望まぬ出会い――その1
――その1
なぜか俺の新しい部屋に集合していたギリアム達は、俺が戻った途端、大喜びで迎えてくれた。
城内の三階に位置する、日本式に言うと3LDKくらいの住処であり、俺が遠慮するのも構わず、マヤ様が与えてくれたのである。
でもって、ギリアム達は全員、ドアを開けたすぐのホールみたいな場所で固まって待っていた。
「無事に決着がついたとのこと、祝着にございます!」
いつの間にかこざっぱりとしたスーツに、びしっとオールバックに髪を撫でつけた彼は、心の底から喜んでくれているようで、大喜びしていた。
「決着の顛末については、つい先程、家中の者から聞きましたが、なによりの――」
言いかけ、俺の顔を見て眉根を寄せる。
「あの……何か、まずいことでもありましたか?」
「え? ああ、いや――」
まさか、歓談の後でどえらい話を聞かされたとも言えず、俺は慌ててぎこちない笑みを浮かべた。
「いやいや、まさか。むしろ、また一階級上げてくれた。マヤ様と魔王陛下の推薦で、今日から特等戦士だとよ」
ということは、正規戦士の一つ下だ。
まだまだ下っ端だが、そろそろ下士官くらいの立場……なのか? よくわからんが。
「おお、それはお早い出世で、おめでとうございますっ」
ギリアムがまた破顔して白い歯を見せた。
つくづく思うが、この人、某ファンタジー映画の悪役生徒を大人にしたような顔のくせに、根っこの部分はいい人だよな。
としみじみと和んでいた俺に、いきなり黙って聞いていたエルザが口を挟んだ。
「でもっ。その割にナオヤは、いつも以上に暗い顔してるわ!」
……いつも以上たぁなんだ、と俺がむっとするより先に、黄色い髪が派手に立ったヨルンまで追従した。
「うんうん。絶対、なんか嫌な話を聞かされた顔だよな」
俺に指までさしやがったぞ、こいつ。
……しかし、ここでみっともなく取り乱すとバレバレなので、俺はわざとらしく乾いた笑みを浮かべる。
「ははは……何を言うやら。僕ぁ、ケーキ食べて昇進の話を聞いただけで」
と言いかけたのだが、脇でじっと見つめるミュウの視線とかち合い、うっと詰まった。そういやこの子、嘘は一発で見抜くんだよな。
押し黙ってしまった俺に、ヨルンが駄目押しのごとく指摘する。
「もしかして、親子の信頼を得た結果、グリュンワルド家の秘密でも聞いたか?」
……俺は、だいぶ愚かしい顔でヨルンを見返したかもしれない。
俺が沈黙するのを見て、皆が一斉に顔を見合わせていたので、やっちゃった感が凄まじい。
ちなみに、グリュンワルド家とは、魔王陛下の家のことで……今のところ直系は陛下とマヤ様のお二人しかいないが、分家とかも含めるとそれこそ山のようにいるそうな。
でもって、魔王陛下のお名前はナダル・グリュンワルドという。
俺、やっと主君の主君の名前を覚えた!
……それより、今は皆の視線が無駄に熱心で嫌だ。
特に、すかさず「ひょっとして、プリンセスは実は陛下の娘じゃないとか、そんな熱いネタかぁあああ」とか満面の笑みで畳みかけるヨルンが、たまらん。
おまえ……そのうち冗談抜きでマヤ様に殺されるぞ、コラ。
普段から漫画の読み過ぎだろ。
「いやいや、そんな悲劇ネタじゃない。ていうか、もう誤魔化しきれないからあっさりバラすが、確かに陛下からちょっと重大な秘密は聞いた。でも悪いが」
とわくわく顔で口を開けたエルザとヨルンに、特に申し渡す。
「誰にも言わないと約束したんだ。だからこれは、内緒だな」
「えぇえええ」
「そりゃねーよなー」
「こらっ、なんという口の利き方だ!」
エルザやヨルン、それにギリアム達が騒ぐ声を聞き流しつつ、俺は(俺にとっての)ケーキ食べ放題会が終わった後の、陛下と二人だけの話を思い出していた。
あのお方は、わざわざマヤ様だけを先に去らせ、俺に直接、こう切り出したのだ。
「おまえの忠誠心は疑うべくもないようだ、ナオヤ。しかも、驚いたことにマヤもおまえが気に入っているらしい。我が娘と上手くやれる者は、ごくごく少ない」
陛下は目を細めてそう言われた。
「マヤに心強い味方ができたというのは、予にとっても嬉しいことだぞ」
「いえいえ、そんな」
とかモゴモゴと照れた俺に、陛下はいきなりずばり告げた。
「そこでナオヤ、予はおまえにだけは話しておこう……なぜ、ルクレシオン帝国の者共が、我が娘を狙ったのかを」
……もちろん、なにげに好奇心の強い俺は、陛下の話を聞いたさ。
ヨルンほどじゃないにせよ、「ここだけの話だが」ってのは、大好きだしな。
けど、聞いた後で思ったね……ああ、これは下っ端の俺が抱え込むには、重すぎる秘密だってさ。世の中、知らない方が幸せなことは確かにあるんだよ。
これよりひどい話となると、後はもう「マヤは実は男の娘である!」とかいうネタくらいしか思いつかんぞ。
もちろん、その手の秘密じゃなかったけど。
「あの……ナオヤ様」
ギリアムに話しかけられ、俺は目を瞬いて現実に戻った。
「あ、ごめん。考え事してた。どうかした?」
「はっ。申し遅れましたが、実は客人がナオヤ様にお会いしたいと」
「客人?」
俺は首を傾げた。
……異邦人の下っ端に、客人なんか来るのか?




