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俺が魔族軍で出世して、魔王の娘の心を射止める話(の予定)  作者: 遠野空
第四章 ダークプリンセス、魔王に喧嘩を売る
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ダークプリンセス、魔王に喧嘩を売る――その5




――その5





「お主らは知らぬのか。どのような命令違反であろうと、例外事項はある。『功績が罪をあがなう』というのがそれだ。ナオヤは誰よりも早く現場に駆けつけ、このマヤの誘拐を阻止した。その功績は罪を償い、なお余りあるものだぞっ」


「恐れながら姫様。……例外事項というのは、あくまでも『そういうことも有り得る』という付随条文に過ぎません。実際、これまでに命令無視をして適用された試しはありませぬ。……まあ、命令無視そのものが、めったにないことですが」

 ただし――とクロードとやらは小狡い顔で魔王陛下の方をちらっと見た。

「今この査問会には魔王陛下もご在席中です。ご意見をお伺いしましょう」

 すると、樽おっさんのクロード始め、この場にいる全員が魔王陛下に注目した。

 ……つか、俺はそもそも、まだ魔王陛下のお名前すら知らないのだな、これが。まあ、思いっきり下っ端なので、お顔を拝見したのも今が初めてなんだが。

 とにかく――陛下は平然と一同を見返し、ゆっくりと答えた……座ったまま。


「確かに、査問会で例外が認められた例はないな」


「左様、左様!」

 得たりとばかりにクロードとやがら頷く。

 こいつを始め、四人ともすげー嬉しそうだった。

「そもそも、異世界人の……しかも奴隷上がりの男に、主君の命令無視などが許されようはずがありません。それは引いては、全てを支配する魔王陛下を軽んずることと同義ですからな」


 わぁ……こいつは駄目だ、と俺は思ったね。

 いや、自分の死刑が確定しそうだからではない。それも無いとは言わんが、自慢にもならないけど俺は、向こうでボッチ生活送ってた時、何度も自殺を考えた元ネガティブ野郎である。

 だから、死刑と言われても他のヤツよりショックは少ない方だと思う。

 俺が真の意味で呆れたのは、クロード他三名の、陛下への醜い笑顔とおもねるような視線だ。


 こいつぁ典型的な、下に厳しく上にへつらうタイプの佞臣ねいしんだな。

 顔をしかめた俺に賛同するように、いきなりマヤ様が立ち上がった。

 ビシッとクロード達を指差し、ばっさり断言する。


「クロード、貴様達はとんだ食わせ物だ。査問委員は今年に入って全て交代したと聞くが、どうやらゴミに等しい能なしばかりが揃っていたようだな!」


 死刑確定の俺ですら青ざめるような激しい発言だった。

 じゃなくて、俺は本当に真っ青になった。いや、自分のせいでマヤ様の立場が悪くなったら、目も当てられないじゃないか。

 見れば、大馬鹿四人組も、信号機みたいに赤くなったり青くなったりしている。

 ヤバい臭いがぷんぷんするっ。


『あの、マヤ様? 少し加減を――』


 と囁き声で制止しかけた俺を、マヤ様はいきなり腕を掴んで立ち上がらせた。

「ちょっ!」

「見るがよいっ」

 慌てた俺の抗議を無視し、マヤ様はぐいっと俺の腰を抱いてこっちへ引き寄せる。それは普通、男がやるんじゃないかー。

 と思ったが、しなやかな身体に触れた途端、ぼおっとなった俺はそんなことどうでもよくなった。女の子耐性ゼロなんで、こういう時は思考が止まる。


 あと、このチャイナ服もどきは素晴らしいな。

 なんか素肌に触れてるのかと思うほど、ダイレクトに感触が――て、そんな場合じゃないか。

 またマヤ様が大喝した。


「このナオヤが機転を利かせて敵を追撃したお陰で、今マヤはこの場にいられるのだぞ? マヤの命を救った巨大な功績を、貴様達は無視しようと言うのか!」


 憤然と叫んだせいか、四人組はしかめっ面ながら、言い返しはしなかった。というか、微妙に仲間内で視線を交換し、「おまえがナントカ言えっ」とか責任押しつけあってるように見える。

 びびってる、びびってるぞ、こいつら……まあ、無理ないけど。

 相手が話にならないせいか、マヤ様は鼻息も荒く、今度は魔王陛下の方を見やる。


「父上はいかにお考えかっ。あえて、この大馬鹿共に審議を任せてしまうおつもりですか!」


 魔王陛下相手にも一歩も引かず、ぎらっと睨み据えた。

 なんという……男前の姫君。さすがは魔界のプリンセスだ。

 自分のことなのに、俺は感心しきって神々しい横顔に見とれていた……が、魔王陛下が初めて席を立ったので、慌てて視線を戻した。

 今や、陛下も穏やかな表情を消し、例の静かな迫力を感じさせる視線で娘を睨め付けている。


「では、逆に聞こうではないか……愛する娘よ」

 陛下は落ち着き払った声で問うた。

「それでも、予がそのナオヤを斬ると言えば、おまえはなんとする?」

 途端に、軍議の間に緊張が走った。

 親子を眺めて硬直中のおっさん四名は元より、マヤ様の感触に浸っていた俺も、さすがに我に返った。


 ヤバい、この人はシュンとして黙り込む人じゃない。

 絶対に言い返す、言い返すって!

 そう思ってまた袖を引きかけたのだが、あいにくマヤ様が爆弾落とす方が早かった。

 この方はまた、まっったく躊躇せずに顎を上げ、魔王陛下に向かって言い切ったのだ。

「ならば父上、以後、このマヤは父上の敵となりましょうぞ!」

 こ、これは本気だ。


「ちょ、ちょっと待ったあーーーっ」


 温厚な俺もさすがに怒鳴った。

 俺を無視して、いきなり親子で戦争始めるなって!


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