ダークプリンセス、魔王に喧嘩を売る――その5
――その5
「お主らは知らぬのか。どのような命令違反であろうと、例外事項はある。『功績が罪を償う』というのがそれだ。ナオヤは誰よりも早く現場に駆けつけ、このマヤの誘拐を阻止した。その功績は罪を償い、なお余りあるものだぞっ」
「恐れながら姫様。……例外事項というのは、あくまでも『そういうことも有り得る』という付随条文に過ぎません。実際、これまでに命令無視をして適用された試しはありませぬ。……まあ、命令無視そのものが、めったにないことですが」
ただし――とクロードとやらは小狡い顔で魔王陛下の方をちらっと見た。
「今この査問会には魔王陛下もご在席中です。ご意見をお伺いしましょう」
すると、樽おっさんのクロード始め、この場にいる全員が魔王陛下に注目した。
……つか、俺はそもそも、まだ魔王陛下のお名前すら知らないのだな、これが。まあ、思いっきり下っ端なので、お顔を拝見したのも今が初めてなんだが。
とにかく――陛下は平然と一同を見返し、ゆっくりと答えた……座ったまま。
「確かに、査問会で例外が認められた例はないな」
「左様、左様!」
得たりとばかりにクロードとやがら頷く。
こいつを始め、四人ともすげー嬉しそうだった。
「そもそも、異世界人の……しかも奴隷上がりの男に、主君の命令無視などが許されようはずがありません。それは引いては、全てを支配する魔王陛下を軽んずることと同義ですからな」
わぁ……こいつは駄目だ、と俺は思ったね。
いや、自分の死刑が確定しそうだからではない。それも無いとは言わんが、自慢にもならないけど俺は、向こうでボッチ生活送ってた時、何度も自殺を考えた元ネガティブ野郎である。
だから、死刑と言われても他のヤツよりショックは少ない方だと思う。
俺が真の意味で呆れたのは、クロード他三名の、陛下への醜い笑顔とおもねるような視線だ。
こいつぁ典型的な、下に厳しく上にへつらうタイプの佞臣だな。
顔をしかめた俺に賛同するように、いきなりマヤ様が立ち上がった。
ビシッとクロード達を指差し、ばっさり断言する。
「クロード、貴様達はとんだ食わせ物だ。査問委員は今年に入って全て交代したと聞くが、どうやらゴミに等しい能なしばかりが揃っていたようだな!」
死刑確定の俺ですら青ざめるような激しい発言だった。
じゃなくて、俺は本当に真っ青になった。いや、自分のせいでマヤ様の立場が悪くなったら、目も当てられないじゃないか。
見れば、大馬鹿四人組も、信号機みたいに赤くなったり青くなったりしている。
ヤバい臭いがぷんぷんするっ。
『あの、マヤ様? 少し加減を――』
と囁き声で制止しかけた俺を、マヤ様はいきなり腕を掴んで立ち上がらせた。
「ちょっ!」
「見るがよいっ」
慌てた俺の抗議を無視し、マヤ様はぐいっと俺の腰を抱いてこっちへ引き寄せる。それは普通、男がやるんじゃないかー。
と思ったが、しなやかな身体に触れた途端、ぼおっとなった俺はそんなことどうでもよくなった。女の子耐性ゼロなんで、こういう時は思考が止まる。
あと、このチャイナ服もどきは素晴らしいな。
なんか素肌に触れてるのかと思うほど、ダイレクトに感触が――て、そんな場合じゃないか。
またマヤ様が大喝した。
「このナオヤが機転を利かせて敵を追撃したお陰で、今マヤはこの場にいられるのだぞ? マヤの命を救った巨大な功績を、貴様達は無視しようと言うのか!」
憤然と叫んだせいか、四人組はしかめっ面ながら、言い返しはしなかった。というか、微妙に仲間内で視線を交換し、「おまえがナントカ言えっ」とか責任押しつけあってるように見える。
びびってる、びびってるぞ、こいつら……まあ、無理ないけど。
相手が話にならないせいか、マヤ様は鼻息も荒く、今度は魔王陛下の方を見やる。
「父上はいかにお考えかっ。あえて、この大馬鹿共に審議を任せてしまうおつもりですか!」
魔王陛下相手にも一歩も引かず、ぎらっと睨み据えた。
なんという……男前の姫君。さすがは魔界のプリンセスだ。
自分のことなのに、俺は感心しきって神々しい横顔に見とれていた……が、魔王陛下が初めて席を立ったので、慌てて視線を戻した。
今や、陛下も穏やかな表情を消し、例の静かな迫力を感じさせる視線で娘を睨め付けている。
「では、逆に聞こうではないか……愛する娘よ」
陛下は落ち着き払った声で問うた。
「それでも、予がそのナオヤを斬ると言えば、おまえはなんとする?」
途端に、軍議の間に緊張が走った。
親子を眺めて硬直中のおっさん四名は元より、マヤ様の感触に浸っていた俺も、さすがに我に返った。
ヤバい、この人はシュンとして黙り込む人じゃない。
絶対に言い返す、言い返すって!
そう思ってまた袖を引きかけたのだが、あいにくマヤ様が爆弾落とす方が早かった。
この方はまた、まっったく躊躇せずに顎を上げ、魔王陛下に向かって言い切ったのだ。
「ならば父上、以後、このマヤは父上の敵となりましょうぞ!」
こ、これは本気だ。
「ちょ、ちょっと待ったあーーーっ」
温厚な俺もさすがに怒鳴った。
俺を無視して、いきなり親子で戦争始めるなって!




