ダークプリンセス、魔王に喧嘩を売る――その4
――その4
俺は口を半開きにして、問題の美青年を見つめちまったね。
どう見たって父親って年齢には見えんのだが……しかし、そういや魔族の純血は歳を取るのが遅いって聞いた記憶があるな。
しかし……へぇえええ……あの方が魔王陛下か。
礼装した今の俺とそう違わない格好なのに、恐ろしいほどの存在感だな……おまけに、マヤ様と顔立ちが似てるし。
と思ったら、その魔王陛下がこちらを見た。何か、妙に熱心に俺を観察し、娘のマヤ様には目もくれない。不思議というか、真剣な薄赤い瞳が怖いくらいだ。
「あの……俺、なんで魔王陛下に注目されてるんでしょうか」
びびって思わずマヤ様に尋ねてしまった。
「注目? 父上はこっちなど見てないぞ。それより、そろそろ始まる。一応、話を聞いてる振りくらいはするがよい」
「は、はあ」
いや、見てるだろ……と思って俺が目を戻すと、魔王陛下は既に正面を向いていた。
あれ? いつの間に視線を逸らしたんだろ。
「今日は魔王陛下もお越し故、早めに開廷する!」
いきなり喚き声がして、俺はやっと正面を見た。
壇上を見れば、四人のうち一番太った樽みたいなおっさんが魔王陛下に低頭し、後の三名もそれに習っていた。もちろん、俺も慌てて頭を下げたさ。
「予のことは気にせずともよい」
すげー深みある渋い声で、魔王陛下が軽く右手を振った。
「本日の査問会は、いつもと多少事情が異なる。おそらく容易に片付くだろうから、少し見物させてもらおう」
「はっ」
樽おっさん達は再び恭しく低頭した。
どうも、黒いマント姿四名のうち、彼が一番の有力者らしい。
それはいいが、魔王陛下に言われた途端、いきなり俺を睨みやがった。というか、四人全員が俺を睨んでる感じだ。
まあ、魔王陛下と違って、こいつらが睨んでもあまり迫力がないが。
「いみじくも陛下が仰った通り、今回の査問会は容易に片付くであろう。……なにしろ、議論する余地もない命令違反だ。ナオヤ・マツウラ、念のために尋ねるが、命令違反に間違いはないか? 座したままでよい、答えよ」
「間違いありません」
俺は醒めた声であっさりと肯定した。
「ただし、俺の臣下達は全て俺の命令で任務から外れたので、彼らの罪は問わないようにお願いします」
途端に、樽おっさんを含め、四名全員が満足そうに頷いた。
「うむ。おまえの臣下の中には、なぜか名門クライン家の次期当主、ギリアム・クラインも含まれておるからな。犯した罪は罪として、その申し出は殊勝である。確かにおまえの一存だとわかれば、無論、彼らの罪は問わないぞ」
猫なで声が気になったが、俺としては大いにほっとした場面である。
よかったよかった……ヤツらに累が及ばないなら、文句はないさ。
「というわけで――」
樽おっさんがにこやかに告げた。
「査問会は以上だ。……罪状が明らかな上に、本人も罪を認めた。この上の審議は無用である。刑の執行は10日後とする。以上!」
えっ、もう決まり!?
俺は驚いたが、さらに驚いたのは、いきなり横にいたマヤ様が薄い机をぶっ叩いたことだ。元々が椅子に付属したおまけみたいなヤツなので、彼女の剛力のせいであっさりひびが入った。
「待つがよいっ、クロード!」
恐ろしい勢いで立ち上がると、樽おっさんに向かって叫んだ。
凛とした瞳とその叱声に、俺はびびりつつもほれぼれとしてしまった。いやぁ……戦女神みたいな人だな。
「このまま、事情も考慮せずにナオヤを斬首にしようというのかっ」
え゛……思わず喉が鳴った。
何も言わなかったけど、今のおっさんの言葉ってそういうことなのか!
「ダークプリンセス……いえ、姫様」
樽おっさんの横にいた、立派な髭をつけたおっさんが恭しく述べた。
「命令無視は死刑……この大原則は姫様もご存じのはず。そこなナオヤが罪を認めた以上、もはや何を議論しましょうや?」
「笑止!」
マヤ様がまた机をぶっ叩き、哀れ、薄い木の板は今度こそ粉々になった。




