あたしって戦士将グレイルの臣下だったけど。――彼、このところ機会があればあたしを押し倒そうとしてるみたいなの。あの人にぜんっぜんっ気がないあたしとしては、そういうのは困るものね」


 一気に言われ、俺はまた顔をしかめた。

 またしてもパワハラか! ミュウの時もそうだったが、このパターン、多いな。

「な、なるほど……しかし、俺はそのグレイルって人は知らないですけど、そんな簡単に臣下から抜けていいんですか?」

「戦士将ほどの相手が主君となると、本当はかなり難しいけど、魔王陛下が許可すれば別。あたしは絶縁状叩き付ける前に、ちゃんと陛下にご相談したの。事情を余さず話したら、陛下はグレイルを見捨てていいって認めてくれたわ」


 それで呼び捨てですかい。

 いや、そういう話を聞くと、俺もあんまりそいつに敬語使いたくなくなるけど。

「一応、事情はわかりました……しかし、だからって一気に俺のところに来るのは、いくらなんでも身分低くなりすぎではと」


「ナオヤは、魔法使いってどう思う?」


 ネージュは突然、まるで関係ないことを聞いた。

 彼女が身を乗り出したお陰で、胸元の谷間がくっきり見えたりして、俺は慌てて目を逸らす。

「魔法使える人は尊敬の対象ですよ、使えない俺にとっては。当然じゃないですか」

「ふふ……それが当然じゃないのが、この魔界なのよ」

 嬉しそうにネージュが返す。

 ひどく機嫌よさそうに、黄金色の瞳を向けた。

「魔界では、魔法を使うのは卑しい女の役目、とかいう常識がまかり通ってるわ。もちろん、少し前まで仕えていたグレイルも、同じ考えだった。性欲まっしぐらプラス、そういう考えの人の下でやっていくのって、どう考えても未来がないと思わない?」

「それはわかりますが、今の俺は特等戦士なんですよ」

「わかってる。だけど、ダークプリンセスの直臣たる貴方には、無限の将来性がある――かもしれない。それに、いつかプリンセスの世が来れば、少なくとも今よりも魔法使いの地位は向上するかもしれないでしょう。もちろん、ナオヤの地位も」

 穏やかな顔で、ネージュは言う。


「最大の理由はね、貴方にはどうやら運があるようだわ……あたしはこれまで、能力があるのに運がなかったために非業の死を遂げた人を、何人も見てきた。自分自身が上がる可能性がない以上、せめて将来性があって運の強い人に賭けてみたいと思ったわけ」


「う、運が強い……ですかー」

 ボッチだった俺がありえねーと思ったが、口には出さなかった。

 ここへ召喚される以前はともかく、今は確かに悪運に恵まれている……こともあったかもしれない。少なくとも、ちょっとした判断を誤れば、もう死んでいたはずなのだから。

「それに」

 からかうような瞳でネージュが続ける。

「ナオヤは真面目そうだから、いきなり押し倒したりとかそっちの危険性は少ないみたいだし」

「ええっ」

 思わず俺が上げた声をどう勘違いしたのか、ネージュは小首を傾げて囁いた。


「先のことは……お互いにわからないけど。そうでしょう、ナオヤ?」


 ……その色っぽい目つき、やめてくれ。


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